熊本の「馬食文化」守りたい コロナで需要減、国支援乏しく

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県庁の特設売り場で、購入客(左)に商品を手渡す馬肉生産業者ら=19日、熊本市
県内の牧場で肥育されている肉用馬=御船町
新型コロナ対策の「馬肉レシピコンテスト」を紹介するインターネット画面

 生産量日本一で、熊本の食文化を代表する馬肉の需要が、新型コロナウイルスによる観光客減少や外食離れの影響で低迷している。牛や豚などほかの畜産物に比べて国の支援策が手薄という事情もあり、県内の事業者と自治体は「馬食文化」の存続に向けて二人三脚の取り組みを進めている。

 19日、県庁地下に特設売り場が設けられ、馬肉生産業者らがマスク姿の県職員に次々と商品を手渡した。馬の繁殖から肥育まで一貫生産を手掛ける古閑牧場(熊本市東区)の古閑清和社長(59)は「業界を支援してくれて本当にありがたい」としみじみ語る。「コロナで売り上げが激減し、どの業者にとっても死活問題だ。少しでも多くの人に馬肉に目を向けてほしい」

 約60社でつくる「県馬刺し安全・安心推進協議会」によると、県内の馬の食肉処理頭数は4月に209頭で、昨年同月に比べ43%減少した。馬肉の大半は外食向けで、コロナ禍による外出自粛の影響が鮮明だ。

 県産の年間処理頭数は約4千頭(2018年)と全国の4割を占めるが、リーマン・ショック(08年)や牛ユッケ食中毒事件(11年)などが打撃となり、この15年間で半減した。国内で馬食文化があるのは熊本や長野など一部にとどまり、市場規模は牛、豚、鶏に遠く及ばない。

 こうした背景から、補助金など国の支援が乏しい上、肉用牛や豚のように、販売価格が生産費を下回った場合に差額の一部が補てんされる経営安定対策(マルキン)制度も存在しない。「馬が第4の畜産物として牛などに肩を並べるのは到底無理。だからコロナ禍でも、馬肉業界を対象にした国の支援策は設けられていない」と宮村牧場(同市中央区)の宮村明社長(72)。

 このため業者にとっては、県や市町村の独自支援策が頼りだ。県は5月、馬肉の冷凍保管料や販売促進費を助成する追加予算を決定した。「反転攻勢の時まで、馬の出荷から食肉処理、加工へと続く業界の流れを滞らせない」と県畜産課。

 熊本市は「安全・安心推進協議会」と共催で、馬肉を使った料理のレシピコンテストを実施中。馬刺し以外の食べ方も多くの人に提案してもらい、家庭での消費を促す狙いだ。

 馬肉は、需要が減った農林水産物を学校給食で提供する国の支援事業からも外れたが、御船町は毎月1回、給食の献立に馬肉を盛り込んで地元生産者を後押ししている。

 こうした自治体の支援に、古閑牧場の古閑社長は「熊本一の名物と自負する馬肉を県民と一緒に守っていく」と力を込める。(福山聡一郎)

家庭消費の伸び期待 県馬刺し安全・安心推進協議会 藤本健副会長(38)

-コロナ流行後の自社(フジチク)の販売状況はどうですか。

 「わが社は肉用の馬約千頭を肥育し、馬肉生産のほか小売店や焼き肉店も経営している。売上高は前年比6割減と非常に厳しい」

 -一番の懸念は何ですか。

 「コロナ禍を機に『馬食文化』が縮小してしまうことだ。消費が落ち込むと、肥育する馬の仕入れ頭数を減らさざるを得ない。すると、販売先を失った小規模農家の廃業につながる。牛などに比べて農家の数が少ないため、需要が回復した時に仕入れを増やそうとしても、馬肉の生産サイクルが元通りにならない恐れがある」

 -協議会は今月から、熊本市と馬肉レシピをSNS(会員制交流サイト)で募る賞品付き企画を始めました。

 「馬肉は県外客の消費が多い。県境をまたぐ移動が解除されたが、直ちにコロナ以前の状態に戻るとは考えにくい。馬肉には馬刺し以外にもおいしい食べ方があり、家庭での消費が伸びることを期待したい」