<いまを生きる 長崎コロナ禍> 10万円給付金「遠い話」 長崎の路上生活者 住民登録が壁 「自立の足掛かりにできれば」

 新型コロナウイルス感染症の緊急経済対策として国民に「1人10万円」が配られる特別定額給付金を巡り、路上生活者(ホームレス)への給付はどうなっているのか。給付の対象は「4月27日時点で住民基本台帳に記録されている者」(総務省ホームページ)。長崎市内で路上生活をする70代女性は「住民登録がない自分にとって、ありがたい給付金も遠い話に聞こえる」とこぼす。
 6月26日午後9時半すぎ、長崎市内のアーケードの一角。「長崎ホームレスを支援する会」(井手義美会長)のメンバーが生活困窮者約10人に手作り弁当を配っていた。
 「どうもありがとう」。弁当を恐縮気味に受け取る女性(72)は住む家がないホームレスで、同会の支援対象者の1人。女性は弁当を手にしメンバーと会話を交わすわずかな時間を「集い」と呼ぶ。「集いで知り合いが増えたし、毎週の楽しみ」と笑顔を交えながら話した。

弁当を手にする生活困窮者。住民登録がないホームレスにとって、給付金を受け取る壁は高い=6月26日、長崎市内

 女性がホームレスとなり2年がたった。元々は飲食店などで働き、10年前に職を失った。その後は貯金を切り崩しながらアパートを借りて生活していたが、長くは持たなかった。今は週の半分ほどを屋外の公衆トイレや公園で過ごしている。知り合いの部屋に身を寄せることもある。
 携帯電話はなく、情報源は日中に立ち寄る店舗などに置かれたテレビや新聞。春ごろは新型コロナ禍のことを知らず、マスクを着用している人の多さや人通りの少なさを不思議に感じていた。
 給付金のことは先月、知人から聞いた。だが、肝心の住民登録がない。「住民票はもしかしたら故郷の五島に戻っているかも。よく分からん」。今は同会の支援を受け、家を探しながら生活保護の申請を検討しているという。
 県市町村課によると、住民登録がない場合、自立支援センターで住民登録が可能で、各自治体が当事者の生活実態を細かく調べ、「生活の本拠」と判断できれば登録できるという。インターネットカフェの利用客が店と長期利用契約があり、店舗側が同意して住所地として認定されるケースもあるという。
 長崎市では6月26日現在、確認済みの給付金申請件数は19万6502件。うち19万3547件の給付が完了している。同市特別定額給付金室によると、これまでホームレス当事者に支給した事例は確認できていない。担当者は「支給の前提条件として住民登録が必要。国民一律で配られるものなので、なるべく1人でも多くの人に配れるよう周知に努める」と話す。同市は今後、ホームレスの支援団体と連携して支給に向けた実態把握に取り組むという。
 給付金の申請期限は8月20日。残る時間はそう長くない。
 「自分が給付金をもらうことは、みっともない話とは思う。それでも10万円もらえればありがたいのが本音。もし入った場合は家賃に使う。なんとか自立の足掛かりにできれば」。女性は少しだけ声を弾ませ、そう語った。

 


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