ブラックホールとも中性子星とも言い切れない質量ギャップの天体

ブラックホール(Black Hole)と合体したのは重い中性子星(Neutron Star)か、それとも軽いブラックホールか?(Credit: LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))

重力波望遠鏡の登場により、ブラックホールや中性子星の合体にともなって放出された重力波がこれまでに何度も観測されています。今回、2019年8月に捉えられた重力波から、観測史上最も軽いブラックホールもしくは最も重い中性子星が検出されたとする研究成果が発表されています。

■ブラックホールと中性子星のあいだに横たわる質量ギャップを埋める存在

太陽の8倍以上重い恒星が超新星爆発を起こすと、ブラックホールや中性子星が誕生すると考えられています。ブラックホールの質量は太陽の5倍以上、中性子星の質量は太陽の2.5倍以下とされていますが、「質量ギャップ(mass gap)」と呼ばれる太陽質量の2.5~5倍の範囲については観測例がなく、ブラックホールと中性子星の境界には謎が残されていました。

日本時間2019年8月15日朝、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」と欧州の「Virgo」は、連星の合体にともなって放出されたとみられる重力波「GW190814」を検出しました。合体した天体の質量は、太陽の約23倍および約2.6倍とされています。

重いほうの天体はブラックホールとみられていますが、問題は軽いほうの天体でした。太陽の2.6倍という質量は前述の質量ギャップに位置しており、ブラックホールとも中性子星とも言い切れません。GW190814の研究に参加したVicky Kalogera氏(ノースウエスタン大学)は「ブラックホールなのか、それとも中性子星なのかはわかりませんが、どちらにしても記録が更新されます」と語ります。

重力波GW190814を放出した連星の合体を描いたイメージ図。軽いほうの天体はブラックホールとして描かれている(Credit: N. Fischer, S. Ossokine, H. Pfeiffer, A. Buonanno (Max Planck Institute for Gravitational Physics), Simulating eXtreme Spacetimes (SXS) Collaboration.)

2年前の2017年8月に検出された重力波「GW170817」は中性子星どうしの合体にともなう爆発現象「キロノバ」を伴っており、可視光をはじめさまざまな波長で追加観測が行われました。GW190814でも検出後ただちに対応する天体の捜索が行われましたが、該当するものは見つからなかったといいます。

重力波以外で観測できなかった理由として、GW190814はGW170817よりも6倍ほど遠いおよそ7億8000万光年先で発生したとみられることや、ブラックホールどうしの合体は光(人の目に見えない波長も含む)では見えない可能性があげられています。また、Kalogera氏はゲームの「パックマン」に例えながら、軽いほう天体が中性子星だったとしても、9倍重いブラックホールに丸呑みされてしまったことで光では観測できなかった可能性に触れています。

研究に参加したCharlie Hoy氏(カーディフ大学)が「これはほんの始まりにすぎません」と言及するように、質量ギャップにあたるブラックホールもしくは中性子星の存在は明らかになったばかりです。同じく研究に参加したPatrick Brady氏(ウィスコンシン大学ミルウォーキー校)は「観測能力が限られていたことが原因で、質量ギャップが存在すると思われていただけなのかもしれません。時間とより多くの観測が教えてくれるでしょう」とコメントしています。

Image Credit: N. Fischer, S. Ossokine, H. Pfeiffer, A. Buonanno (Max Planck Institute for Gravitational Physics), Simulating eXtreme Spacetimes (SXS) Collaboration.
Source: LIGO / Virgo / AEI
文/松村武宏

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