ドイツでホーム勝率90%超え 森薗政崇が語る「ファンや応援の力」

写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

卓球応援文化の根付いたドイツ・ブンデスリーガで10年間プレーしたプロ卓球選手・森薗政崇(BOBSON)。熱狂的なファンも多く、直近の自粛期間中は本人のTwitterで大喜利企画やプレゼント企画を実施し、積極的にファンとの交流を図った。

森薗はドイツ時代から人一倍ファンを大事にし、Tリーグの試合後もサインや写真撮影に応じる姿がよく見られる。応援を力に変え、Tリーグ1stシーズンではシングルス勝率86%を記録した。

今回は、ファンや応援に対して熱い思いを持つ森薗に「アスリートから見た卓球のファン・応援」について話を伺った。

ブンデスリーガとTリーグの応援の違い

__――森薗選手が10年間参戦していたドイツ・ブンデスリーガには卓球応援文化があると聞きます。実際、Tリーグとどう違いますか?
森薗政崇(以下、森薗):それぞれ僕が感じた範囲で比べると、まず会場はTリーグの方が大きい。ブンデスリーガは各チームがホーム卓球場を持っていて、大きさに規定がない。だから最大収容人数200人、老朽化が進んで築100年みたいな小さい体育館もあります。__

僕がいたグリューンヴェッタースバッハも最大収容は全員立ち見で500人、めっちゃ小さいんですよ。ドイツは規定がないから体育館は日本の方が大きいところを使っているなと感じます。

写真:山奥の会場で試合が行われることもある/撮影:赤羽ひな

__――するとファンの来場数も違うんでしょうか?
森薗:__平均したら圧倒的に日本の方が多いです。ドイツはピンキリで有名選手の抱えているデュッセルドルフは、重要な試合は1,500人集まります。でも、少ないときは300人だったり振り幅が大きい。

たぶん今、ドイツで一番観客が入っているのは、僕が青森山田だったときのコーチの板垣先生が監督を務めるクニックスホーフェン。それでも平均すると1,000人行ってるかわからない。

写真:各チームがホームを置く地/提供:イラストAC

__――平均観客動員数だと日本の方が多いんですね。
森薗:ですけど、1試合1試合の充実感、満足感、一体感でいくとドイツの方が高い__んですよ。

写真:ブンデスリーガの会場/撮影:赤羽ひな

__――それはなぜでしょうか?
森薗:__会場の規模による一体感の差があると思います。

日本の試合は1,000人~1,200人がオーソドックスな人数で2,000人入るのは難しい。でも会場の規模が大きい。卓球はなるべくぎゅっとして狭いところで(選手と観客を)近くして盛り上がるのは僕的にはありなんじゃないかなと思ってます。

グリューンヴェッタースバッハにいるときは、フェンスの隣が観客席で、1ゲーム終わるごとにファンが手を出して「ウェーイ」って(笑)。その辺が緩くてルールがなくて、そういう意味では一体感があったかな。

写真:ブンデスリーガ会場の様子。小さめの会場で行われる/撮影:赤羽ひな

__――ファンと観客の物理的距離が熱量を引き出しているんですね。逆にTリーグの応援の良さはどう感じてますか?
森薗:__僕個人の考えですが、応援が良いなと思っているのは、T\.T彩たまさんと[岡山リベッツ](https://rallys.online/tag/%E5%B2%A1%E5%B1%B1%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%84/)。その2つを分析して共通点を出したときにどっちも私設応援団があって、その私設応援団にしっかりした応援団長がいる。T\.T彩たまならMr\.Jさん、岡山リベッツなら岸本さん。

応援はゴールがないし、正解がない。手探りの状態でやってくのでたぶんみんなが不安。その中で岡山と彩たまは団長を決めて、(応援の)チームを作って指導してる。より一体感が出ているなとは思います。

写真:森薗政崇(左)・上田仁(ともに岡山リベッツ)/撮影:ラリーズ編集部

面白い話があって、僕、チェコリーグに1年行っていたんですよ。そのときチェコのチームはお金を出して応援団を雇っていた。でもお金で雇われた応援団だと盛り上がらなかったですね。

これって応援に「想い」はあると思うんですよ。「この人たちのために」という想いは伝染すると思ってます。

どういう声援が選手は嬉しいのか?

__――ブンデスリーガ、Tリーグとやってみて、森薗選手はどういう応援が嬉しいというのはありますか?
森薗:__僕が、一番辛かった時期が中1、中2のブンデスリーガのまったく観客がいない中で試合をやってたとき。誰にも見てもらえない。

だから今、Tリーグでたくさんの人が映像で見るだとか会場に足を運んでくれるのが超幸せ。

僕が選手代表じゃないし、選手それぞれ違うという前提でさらに贅沢を言わせてもらえるなら、死ぬほど騒いでほしい。みんなで盛り上がれればいいですね。

写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

__――確かに「盛り上がっている中でプレーするといいパフォーマンスが発揮できる」と以前おっしゃられてましたね。
森薗:__でも(応援が騒ぎすぎると)気が散るとか言う選手もいます。じゃあどうすればいいのか?

最初に応援団長が各選手に聞いておけばいいと思うんですよね。

実際、僕がいたドイツのチームでは、応援団長が1人1人に聞いて回ってました。「騒がれるのやだ?」「太鼓、ラッパ嫌?」とか。選手1人1人にヒアリングしてそれぞれで応援を変えてたみたいです。僕は鳴り物に慣れてるし、ラッパでも太鼓でもどんとこいって感じです(笑)。

写真:世界卓球選考会ではファンの声援を味方に大逆転で代表入りを掴んだ/撮影:ラリーズ編集部

__――日本だと声や拍手が卓球の応援では主流です。声援だとどういう風に呼ばれるのが良いですか?
森薗:__僕は名前を呼ばれるのが嬉しいです。これは母が昔から応援してくれるときに「マサ、負けるなー!」って最初に名前を呼んでくれてた。

伝わりやすいし、嬉しいんですよ。お客さんも名前を呼ぶことでより熱くなって感情移入できるし、すごく良い応援と思ってます。

写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

__――名前を呼ばれるのは特別なんですね。
森薗:__横浜での世界卓球で、(松平)健太さんと馬琳(マリン)の試合覚えてます?

僕、現場で観てたんですけど、白熱すればするほど周りの人が「健太!ここ頑張るぞー!」と言ってるんですよ。健太さんのこと知らない一般の人たちも声援を飛ばしてて、これはすごい、と。自然に出てくるその選手の名前は威力がある。

ぜひ僕は名前を呼んでほしいなと。

ホームの応援は力になる ドイツ時代はホーム勝率90%超え

__――森薗選手はファンの応援で力を発揮できた試合ってありますか?
森薗:__自分の試合じゃなくてもいいですか?1stシーズン岡山武道館での木下戦。5番ラストで吉村和弘が張本(智和)に勝ったときが一番ファンと選手が一体化していた。

ドイツより全然すごいと思えた試合でした。和弘が勝利を決めて、打ち合わせてないのにファンの誰かが足踏みし出して、拍手と足踏みですごかったです。

写真:岡山リベッツを盛り上げた吉村和弘。3rdシーズンからは琉球アスティーダへ移籍/撮影:ラリーズ編集部

__――ホームの岡山武道館での格別の勝利、盛り上がりますよね。
森薗:__岡山武道館は卓球を観る環境に適してます。体育館がすり鉢状で中心までがコンパクト。規模感もちょうどいい。1,500人ですごい熱気になる。

岡山武道館は一番力を発揮できる。

あと僕、ドイツのときホームの勝率高かったんですよ。確か2年間で90%超え(笑)。ほぼほぼ負けない。

__――強すぎる(笑)。やっぱりホームとアウェーだと違うんですか?
森薗:全然違います。ホームの応援はめっちゃ力になる。いつもより集中できるし、いつもより気持ちのこもった1球が打てる。ほんとに力もらえます。__

写真:団体戦に滅法強い森薗政崇/撮影:ラリーズ編集部

__――そもそも森薗選手、団体戦自体が強いイメージがあります。
森薗:__僕、めっちゃ強いですよ団体戦(笑)。自分で思いますもん。団体戦大好き。

僕、誰かと言葉を交わさず思いを共有するのがめっちゃ好きなんですよ。大事なところでお互いの目を見るだけで「思いは1つ。勝ちたいよね」と感じるときが大好きで。だから団体戦やダブルスは大好きですね。

写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

2018年10月にTリーグが開幕し、1stシーズンファイナルでは5,120人の大観衆が卓球を観るために集った。森薗は「こんな時代に卓球ができるなんてほんとありがたい」とファンの存在、応援のありがたみを口にする。

現在、新型コロナウイルスの影響で試合が中止・延期となっており、Tリーグもリモートマッチ(無観客試合)での開催が取りざたされている。直接声援を送る機会はしばらくないが、森薗は「SNSでコメントやダイレクトメッセージいただいて、1つ1つを見て僕自身凄く嬉しいし力になっている」とオンラインでの“声援”に感謝を述べる。

卓球応援文化ができ始めたばかりの日本卓球界。「応援」について選手目線から真剣に考え意見をくれた森薗に感謝するとともに、ゴール、正解のないテーマを今後も考え続けていきたい。

文:山下大志(ラリーズ編集部)

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