【THIS IS MY CLUB】プロ野球から転身!山室晋也社長が語る、清水エスパルスのこれから

7月4日、いよいよ2020シーズンの明治安田生命J1リーグが再開される。

新型コロナウイルスによる長期中断を経て、先週末にJ2とJ3がそれぞれ再開・開幕した。

少なくとも7月10日まで無観客のリモートマッチでの開催を余儀なくされ、その後も様々な制約が必要な苦難のシーズンとなることは間違いない。

だからこそ、リーグの再開・開幕は特別なものとも言えるはずだ。

Qolyは今回、「DAZN Jリーグ推進委員会」の一員としてメディア連動企画「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE-」に参画。

リスタートに向けたJリーグクラブの、今だからこそ届けたい“生の声”をお伝えする。

今回話を聞いたのは、清水エスパルスの山室晋也代表取締役社長だ。

2014年から6年間、プロ野球(NPB)の千葉ロッテマリーンズで球団社長を務め、長年赤字体質だったチームを黒字化させた山室氏。

就任早々困難に見舞われてしまったが、同じプロスポーツチームで実績を残した60歳の新社長に、コロナ禍での状況やクラブの経営面、これからの清水エスパルスなどについて聞いた。

(取材日:2020年6月23日)

プロ野球から、Jリーグへ

――今年、清水エスパルスの社長に就任し、いきなり新型コロナウイルスという大きな事態に見舞われてしまいました。クラブへの影響、リーグ再開に向けた準備の状況はどうでしょうか?

とにかく試合ができませんから、ECなど一部を除けば売上が立っていない状況でした。練習も非常に制約が多かったので、前年比でいうとビジネス的には当然影響が大きいですね。

ただ一方で、今年は監督が代わり選手もかなり入れ替わりました。YBCルヴァンカップの初戦と明治安田生命J1リーグ開幕戦、変化の兆しを多くのファンの方にも感じてもらったと思います。あまり準備期間がない中で、ピーター・クラモフスキー監督の“色”をより打ち出していくため、中断で時間的な余裕をもらえたという意味ではプラスですしポジティブに考えるようにしています。

リーグ再開に向けた準備としてはまず限定的に無観客からスタートしますが、本番はやはり観客を入れる段階からです。スポーツエンターテイメントとしてやはり、ライブで、生で試合を見ていただきたいと思っています。

(7月11日以降は)5000人と限定され、かつ非常に制約の多い中での再開ということで、感染防止対策をしっかり行いファンの皆さまを守ることが重要ですので、Jリーグのプロトコルに最大限則って準備を進めています。

――リーグ中断を聞いたときの率直な印象は?

ちょっと信じられなかったですね。まさかこんなことがあるとは、と。シーズンの不成立やクラブの存続危機など悪いほうに考えてしまった時期もありましたし、ようやく再開できることになって本当に良かったです。

――山室社長は昨年まで千葉ロッテマリーンズの球団社長を6年間務めていました。あまりピンと来ないのですが、プロ野球の「球団社長」はどんな仕事ですか?

Jリーグクラブの社長と基本的には一緒だと思います。まったく変わらないと言ってもいいんじゃないですかね。リーグの文化なり仕組みに少し違いがあるくらいです。

――どのような流れで清水エスパルスの社長に就任されたのか気になります。オファーはいくつかあったとニュースなどで拝見したのですが、もともと昨年いっぱいで千葉ロッテを離れるというのが最初にあったのですか?

そうですね。2019シーズン限りで退任することはかなり前から決まっていて、どのタイミングで発表するかだけでした。

スポーツ、それ以外のところからもお話だけはいくつかいただきました。冷やかしみたいなものもおそらくあったと思いますが(笑)。

――その中から、清水エスパルスのオファーを受けた一番大きな理由は何でしたか?

スポーツを一度やって、面白さなどは分かったのですが一回経験したからいいかなという気持ちだったんです。ただ、いざスポーツ界を去ると考えたときに、やっぱり何ものにも変えられない魅力があることに気づきました。そこで思い直した部分があります。

そんなときにたまたま清水エスパルスのお話をいただいて。サッカーはやはり成長率、さらには裾野の広さなどを考えるとマーケットも大きいですし、なによりサッカーと言えば僕の世代だと静岡なんです。

静岡と言えばサッカー、サッカーと言えば静岡というくらいでしたし、エスパルスは“オリジナル10”(※Jリーグ創設時の10チーム)で市民クラブ。サッカーならエスパルスだよなと、最初にエスパルスの名前を聞いたときからピンと来ました。

――そうだったのですね。今年新たに迎えたピーター・クラモフスキー監督は千葉ロッテ時代を含めて初めての外国人監督です。どういった形でコミュニケーションを取っていますか?

軽く話す程度なら直接、込み入った話をするときは通訳を入れています。私は自他ともに認めるほどサッカーにはあまり詳しくないので(笑)戦術に口を出しても仕方ないですし、GMもいます。今のところは全体的なことしか話していないですね。

幸いにして今年は降格がありません。近年は監督が頻繁に変わってきましたがやはりじっくりとチームを育ててもらいたいですし、クラモフスキー監督も私も「トップ(優勝)を狙う」という考えは共通していて選手たちにも常に言っています。

10位以内にも入れないようなチームが何を言っているんだと思われるかもしれないですが、目指すべきところを明確にして「そこにたどり着くためにはどうするか」と考えていくことが何かを成し遂げるためには重要です。そこは監督とまったく同じ目線を持って取り組めています。

――プロ野球と違い、Jリーグは育成組織を持つプロスポーツクラブです。選手を育て、チームで活躍してもらうところまででなく、その先のことも考えなくてはならないと思うのですが、経営的な側面からどのようにとらえていますか?

育成のチームを持っていることは素晴らしいことだと思います。そこで育った選手がトップチームへ上がって活躍し、本人が希望すれば海外へ飛躍していく。そのストーリーが描ければいいですし、経営的に考えてもおそらくローコストです。

エスパルスで育ち、活躍して羽ばたいくことはチームのブランディング的にも有効ですから、強化していくべきだと思っています。

ただ、野球と違って、「保有権」という言い方で良いのでしょうか、これがないのでそれはいかがなものかと感じてしまう部分も個人的にはあります。野球であればドラフトで獲得した選手がある程度の期間、チームにしっかりと貢献した上で送り出す形になっていますが、サッカー界はその点が“緩い”。

選手生命が野球に比べると短いことなどやむを得ない部分はあるとは思うのですが、そこのところの合理性が担保される仕組みにしたほうがいいのではないか、とは率直に感じます。チームブランディングであったり、「エスパルスの〇〇(選手名)」と印象づけたりする戦略面で難しい部分があります。

※清水エスパルスの生え抜きで2019年夏にラピド・ウィーンへ完全移籍した北川航也。クラブとの関係は現在も非常に良好だが、日本代表に選ばれてこれからの時期だっただけに「もっとプレーしてほしかった」という思いはクラブ側に当然あるに違いない。

「新しい清水エスパルス」

――清水エスパルスはオリジナル10の中でも“色”の強いクラブです。今年からエンブレムが新しくなるなど「変わっていくところ」もある一方で「変わってはいけないところ」もあると感じるのですが、社長の立場からどのように考えていますか?

変わってはいけないところに関しては、やはり市民クラブとしてスタートし、熱狂的な方々に支えられてきた歴史や文化。ファン・サポーターの方たちには「サッカー王国・静岡」の誇りがベースとしてあると思います。

そういったものを大事にしなければならない一方で、逆にややそこに胡坐をかいてとまでは言わないですが、変わりきれていない面もある。また、静岡の中でこそエスパルスはステータスがありブランディングもできていますが、全国レベルではどうなのか、と。

今の状況から飛躍するためにはブランディングなどでもう一歩変わっていかないと、ある種の恵まれた環境の中で“温室育ち”になってしまう印象を受けました。

――変わるという意味では、新スタジアムも気になります。

私もスタジアムにいろいろと問題があるとは来る前から聞いていたのですが、実際に行ってちょっと驚きました。

静岡は車社会ですし車でのアクセスはいいのだろうなと行く前は思っていたのですが、駐車場は少なく、設備的にも屋根などJリーグの基準を満たしていない点がある。正直「時計が10年から20年ほど止まった古いスタジアム」という印象は拭えませんでした。

ただ一方で、高台にあるスタジアムへたどり着けば目の前に富士山がドーンと見えますし、ピッチまでの距離がものすごく近い。臨場感もあって、「日本一のスタジアム」だとも思います(笑)。

――素晴らしい点もたくさんあるIAIスタジアム日本平ですが、「とはいえ」ということですね。

新しいスタジアムに関しては着任して以降、静岡市長や静岡県知事にお会いして話をしました。遅くとも5年以内には作ることを決定して、できるだけ早く着工に繋げていきたいです。

ソフトとなる優勝を狙える魅力的なチーム作りがもちろん先になるわけですが、ハードであるスタジアムについてもできるだけ同時並行で進めていきます。

――静岡では今年、静岡市にある静岡学園が高校サッカー選手権で優勝したことも大きな話題です。

選手たちには「高校生に負けるな」と発破をかけています(笑)。

――そんな“サッカーの街”における清水エスパルスとはどんな存在ですか?

生活の一部になっているクラブです。静岡と言えばエスパルス、そしてオレンジ色。

例えば広島における広島カープのように、街が赤に染まり、広島と聞けばカープを思い出す。清水エスパルスも同じくらい市民に浸透していて、ブランドカラーであるオレンジを街中のどこへ行っても見かけます。

生活の中に深く染みついた存在ですし、今後より一層そうなっていかなければならないと考えています。

――山室社長は千葉ロッテ時代、パフォーマンス的な面でも話題を振りまいたとうかがっています。清水エスパルスでもエイプリルフールに少しやられていましたが、今後もいろいろ期待して良いですか?

私は単に利用されているだけですから。決して自分がやりたいと言っているわけではありません(笑)。ただ、使えるコンテンツはとにかく全部使えとは言っています。

千葉ロッテはそれほど強くないチームでしたし、すごく有名な選手がいたわけでもなかったので、とにかく露出できるものは何でも使え、と。そう言っていたら広報が勝手に私を使い始めたので、迷惑していたんですよ(笑)。

私くらいでも発信力があるのであればどんどんやっていきます。監督や選手が語りかけてくれるのが一番強いとは思いますけど、対象によって変わってくる部分もありますから。私はやはりビジネスマンなので、経済やパートナー企業、一般市民の方などになるのかなと思います。

――経営の話が出ましたが、新型コロナの影響でスポンサーの方々ともやはりいろいろな話をされていますか?

自粛要請が明けてからは毎日のように回っています。これまで行っていなかったところも含め一軒一軒必死に回って、御礼とともに引き続きお願いしたいということを伝えています。

多くの方に「がんばってください」と応援をいただいて、本当にありがたいと思っています。

――再開初戦は7月4日、ホームで名古屋グランパスと対戦します。この試合は無観客でのリモートマッチとなりますが、その後、超厳戒態勢時(強い制限)での有観客試合はクラブとして考えることも多いかと思います。再開に向けて、ファン・サポーターにはどんなことを伝えたいですか?

待ちに待った再開だと思います。有観客も最初は5000人ということで多くの方にご不便をおかけしてしまうのですが、生まれ変わった、躍動するエスパルスをDAZN上でもぜひ感じ取ってもらって、一緒に盛り上げていっていただければと思います。

今回感じたことは、プロ野球と比べるとやはりJリーグのクラブは経営基盤が弱いですが、ファン・サポーターの方々もそれをご存じなのか、試験的に行ったいわゆる「投げ銭」やシーズンチケットの払い戻しなどで寄付してくれる方が多くいらっしゃって、驚くとともに本当に感謝しています。

まさにファンというよりもサポーター。“支えられている”ことを肌で感じています。

――それだけ温かいサポーターがいると、有観客の5000人を決めるのも大変ではないかと思います。5000人はどうやって決めるのでしょうか?

これが非常に悩ましいんですよ。例えば抽選などの方法もありますけど、いわゆるパートナー企業、スポンサーの方々はこうした状況下で露出機会が減っているにもかかわらず、減額せずに応援していただいています。

よって、パートナーの方が持っている席はある程度優先的に確保しようと思っています。そこから先は短い期間でありますが、シーズンシートを持っていた方、後援会の皆様と、優先順位をつけて販売させていただく予定です。このような対応にせざるをえないのかなと…。大変心苦しいところではあるのですが。

――最後に、今シーズンの清水エスパルス、試合だけでなくその周辺も含め、ここだけは見てほしい!というところを教えてください。

変わったエスパルス、新しいエスパルスをとにかく見てほしいです。

チームも変わりましたし、体制も変わって経営方針も変わりました。正直このコロナ禍でどこまで“色”を出せるかという部分はありますが、従来とは違うチームと戦い方、そしてファン・サポーターの方に喜んでいただけるような経営をやっていきたいと思っています。

そこをぜひ、チームを支えていただいているサポーターの皆さんに感じ取ってもらえればと思います。

2020 明治安田生命J1リーグ 第2節
清水エスパルスvs名古屋グランパス
7月4日(土)18:00キックオフ

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