女子フットサル日本代表 宮原ゆかり「自分自身にしかできない影響力を発揮したい」

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フットサル女子日本代表の宮原ゆかり選手が、競技力向上のために取り入れたのは、アスリートのポテンシャルを最大限に引き出す教育プログラム「EQ sports」。新型コロナウイルスの影響で、2020年度のリーグ戦や国際大会が延期になる中、「気持ちの持ち方」の変化や、新たに定めた目標についてお話を伺いました。

聞き手:船附ひな子(女子フットサル選手)

代表という重圧を経験し、メンタル面の強化が必要と感じた

ーフットサルを始める前は、サッカーでインターハイ出場も経験されていたのですよね。

宮原さん父親の仕事の関係で、小学校の頃に香港でサッカーを始め、高校時代はキャプテンとして選手権・インターハイ共にベスト8を経験しました。2015年になでしこリーグ・2部に所属するスフィーダ世田谷でもプレーしたのですが、多くの女性アスリートが悩まされる生理不順という体調面の不調に伴い、サッカーから身を引いていました。

ーフットサルを始めたきっかけはなんですか?

大学ではサッカーから離れて平凡な学生生活を送っていましたが、友人に個サルに誘われたのがきっかけでした。もう競技としてボールを蹴るつもりはありませんでしたが、だんだん物足りなくなってきて、高校時代の先輩が在籍するチームに入団しました。

ーフットサルを始めた当初から、日本代表に対する意識はありましたか?

純粋にボールを蹴ることを楽しみたい気持ちしかなかったですね。だからこそ、周りの学生と同様に就職活動や管理栄養士の国家試験を受け、一般企業への入社も決まっていました。

でも、関東女子フットサルリーグの入替戦で、負けたら都県リーグに降格となる局面で勝つことができ、残留を決めたことで、もっと上手くなりたい、もっと勝ちたいと思う気持ちがこころの底から湧き出てきて、気がついたら競技を続けていました。

ーどんどん気持ちが高まっていったんですね。

はい。でも、そんな気持ちとは裏腹に、社会人となった3ヶ月後に突然神戸への転勤を命じられました。再びボールを追いかける楽しさを与えてくれた当時のチームを、そう簡単には離れることができず、週末は夜行バスで東京に戻り、試合後はそのまま終電の新幹線で神戸へ帰宅するという生活を半年間送っていました。

最終的には、「今しかできないことは何か」を考えに考え、フットサルを優先できる環境に身を置くために転職を決断しました。

ーその後、移籍をされていますが、現在のチーム(バルドラール浦安ラス・ボニータス)を選んだ理由はなんですか?

ただ純粋に『フットサルをさらに探求したい』という気持ちが強く、それを体現している監督やスタッフ、選手の存在があったことが、バルドラール浦安ラス・ボニータスへ移籍した大きな理由です。

また、移籍を検討する段階で、「代表に入りたいと思うならうちだよ」と米川監督に言っていただきましたが、まだその時もまさか自分が日本代表に招集されるとは思ってもいませんでしたね。

ー移籍してどのような変化がありましたか?

チームメイトの能力はもちろん高く、正直移籍当初は噛み合うどころか、監督が描く戦略と戦術や言葉の意図を理解することに必死でしたね。必然的に自分自身がやらなければならない状況下に置かれることもあり、焦りと上手くいかないモヤモヤを抱えながら、毎日必死にプレーを続けている状態でした。

ーなぜ、EQ*のサポートを受けようと思ったのですか?

試行錯誤をしながらプレーを続けることで、JFA第16回全日本女子フットサル選手権大会を優勝することができ、メンタル面も昔よりだいぶ強くなったと感じていましたが、うまくいかない時は本当にうまくいかなくて……。

必要以上に落ち込んでプレーの質も下がり、監督は自分より他の選手を評価していると勝手に感じてしまったり。日々の練習を常にベストなモチベーションで臨むということの難しさを感じていました。

日本代表に初招集されたタイミングでもあったので、メンタル面の強化に本格的に取り組みたいなと思ったんです。また、引退後のキャリアにも役立てたいと考え、受講を決めました。

*EQ sportsは、2019年に世界的に有名な経済誌ニューヨークタイムズにも取り上げられた、世界初となるアスリート専用の教育プログラム。今まで抽象的に語られてきた“強いメンタル”の正体を、「脳科学」と「心理学」という2つの科学的知見を根拠に独自開発されたサービス。

ーその後、日本代表としてスペイン遠征に参加されましたが、いかがでしたか?

初招集でしたが、チームメイトが他に3人選出されていたので、不思議と全く緊張はしていませんでした。しかし、いざ国際親善試合のピッチに立って、代表ユニフォームに袖を通し、国歌斉唱をした時は、めちゃくちゃ鳥肌が立ちましたね。あらためて特別な雰囲気と貴重な経験をしているということを実感しました。

スペイン代表と初めて対戦してみて、実際は戦えると感じた部分もありましたが、自分の些細なミスで決定的なチャンスを逃し、自分の悪い癖で必要以上に落ち込んでしまったんですよね。

ーいつもならドツボにはまってしまうようなシチュエーションですね。

切り替えなければと、試合後に所属チームのコーチと連絡を取りました。翌日には木暮日本代表監督から『すぐに技術は向上できなくても、仲間を信じて今の自分にできることをやろう』と話を受けたこともあり、なんとか自分の思考を転換できて2戦目に挑めました。

結果的に、前日のミスを引きずることなく、初戦よりも良いパフォーマンスを残すことができましたが、自分で思考の癖を理解し、今回のような思考の転換を自分自身で行なえるようになりたいと思いました。

思考の癖を知ることが改善の第一歩

ー帰国後、本格的にEQのトレーニングを開始されたようですね。

宮原さんそうですね。EQのトレーニングをスタートして、まずは過去の自分の経験や価値観から「フットサル選手としてどうなりたいか」を考えていきました。

私自身、最初から大きな目標があったわけではなかったので、選手としての明確なビジョンもなかったんですよね。今はそのビジョンを考えながら、フットサルの競技だけではなく、より豊かな競技人生を送れるように、決してブレない想い(自分の理念)を具体的に定義している段階です。

ー選手としてだけでなく、人としても強くなれそうです。

「第二の人生」というほどではないですが、選手である以上は必ず引退がつきものです。引退後の人生まで見据えて、自分自身の価値観を明確に理解することで、引退後に自分が成し遂げたいことを少しずつ言語化することができるようになってきました。

そうすると、人生の一部として競技生活を捉えることができて、今までのようにちょっとしたことでブレることもなくなってきましたね。

EQ sports 資料より抜粋

ーすでに成果も感じていますか?

そうですね。メンタルトレーニングをしているというよりは、思考法を学んでいる感覚に近いですかね。具体的にいうと、自分自身で明確な目標を設定することで、主体的に行動することができ、試合結果に一喜一憂することがなく、客観的に分析できる思考が身についてきました。もちろん負けたら悔しいですけどね(笑)。

対人関係の面では、これまで自分の価値観でイライラしていたことやモヤモヤしていたことに対して、一度ワンクッションおいて物事を判断できるようになってきました。今後は、自分の思考の癖を理解した上で、イライラやモヤモヤの状態を改善していくために必要な心理的スキルや、コミュニケーションスキルなどを磨いていくことが楽しみです。

フットサルの現状を変えるために、まずは自分の影響力を

ー女子フットサル界の現状について感じていることはありますか?

宮原さんなでしこリーグのように仕事を斡旋してもらえる選手は稀ですし、部費や遠征費も自分で捻出しながら競技をしています。競技をする環境としてはお世辞にも良いと言えない状況に、どこか違和感を感じていました。どれだけ努力をして結果を残しても、世の中に与える影響が少ないというジレンマもあります。

―その環境が当たり前になっている選手も多いと思います。

私自身、週5日間働きながら活動費を捻出し、ほぼ毎日練習を行い、週末は公式戦と非常に過酷な競技生活を送るアマチュア選手ですが、一人でも多くの選手たちが競技に専念できるスポーツになるべきだと考えています。

そのためには、女子フットサル選手の一人ひとりが、スタンスを変える必要もあると感じています。共感や賛同を得るために、選手としての価値を高めていく活動や姿勢を示すことで、お金を払ってでも応援したいと思える選手にならなければならないと危機感も感じていますね。

ー競技の認知度に関わらず、個人が影響力を持てる時代ですよね。

個人が人から求められる価値を上げていかないと。マイナースポーツでも1人が有名な競技はたくさんありますよね。例えば、個人種目になりますが、スキージャンプの高梨沙羅選手や、カヌーの羽根田卓也選手を見ていると、何かで突出しないと何も変わらないんだなと改めて感じています。

延期となっている2020年シーズンに向けて

ー今後の目標について教えてください。

宮原さん日本女子フットサルリーグで優勝することです。そして、同様に新型コロナウイルス感染症の影響により延期となっているAFC女子フットサル選手権で再び代表ユニフォームに袖を通し、日本の初優勝に貢献したいと思っています。

2020年3月中旬頃からチームの活動もストップし、再開の目処が立たなかった当初は、モチベーションの維持も難しいと感じることもありました。ですが、目標のために「今、何をするべきか」に注力し、日々の時間の使い方や物事の捉え方を磨いていきたいですね。

ーすでに、引退後の未来も見据えているのでしょうか。

私自身は、選手として10年、20年と長く競技を続ける予定はありません。引退後は、管理栄養士の資格と、これまでの自分自身のスポーツにおける競技生活での経験を活かしたいと思います。今まで踏み入れてこなかった『スポーツ栄養』について、これまで以上に仕事以外でも学びを深めているところです。

過去、自分自身も直面した生理不順に悩まされている女性アスリートの方々や、コンディションに悩みを抱えてしまっているアスリートの皆さんの成長に、少しでも役に立てたるような存在になりたいですね。

まだまだ自分が与えられる影響力は微々たるものかもしれませんが、応援される選手であり、社会人としての価値も高められるように努力を続けていきたいと思っています。新型コロナウイルス感染症収束後、再開されたリーグ戦の試合会場で、皆さまとお会いできることを楽しみにしています!

*この取材は、2020年4月初旬に行なわれました。

■プロフィール

宮原 ゆかり(みやはら ゆかり)

1994年8月6日生まれ。バルドラール浦安ラス・ボニータス 所属

サッカーからフットサルに転向し、昨年はバルドラール浦安ラス・ボニータスで中心選手として、JFA第16回全日本女子フットサル選手権大会で優勝。たけやま3.5 Presents 日本女子フットサルリーグ2019/2020 supported by GAViCで年間準優勝を経験。また、フットサル女子日本代表にも初招集され、今後の代表定着と日本初となる国際大会での優勝を目指す。自ら挑戦に対する努力を通じて、自分自身にしかできない影響力の発揮を目指している。

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