株価下落は相場の「ガス抜き」、2020年後半どう向かうのか

6月の世界の株式市場は、新型コロナの感染拡大一服とそれを受けた経済活動の再開を好感するかたちで、月前半は堅調に推移しました。ナスダック総合指数が最高値を更新するとともに、その他の主要な株価指数も年初の水準に迫る場面が見られました。

しかし、そうした好調な株価推移に水を差すかたちとなったのが6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)です。米金融当局が慎重な景気見通しを示したことが嫌気され、株価は急落しました。市場参加者の間で、「二番底形成」への不安が高まったことは否定できません。


あくまでも前向きな投資スタンスで

ただ、4月以降のグローバル株式市場では、急ピッチでの株価上昇が続いていたため、今回の調整は行き過ぎた楽観の揺り戻しと解釈できます。あくまでも想定の範囲内で起きた相場の「ガス抜き」と考えれば、相場への見方は不変で、年末に向けた株高シナリオは依然、有効と判断されます。

感染第2波への懸念はくすぶるものの、逆に期待以上に景気が回復に向かうことによって、むしろ、相場想定を一部切り上げる必要性すら感じています。

7月からは暦年ベースで見た年の後半戦に入ります。7月中旬以降は、4〜6月期の決算発表が控え、そこでの結果に、市場参加者が一喜一憂する展開も想定されます。

加えて、米国での人種差別問題や、米中間の対立、東アジアの地政学リスクの高まりなど、相場の不安定化要因の存在によって、目先の株価が伸び悩む場面もあるかもしれません。

しかし、今後予想される経済の復活は、そうした不安に勝るだけの株価押し上げ効果を発揮すると期待されます。当面は「慎重」と「楽観」の間で揺れ動く環境下で、適度なバランス感覚が求められそうですが、年末に向けた株高を前提に、あくまでも前向きな投資スタンスで臨みたいところです。

米FRBは低金利の長期化も示唆

6月前半の米国株は、ナスダック総合指数が最高値を更新するなど、極めて堅調な推移を見せていました。6月5日に発表された5月分の雇用統計が、市場の予想を大きく上回る結果となったことも、株価上昇に弾みをつけたと考えられます。

その結果、S&P500の予想PER(12ヵ月先予想ベース)は、一時23倍前後に達しました。低金利によって正当化されたバリュエーションの上昇ではあるものの、ITバブル期以来となる水準に警戒感を強める動きも少なくなかったとみられます。

相場上昇に懐疑的な見方を持つ投資家にとっては、6月FOMCでFRB(米連邦準備理事会)が示した見通しはうってつけの売りの口実になったと考えられます。そこではFRBの景気想定が予想以上に保守的で、長期の景気低迷を前提にしていることが明らかになったからです。

ただ、それは冷静に見れば、FRBが長期にわたって金融緩和を継続させるという意思表明とも受け止められ、一概にネガティブとは言い切れません。それゆえに、「口実」なのです。

米国の大規模な金融・財政政策

これまでの米国政府・金融当局による新型コロナ対策は十分、及第点に値するものと考えられます。金融政策の面では4兆ドル規模の金融緩和策を打ち出し、信用収縮を未然に防ぐことに成功しています。

また、財政支出を含む景気刺激策の面でも家計や企業の資金繰りを支援することなどで、一定の成果を挙げていると判断されます。

そうした一連の対応の結果として、景気の歯車を回す雇用環境は、少しずつ正常化に向かって動き始めています。6月第3週分の新規失業保険申請件数は148万件と、12週連続で減少しました。着実なペースでの雇用回復には引き続き期待が持てそうで、それが景気回復の起点となります。

5月の小売売上高は前月比+17.7%と、過去最大の伸び率を記録しました(前年同月比では▲6.1%)。株価上昇が消費マインドにプラスに作用した点もさることながら、所得面で各種の政策が家計を強力にバックアップした効果が大きかったと推察されます。

4月の米家計の貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄の割合)は、過去最高となる33.0%に達しました。政府の支援で可処分所得が増えたにもかかわらず、貯蓄率が上昇したのは、外出制限などによって、家計の支出が抑制されたことが背景にあります。

外出制限が緩和され始めた5月の小売売上の好調は、抑圧された消費行動の反動といえるでしょう。段階的に行動制限が緩和されている現状を踏まえれば、個人消費の拡大余地は大きいと考えられます。

また、直近では、一部のメディアが「トランプ政権が第4弾となる景気刺激策導入の準備に入った」と伝えました。その内容は1兆ドル規模のインフラ投資計画で、道路や橋など従来型のインフラ整備のほか、5G移動通信インフラなどにも資金が振り向けられるとのことです。

草案のタイミングや財源など不明な部分が多く、実現性も定かではありませんが、このような期待の存在がマーケットを支えていくと予想されます。

「政策に売りなし」はドイツでも

「政策に売りなし」は、一般に知られた相場格言ですが、今の株式市場にはこの言葉がよく当てはまります。新型コロナの感染拡大が一定レベルに落ち着きつつあるなかで、大規模な金融・財政政策は、強力な相場の後ろ盾となり得ます。

最近の象徴的な例として挙げられるのがドイツです。同国ではもともと、憲法で財政均衡が規定されていましたが、3月にこの義務を一時停止し、経済対策の導入に踏み切りました。さらに6月に入ってからは、付加価値税の軽減や子育て世帯への現金給付など、追加の経済対策を打ち出し、景気不安の解消に、政府が全力で取り組む姿勢を鮮明にしています。

市場の不透明感を取り除き、投資家に安心感を与えるアクションは、ダイレクトに株価上昇に結びついています。6月の株価騰落率は、日本(日経平均株価、6月29まで)、米国(NYダウ、6月26まで)がそれぞれ+1%、▲1%であるのに対して、ドイツ(DAX、6月26まで)は+4%です。

各国政府・中央銀行が継続的な政策対応を取り続ける限り、「政策に売りなし」の言葉通り、少なくとも底堅い相場展開が見込めそうです。

日経平均株価の年末想定は2万5,000円

日本では5月25日の緊急事態宣言の全面解除を受け、27日には2次補正予算案が閣議決定され、6月12日に成立しました。4月末に成立した1次補正などと合わせ、コロナ対策の事業規模は約234兆円に及びます。GDP比では4割に相当する規模で、欧米に引けを取らないスケールが、今後の日本経済をサポートしていくと期待されます。

一方で日本の企業業績は足元で厳しく、リビジョン・インデックス(アナリストによる業績予想の修正を指数化したもの)はじりじりと切り下がりつつあります。米国のリビジョンが大きく切り上がっているのとは対照的な動きです。4〜6月期の決算発表前後では、日本企業の業績下方修正が増えてくる可能性には要注意です。

ただ、そうした動きさえも、現在のマーケットにはある程度、織り込まれている可能性もあります。市場参加者は足元の業績悪化を半ば必然と割り切り、視線をさらにその先へと向けているのかもしれません。そうした観点で注目される2021年度の業績は、今のところ順調な回復を期待できそうです。

大和証券が直近でまとめた主要企業200社についての業績見通しでは、2020年度の9.5%経常減益予想に対して、2021年度は31.4%の経常増益が見込まれています。2021年度に向けての業績急回復シナリオは、米国との比較でも見劣りするものではなく、日本株のさらなる上昇を正当化するものと考えられます。

これから2020年の後半戦を迎えるにあたり、改めて年末に向けての相場想定を整理してみましょう。日本国内での新型コロナの感染は依然として予断を許さないものの、コントロール可能なレベルにとどまっている印象です。

経済活動も徐々に正常化の道を歩んでおり、政府・日銀の強力なバックアップがその歩みを確かなものにすることが見込まれます。また、牽引役となる米国株の上昇が日本株を後押しする側面も見逃せません。

以上のことから、年末における日経平均株価の水準としては、年初を上回る2万5,000円程度に目線を引き上げるのが妥当と判断されます。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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