リーマン超え「戦後最大ショック」受けた日本経済への処方箋

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今週発表された、日本の5月分の個人消費、製造業生産などの経済指標は、4月からの日本経済の落ち込みが極めて深刻だったことを改めて示しました。

5月個人消費は2月対比で約5%減少したと推計され、製造業の生産数量に至っては5月に約20%(2月対比)も急減する大ショックに見舞われました。


リーマン時を上回る経済活動縮小か

6月には経済活動がやや復調したことを勘案し、経済活動全体を示す4〜6月期GDP成長率を筆者が試算すると、前年から約10%落ち込んだと見られます。

1955年まで統計を遡れるGDP成長率において、前年対比で最も落ち込んだのはリーマンショック直後の2009年1〜3月(前年比−8.8%)。2020年4〜6月は当時を上回るインパクトで経済活動縮小が起きた可能性が高いということです。

こうした経済活動の落ち込みは、米欧をはじめ各国でみられており、日本だけが突出して悪いわけでありません。経済封鎖が厳しく行われた欧州、そして感染者が増え続けている米国よりも、日本での経済ショックは若干マイルドだったと言えます。

ただ、経済活動の強制的な制限は少なくても、自主的な抑制が広がったため、リーマンショックを超える経済ショックを受けました。

この経済ショックへの政策対応として、家計や中小企業への現金給付などの財政政策が発動されました。ただ、個人への12兆円規模の一括現金給付の決断に紆余曲折があり、さらに全国民への現金給付をスムーズに実現する制度が、歴代政権の不作為によって構築されてこなかった欠点が明らかになりました。

この問題は、米国の政策対応と比較すると明らかです。3月後半にNYなどの大都市で経済封鎖に至り、その後トランプ政権の判断と議会との調整が即座に行われ、早期の現金給付が実現しました。

米国の経済統計によれば、4、5月の2ヵ月で3,000億ドル規模の現金給付が家計にかなり行きわたり、家計が直面した経済ショックを政府が和らげました。

<写真:森田直樹/アフロ>

発表が遅い日本政府の経済統計

一方、今週判明した日本の経済活動の落ち込みは、株式市場などの投資判断に及ぼす影響はほとんどないでしょう。まず、NY州などで経済活動が止まった3月後半までに急落していた世界の株式市場は、一足早く大きな経済ショックを織り込んでいました。

現在の世界の株式市場の焦点は経済復調がスムーズに続くかどうかですが、日本では回復度合いを確認できる定量的な政府統計はまだほとんど発表されていません。

これは、官庁が作成する重要経済指標が発表されるタイミングが、米国など他国と比べて総じて遅いことの弊害と言えます。

例えば、企業の生産活動や個人消費と同様に、5月失業率が今週日本では発表されました。ただ、米国では6月早々に判明している雇用統計で、5月に失業率が低下、雇用が増加していたことが示されていました。

Google社などの位置情報が示す、経済封鎖そしてその後の解除で経済活動がどうなっているかを早く掴むことができる移動指数があります。これで、各国で経済活動再開が5月半ばから始まっていることが、ほぼリアルタイムで金融市場では確認されています。

発表が遅い日本政府の経済統計は、元々金融市場で情報価値が相当低いのですが、リアルタイムでの経済情勢把握が可能になり、日本の政府統計の存在価値は一段と低くなっています。

日本では、経済統計を作成する官庁が多くにまたがるなど、典型的な縦割り行政が弊害となっており、日本の経済統計の公表が遅いだけではなく、さらに精度も総じて低いことにつながっている、と筆者は長年強い問題意識を持っています。

日本の経済指標が金融市場において投資判断の材料にならないだけなら、弊害は小さいでしょう。ただ、雇用、個人消費、企業生産活動、など重要経済指標の発表が総じて米国などより遅いことの積み重ねは、経済情勢への認識そして政策判断の遅れを招きかねません。

実際に、今の景気後退を決定付けた2019年10月の消費増税その後のコロナ禍によって、日本の経済情勢は急速に悪化しましたが、増税後の経済の停滞を安倍政権は正確に把握していたのでしょうか?

先述した景気対策として現金補償金給付の仕組み構築をしてこなかったことに加えて、的確な経済情勢判断を可能にする体制を他国並みに整えていなかった、歴代政権と官庁の不作為がコロナ禍によって浮き彫りなったと筆者は見ています。

日本でも雇用削減が避けられない

5月の失業率は2.9%と、2019年末(2.2%)から0.7%上昇して2017年以来の高い水準まで悪化しました。リーマンショックを超える経済ショックが起きたわけで、これが労働市場に波及するのは避けられません。日本では、就業者数が緊急事態宣言が発動された4月から5月にかけてほぼ100万人減少、これは就業者の約1.5%に相当します。

一方で、激しい雇用削減が起きた米国では、5月までに約13%就業者が激減したことと比べれば、日本における雇用調整はマイルドにとどまっています。

米国での大幅な雇用調整は、企業による解雇のハードルが低くまた失業給付金の増額などの対応が一時的な失業を加速させた、の2つが影響しました。日本では大企業の雇用削減を行うハードルが高い、失業者の所得補償を手厚く行う対応が行われなかった、これらが日米の失業率変動の大きな差になっています。

日本では、多くの企業は大変な苦境に陥っている中でも、雇用削減がまだ広範囲に広がっていないと言えます。ただ、経済停滞が続けば企業自身の存続が厳しくなるため、雇用削減は避けられないでしょう。

雇用関係が維持されても休業扱いとなっている人は4月に大きく増え、5月にも423万人存在しています。6月からこの休業者の一部は仕事を得られるでしょうが、そのまま失職に至る方もいるでしょう。

仮に休業者の30%が失業すれば、失業率は5%近くまで一挙に上昇しリーマンショック後と同様に労働市場が悪化します。

経済停滞を長引かせないために

リーマンショックショック後に2兆円程度の定額給付金など、わずかな財政政策しか発動しなかった当時の麻生政権に比べれば、安倍政権が繰り出した家計などへの所得補償などはかなり大規模です。

また、2008年のリーマンショック後のように、金融市場では大幅な円高になっていません。今後この状況が続くかを筆者はやや警戒しているのですが、現段階では当時と異なり日本銀行の金融政策は、4〜6月の世界の金融市場を救ったアグレッシブなFRB(米連邦準備理事会)と遜色ない金融緩和ができていると評価できます。

ただ、経済活動再開で6月から日本経済は反転し始めましたが、今後の景気復調度合いはコロナウイルスの情勢で変わります。回復が鈍い状況が続くため、先述した潜在的な失業者が顕在化するため経済情勢が一段と悪化するリスクが大きい、と筆者は見ています。

この下振れリスクの蓋然性については議論が別れるでしょうが、少なくとも日本経済は経済活動が歴史的な落ち込みとなったため、脱デフレの対応を一からやり直す状況になりました。このため、経済正常化を後押しするために、金融財政政策が一体となりアクセルを強め、経済成長率を押し上げる政策発動が必要でしょう。

この対応が不十分だと失業・倒産が大きく増え、リーマンショック後の2009年に政権を担った民主党政権下で経済停滞が長引いた時と同様の展開が起こりえます。年内の解散総選挙の可能性を政権の中枢人物が言及するなど、日本の政治情勢が今後大きく変わるかもしれません。

経済成長を後押しする政策を本当に理解して、これまでの緊縮的な財政政策に歯止めをかける政治家の行動が、コロナ後の日本人の経済的な豊かさを大きく左右するでしょう。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>