西武辻監督の「野球あるある」って何だ!? 言葉に凝縮された野球理論

西武・辻発彦監督【写真:宮脇広久】

「完璧に抑えていた方が先に点を…」現役16年の現役、豊富な監督・コーチ経験を凝縮されている

パ・リーグ3連覇を目指す西武は、1日現在6勝5敗で3位につけ、まずまずのスタートを切った。今季、辻発彦監督の試合後のコメントに頻出しているのが、「野球あるある」というワードだ。そこには、辻監督が長いプロ生活で培った経験、知識、野球観が凝縮されていて実に興味深い。

“初出”は、6月19日の日本ハムとの今季開幕戦だった。西武が誇る山賊打線が日本ハム先発の有原に3回まで無安打無四球無得点のパーフェクトに抑えられ、一方、味方の先発ニールは辛くも無失点でしのいではいたものの、得点圏に背負う苦しい投球が続き、ムードは明らかに劣勢だった。ところが4回。有原をとらえ、連打と四球で無死満塁とすると、山川のボテボテの適時内野安打で先制。さらに外崎の押し出し死球、栗山の内野ゴロの間にも1点ずつを加え、この回一気に3点を挙げて、そのまま3-0で試合をものにしたのだった。

その試合後、辻監督は「有原は素晴らしい投球で3回まで完璧。ニールはふらふらっとしながら0に抑えていた。“野球あるある”で、こういう時には、先に点が入るのはうちの方じゃないかと思っていました」と会心の笑みを浮かべた。

相手投手が絶好調で付け入る隙がないように見えても、こちらが無失点や最少失点で必死に耐えていれば、それが相手にとって重圧となり、ワンチャンスで一気に突き崩すこともできる、というのは野球のセオリーの1つかもしれない。

劣勢で投手が3者連続→直後に逆転満塁弾「これも“野球あるある”だから」

同26日のソフトバンク戦では、1点ビハインドの8回に登板した新外国人右腕ギャレットが長谷川、上林、松田を3者三振に切って取った。その裏、木村の逆転満塁本塁打が飛び出し、劇的な勝利。辻監督はこの時、「ああいう形で勢いよくパンパンパンと3者三振で終われば、次にいい形で攻められる。これも“野球あるある”だから、投手陣にお願いしたい」と語っている。

7月1日のオリックス戦は、敗戦パターンだ。相手先発の鈴木優に5回ノーヒット2四球無失点に抑えられ、プロ初勝利を献上。鈴木とは5年前の2015年に1度だけ対戦したことがあるものの、事実上“初物”。辻監督は「これも“プロ野球あるある”でね。初物だから、どういう球種を投げるかは試合前に研究しミーティングもしていたけれど、球の軌道、質は実際に打席に入るまで分からなかった。今までにいなかったタイプの投手で、絞りづらかった。次の対戦までに作戦を練るしかない」と白旗を掲げた。

「野球あるある」という言葉こそ使わなかったが、“類似例”もあった。6月28日のソフトバンク戦。3-3の同点で迎えた9回、無死満塁で森が中前へサヨナラ打を放つと、辻監督は「ノーアウト満塁で、最初の打者が三振とかゲッツー(併殺打)だと、1点も入らないというジンクスがある。その中で初球から振れる森の気持ちの強さ、技術が生きた」と胸をなでおろした。

実際、有名な1979年日本シリーズ第7戦の「江夏の21球」は1点リードの9回無死満塁という1打逆転サヨナラ負けの大ピンチで、まず代打・佐々木を空振り三振に仕留め、結局1点も与えずに乗り切ったものだ。

これらは辻監督が西武、ヤクルトでの通算16年にわたる現役生活、豊富な監督・コーチ経験を通じて確信を深めた野球の定理。戦略・戦術を練るベースにもなっているだろう。今季、辻監督に何個の「野球あるある」を聞かせてもらえるのか、楽しみでならない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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