B・スプリングスティーン「美しい映画を作ってくれて本当にありがとう」と大絶賛!!『カセットテープ・ダイアリーズ』監督インタビュー

©ジュピターエンタテインメント株式会社

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督(左)、ブルース・スプリングスティーン(右)©Bend It Films

音楽が主人公の人生を変えたように、この映画も、観る人の未来を少しだけ切り開くのではないか……。人生に迷う高校生がブルース・スプリングスティーンの曲と出会ったことで、「文章を書く」才能に気づく『カセットテープ・ダイアリーズ』は、そんな一作。

『カセットテープ・ダイアリーズ』©BIF Bruce Limited 2019

1987年のイギリスを舞台に、友情や恋、親との対立など、王道の青春ストーリーと言ってもいい要素に、パキスタン移民の主人公が向き合う差別も盛り込まれる。ミュージカル的な演出など軽やかなノリで主人公の心情に観る者を引き込むのは、イギリス人監督、グリンダ・チャーダだ。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

『ベッカムに恋して』(2002年)でも人種や文化の違いを乗り越える「絆」を描いたチャーダ監督。自身もブルース・スプリングスティーンの熱狂的なファンで、80年代に青春時代を過ごしたとあって、この『カセットテープ・ダイアリーズ』には強い思い入れもあったはず。ロンドンのチャーダ監督とスカイプでつないでインタビューしたところ、途中で家族が顔を見せたり、ペットの犬が吠えたり、あるいは「ちょっと急ぎのメールに対応していい?」と休憩があったりと、かなりのリラックス状態。まるで友人と話しているようで、チャーダ監督の“人柄”が伝わってくるインタビューとなった。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

「B・スプリングスティーンの曲と密接した、会話のように歌詞が登場する映画」

―主人公のモデルである、ジャーナリストのサルフラズ・マンズールの回顧録が今作の原作です。彼とは友人関係だそうですね。

今から20年くらい前に、サルフラズが新聞に書いたブルース・スプリングスティーンの記事を読んだんです。「ちょっと待って、私と同じくらいブルースを愛してる人がいるじゃない!」って驚いて、すぐに彼にコンタクトをとりました。それから10年くらい経ってサルフラズが回顧録を執筆すると言い、実際に読んだら「これは映画にするべき」と確信したのです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

―回顧録を脚本化するにあたり、タイトル(原題『Blinded by the Light』)も含め、ブルースの曲や歌詞を物語にハメ込んでいったわけですね。

サルフラズの回顧録は長い期間にわたって書かれていたので、私はそこをちょっと変えて、ミュージカルのような感覚で作ろうと思いました。ブルース(・スプリングスティーン) の曲と密接した作りで、会話のように歌詞を使おうとしたのです。言い方を変えれば、ブルースをキャラクターの一人のように扱いました。通常の映画のサウンドトラックとして使うことはしたくなかった。その結果、曲は脚本の不可欠な要素になったんです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』©BIF Bruce Limited 2019

―「この曲」あるいは「この歌詞」が使いたいからという理由で、脚本に取り入れた部分もあるのでしょうか。

もちろん。最初に使おうと決めたのが「プロミスト・ランド」です。映画自体のテーマになりうると思いました。「プロミスト・ランド」の歌詞こそ、ブルースの作詞家としての才能が凝縮されていて、まわりのすべてから自分を解放したという気持ちが込められている。しかもキャリアでも重要な時期に作られた曲です。『カセットテープ・ダイアリーズ』の主人公ジャベドの状況そのものであり、つねにこの曲は脚本執筆の際のよりどころでした。

「16歳だった私は<RAR>で、白人と黒人、アジア系がひとつになっている姿を初めて見たんです」

―歌詞が映像に出てきます。しかも文字が動いたりとユニークな演出がなされていますね。

言葉を出す方法は、クリエイティヴで独創的であるように心がけました。言葉の意味も含めて、あくまでも“映画っぽく”なるよう意識したんです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

―ミュージカル風の場面は、舞台が80年代ということで、マイケル・ジャクソンやマッドネスっぽいダンスもあったり、ちょっとノスタルジックな演出でした。

そうですね、80年代にチャンネルを合わせる感覚でした。ジョン・ヒューズの作品をイメージしたんですよ。マッドネスの動きは、『ブレックファスト・クラブ』(1985年)にも出てきたでしょう?(笑)

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

―一方でこの映画は、過剰なナショナリズムを訴える<国民戦線>(※1970~1980年代に台頭した英極右政党)というシリアスな要素も出てきます。ジャベドと同じくパキスタン移民のあなたも、つらい経験がありましたか?

もちろん国民戦線がいた時代は、ひどい思い出です。でも同時に、いい時代だったかもしれません。私たちが立ち上がり、反発する声が集まったわけですから。私は1978年の第1回<ロック・アゲインスト・レイシズム・カーニバル(RAR)>に参加したんですよ。親には「買い物に行く」と嘘をついて(笑)。さすがにマーチ(行進)は怖いので、コンサート会場に直行したら、ザ・クラッシュがサウンドチェックしていました。でも1時間くらい経っても、あまり人が集まってこない。私も帰ろうとゲートに向かったら、なんと何千もの人が歓声を上げて押し寄せてくるじゃないですか! まだ16歳だった私は、白人と黒人、アジア系がひとつになっている姿を初めて見たんです。本当に感動しました。あの瞬間、私の政治的な考えも決まったので、一生忘れられません。

▶ 音楽を武器に世界を変える!反差別運動を描いた超パンクなドキュメンタリー『白い暴動』を監督が語る

「ブルースは“美しい映画を作ってくれて本当にありがとう”と感謝してくれました」

―ブルース・スプリングスティーンのスピリットと、あなたの映画作家としてのスピリットの共通点を教えてください。

ブルースの歌は、私たちとその親の世代に響くと思います。等身大の人たちの葛藤、社会から置き去りにされた人たちが、少しでもまっすぐに生きようとする。そこを伝えることが、映画作家としての私と似ていますね。現代では学校で教えられないことを、ブルースの曲は導いてくれると思うので、今こそ聴くべきではないでしょうか。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

―ブルースは完成した映画を観ましたか?

もちろんです。完成後、誰よりも早く観てもらいました。文字どおり「ディレクターズ・カット」ですね。私たちはニューヨークで一緒に観たのですが、映画が終わってしばらく無言でした。そして部屋のライトをつけた瞬間、ブルースが私をハグし、キスしてくれたのです。「美しい映画を作ってくれて、本当にありがとう」と、心から感謝してくれました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督(左)、ブルース・スプリングスティーン(右)©Bend It Films

―ブルースがカメオ出演する可能性はなかったのですか?

それは考えませんでした。今作はブルースを描く映画ではなく、彼の音楽を使うという目的でしたから。

―カメオといえば、あなたはよく自作にちらっと出演します。アルフレッド・ヒッチコックのスタイルを継承しているのですね。

そうです(笑)。今回も気づいてくれましたか? ホイットニー・ヒューストンのようなヘア&メイクと、自前のレザージャケットで、80年代風の女性を楽しく演じました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督©BIF Bruce Limited 2019

「いかに人と人がつながるべきか、人間の尊厳とは何なのかを、今さらに深く考えています」

―次回作としてアニメーションを準備しているそうですが、現在、世界的な危機を迎えている状況で、無事に進行していますか?

アニメーションはNetflixでプロジェクトを進めており、現在は自宅で作業しています。同時に、いくつかの脚本を進めたりもしていますよ。コロナウイルスが落ち着いたら、いくつか実現しそうです。

あと最近は『カセットテープ・ダイアリーズ』へのメッセージが励みになっていますね。観てくれた人からは「信じられないほど勇気づけられた作品だ」と反応があり、まだ観ていない人からの期待も寄せられます。ただ、この映画を「現在のこの状況では楽観的すぎる」とシニカルにとらえる人もいます。でも、これが私の世界の見方であり、人間としての視点なんです。このウイルスによる危機で、いかに人と人がつながるべきか、人間の尊厳とは何なのかを、さらに深く考えています。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―では最後に、映画作家としてあなたが目標にしている作品と、その理由を聞かせてください。

間違いなく、小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)です。異なった世代間のさまざまな問題をストーリーに組み込み、伝統と新しい価値観の両方を描いていますから。しかも他者への“尊厳”を忘れていません。私が目標とする作風ですね。でも私の場合、そこに軽いユーモアもいっぱい入れてしまうんです。そこが小津監督、またケン・ローチ監督らとの大きな違いでしょう。仕方ないですね、そこだけは私の“譲れない”個性ですから(笑)。

『カセットテープ・ダイアリーズ』©BIF Bruce Limited 2019

取材・文:斉藤博昭

『カセットテープ・ダイアリーズ』は2020年7月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー