【東京都知事選2020】東京都知事選挙が野党共闘に与える影響は(選挙コンサルタント・大濱崎卓真)

7月5日に投開票予定の東京都知事選挙は過去最多の22名が立候補しました。前回ほど選挙戦は盛り上がっていませんが、今回の選挙結果は、今後の野党共闘および各党の選挙戦略に影響を与える可能性があると考えています。今回は、その点を踏まえた現時点での各候補者の分析と、得票予想をしてみたいと思います。

選挙情勢をみると、日本経済新聞が6月19~21日行った情勢調査によれば、現職の小池百合子氏が大きくリードし、立憲民主党や共産党、社民党などの支援を受ける元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏、れいわ新選組代表の山本太郎氏、日本維新の会が推薦する元熊本県副知事の小野泰輔氏、NHKから国民を守る党党首でホリエモン新党代表の立花孝志氏らが追う展開になっています。

具体的には、小池氏は男女を問わず幅広い年代で支持を広げており、自民支持層の8割、無党派層の5割の支持を固め、野党支持層にも浸透している一方、宇都宮氏は野党支持層の3割を固め、山本氏は野党支持層から一定の支持を受けているとのことでした。

また、あくまで「全国世論調査」ではありますが、毎日新聞と社会調査研究センターが6月20日に行った調査においても、国政政党の支援を受けている5候補の中で、小池氏が都知事にふさわしいと答えた人が51%、宇都宮氏が10%、山本氏が8%、小野氏が7%、立花氏が2%と、同じような結果が出ています。

現職の小池百合子氏

今回の都知事選で特徴的なのは、与党第一党で国会の議席で過半数を有している自民党が独自候補者を立てられなかったことと、立民・共産・社民の3党および国民民主党の主要4野党としての統一候補を立てられなかったことでしょう。

こうなった一番大きな理由は国内における新型コロナウイルス感染症の拡大です。小池氏の感染拡大防止への取り組みが一定の評価を得ている現状では、危機の最中にリーダーを交代すべきではないという世論が、与野党の候補者選定作業に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。

小池氏にとってのアキレス腱はカイロ大学卒業に関する学歴詐称疑惑でしたが、カイロ大学が「1976年10月に小池氏がカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する」との学長の声明を公表し、これを乗り切ったことから、小池氏の再選は間違いないとみています。

そこで重要となるのが、候補者分裂が野党共闘に今後どのような影響を与えるかです。毎日新聞の調査結果が都に関しても当てはまるとすれば、主要野党が統一候補を出した場合は20%前後の得票率が少なくとも見込まれたと考えられます。宇都宮氏と山本氏のどちらが多く得票するかという点でいえば、上記の世論調査の結果と同じく、私は現状では宇都宮氏がやや形勢有利とみています。

大きな理由としては、山本氏の立候補表明が(後出しじゃんけんが有利と言われる都知事選挙とはいえ、情勢がほぼ決まった時期だったので注目度が低くなった程に)遅れたことと、コロナ禍の影響でここ数ヶ月間全国遊説もできずさらにれいわ新選組が国会での存在感が出せなかったことから同党の支持率が低迷していることが挙げられます。

宇都宮氏を支持しているのは立民、共産、社民の3党ですが、このうち共産、社民の支持層には固定票が多いと考えられることから多くの票が宇都宮氏に向かうと考えられます。

一方、最大野党の立民に関しては、最近、山尾志桜里衆議院議員・須藤元気参議院議員などの離党(表明)者が相次いだことから、党内に動揺がみられます。特に消費税の取り扱いに関しては、山本氏を支持するため同党へ離党届を提出した須藤氏以外にも石垣のり子参議院議員など、消費税を廃止したい(または8%より低くしたい)と考えている議員がいることから、これらの現状を考えると、国政政党としては立民を支持している層の一部が山本氏に投票することが考えられます。

また、今回自主投票となった国民に関しては、直近の今月19〜21日に行われたNHKの世論調査でも支持率がわずか0.6%にとどまっていますが、支持母体の連合が小池氏を支持しており、旧同盟系を中心とした労組票が小池氏に流れると考えられる一方で、自身のグループ出身者が党所属国会議員でかなりの数に上る小沢一郎衆議院議員が宇都宮氏の事務所を激励に訪れるなど、議員によって対応が分かれそうです。

昨年の森ゆう子・参議院議員のパーティーで

また、山本氏がかつて小沢氏とともに旧自由党の共同党首だった歴史があり、現在も両者の関係が比較的良好であるとみられることから、小沢氏を支持している有権者の票の一部が山本氏に流れることも考えられます。 

主要4野党の現状に関しては、立民の支持が低迷していることもあり、消費税への対応や野党共闘の在り方をめぐって温度差が生じているのは否めません。山本氏の主張に同調する議員も一定数いる一方で、前原誠司衆議院議員など共産との連携にアレルギーを示し維新との連携を模索する保守系の議員もいます。

都知事選で候補が分裂したこともあり、しばらくはこうした遠心力が働く可能性があります。仮に宇都宮氏の得票が山本氏のそれを十分に上回れば4党間の共闘に大きな影響はないと考えるのが自然ですが、山本氏が宇都宮氏の得票を上回るか並ぶことがあれば立民および枝野代表への求心力が弱まる可能性が大いにあります。

須藤氏は(公職選挙法によりれいわそのものへの移籍はできないものの)同党会派に加わることが予想されますが、れいわに再度勢いがつくようなことがあれば、来たる衆院選に向けて、立民から他に同調者が出る可能性は多いにあるでしょう。

維新が推薦する小野泰輔候補

そういった意味では、維新が推薦する小野氏がどれだけ得票するかも興味深く、宇都宮・山本・小野の3氏の得票率が近くなれば、これまでの4野党共闘路線に左右から修正の声が高まる可能性があります。宇都宮氏が失速した場合は野党各党の組織力や集票力に大きな疑問符がつくことにもなり、コロナ禍における選挙戦略や野党共闘態勢の抜本的見直しをしなければ、次の衆院選・参院選における勝利は非常に厳しいでしょう。

一方、れいわに関しては、須藤氏のような議員の参加は、短期的にはれいわにとってプラスであっても中長期的にはマイナスになる可能性を孕んでいます。須藤氏に関しては、比例代表選出議員の党籍離脱に対する非難に加えて、これまでのれいわ新選組支持層とは異なる層からの支持を得ています。それゆえ、他党出身議員が増えれば同党の重点政策や選挙戦略がぼやける可能性があり、単なるポピュリズム政党とみなされてしまう可能性があります。

今回の選挙戦を通じて、どの程度党の政策への理解が進むのか・党組織を強化できるのかが、次の衆院選・参院選への試金石となるでしょう。

 

最後に、各候補がどれだけ得票するかを簡単に占ってみたいと思います。東京都の有権者数は令和2年6月現在1,144万人ですが、今回の都知事選に関しては前掲の通り現職候補が大きく有利であるとの報道がなされ、また東京都における新型コロナウイルス感染症の感染者が再び増加傾向にあることなどから、投票率が前回2016年の59.7%から下がるとみています。

低投票率だった1983年(48.0%)、1987年(43.2%)、2003年(44.9%)、2014年(46.1%)並みの45%と仮定すると、投票総数は約515万票となります。

そして、仮に前述の毎日新聞の世論調査結果のうち、投票先を既に決定している回答者のサンプルだけを元に、515万票を各候補者へ割り当てると、小池氏の得票数は約315万票、宇都宮・山本氏の得票数合計は約125万票となります。

宇都宮氏は2012年、2014年の都知事選でそれぞれ約97万、98万票を獲得しましたが、今回はそれを下回り70万票前後になるかもしれません。

山本氏に関しては、昨年の参議院比例代表選挙の東京都(投票率51.8%)で、れいわの都内得票数が約56万票だったことをふまえると、現状ではこれと同レベルの55万票程度とみています。

小野氏に関しては、前回の参院比例選における維新の都内得票数は約48万票だったことや、維新を支持する層が一定数おり、かつ都議補選にも複数の候補者を立てたことを踏まえると、50万票以上得票する可能性があります。

立花氏に関しては、前回の参院比例選におけるN国の都内得票数は約13万でしたので、投票率が下がることを前提とすれば、得票率2%で約10万票前後ではないかと考えられます。

その他の候補者については、全ての票数を足して10万票に届くかどうかでしょう。

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