後継者不在の創業者→起業志望者へ事業承継 神戸市がマッチング

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神戸市のマッチング支援を受け、事業を引き継いだソリッドソニックの久保貴弘社長(右)と、創業者の田中哲廣取締役(左)=神戸市中央区港島中町6

 中小企業の事業承継を促すため、神戸市が2018年度に始めた施策「100年経営支援」の初の事例として、後継者不在の創業者から、起業を目指す元大手企業社員への事業譲渡が成立した。難聴者向けの骨伝導集音器を開発する会社で、今秋の製品販売を予定。新社長は「世界中の耳が不自由な人に、音を届けられる会社にしたい」と話す。(横田良平)

 会社は「ソリッドソニック」(神戸市中央区)。創業者の田中哲廣さん(71)が2008年に設立した。頭蓋骨に振動を与えて音を聞く骨伝導イヤホンを手掛け、音が聞こえない人が音を感じられる骨伝導振動子の技術を蓄えてきた。

 70歳を前に事業継続に限界を感じ、支援事業を担当する市産業振興財団の「KOBEあとつぎサポートチーム」に、後継者探しを依頼した。

 一方、大手電機メーカーで経営企画や調達に携わってきた久保貴弘さん(40)は、「不惑」を前に起業を決意。同財団の「後継者候補」に登録した。

 2人は昨年11月に初対面。事業譲渡の条件を協議してきた。「振動子に特化した知見を持つ人は少ない。技術を引き継ぐ組織を整え、社会の役に立ちたいと思った」と久保さん。田中さんは「将来ビジョンを持ち、事業を大きくしてもらえる力強さを感じた」と期待を寄せる。

 久保さんは同財団の後押しで、神戸信用金庫や日本政策金融公庫から計2千万円の資金を調達。今年2月に事業を買い取り、同名の新会社を4月に設立した。社長の久保さんが経営全般を担い、取締役に就いた田中さんが開発を担当。技術を引き継ぐ社員の雇用を予定している。

 国内で難聴に悩む対象者は約530万人。新会社は、今秋から難聴者向けの骨伝導集音器を販売し、視聴体験・販売会やインターネット販売に乗り出す。21年3月期の売上高の目標は2億2千万円。久保さんは「創業者の蓄積をしっかり引き継ぎ、事業を軌道に乗せる」と意気込む。

 同財団は「確かな技術がありながら後継者難に悩む企業は多いはず」とし、案件の募集やマッチングに引き続き力を入れる。