球史に残る名外野手が認める名手とは? GG賞9度の平野謙氏が語る真の“上手さ”

西武などで活躍した平野謙氏【写真:編集部】

GG賞9度の元名手が語る”上手い現役外野手”は…中日主力の「教え子」も実践した上達の近道

広大な守備範囲や、素早い矢のような送球……。華麗で堅実なプレーでシーズンを盛り上げている外野手たち。そんな現役選手たちの姿を、元名手はどう見ているのか――。中日、西武、ロッテの計19年間でゴールデングラブ賞を9度受賞し、日本ハムや中日などでコーチも務めた平野謙氏は、一目置いている選手として2人の名前を挙げる。さらに、自身の教え子の成長を引き合いに守備上達の近道を説いた。

近年の球界を盛り上げる外野手たちを見渡し、平野氏は敢えて言う。「みんな硬いですよね。捕る時にスピードが落ちている選手もいます」。黄金期の西武で6年連続ゴールデングラブ賞の実績が言うのだから、説得力は増す。ダイナミックな捕球をすれば確かに目立つが、それは上手さではないという。「最初の守備位置でどこにいるか。打球の落下点に入る速さじゃなくて、入るまでの距離の短さなんです」と玄人の極意を話す。

その守備位置の根拠となるのが、打者の傾向が分かるデータと自軍投手の特徴、そして打者の当日の調子。主にその「3項目」を総合し、導き出すという。位置取りを間違えば、落下点までの距離が長くなるケースが増え、打球から目を切る時間も多くなって慌てる。「ポジショニングを上手くしていれば、外野手は上手く見えるものです」と名手の”コツ”を挙げる。

もちろん、現役外野手にも「上手いと思っている」選手はいる。名前を挙げた1人は巨人の亀井善行。一時は内野もプレーしたこともあったユーティリティーのベテランは、チームが日本一になった2009年に外野手としてゴールデングラブ賞を獲得している。平野氏は「捕ってから投げるまでの動作が非常にスムーズ。“ヨイショ”って投げるんじゃなくて、力感がない。動きの中で腕が触れていると思います」と魅力を語る。亀井が若手の頃から注目していたといい、深い交友はないものの、一度本人に「上手いな」と伝えたことはあるという。

教え子の中日・平田との秘話「守備が下手だと自分で思っていた」

そして、もう1人は中日の平田良介。近年低迷にあえぐチームを懸命に支えてきた不動の右翼手は、減量に着手した2018年にキャリアハイの成績を残し、ゴールデングラブ賞も受賞している。それまでは90キロ台の体重で大柄な選手のイメージもあったが、平野氏は「非常に体をうまく使う」と強調。12年から2年間、中日で外野守備走塁コーチをしていた頃の”教え子”でもあり、目を見張る成長ぶりを振り返る。

「良介は、守備が下手だと自分で思っていました。肩も弱いと思っていて、守備を好きになれていなかった」と当時を回顧。平野氏は、自信を持っていない平田に対し「それは違うよ」と言い、守備の基本を説いたという。捕球から送球につなげる素早い動作や守備位置、さらには投げ方…。二人三脚の成果は、結果と自信という形で表れた。ある試合で、バックホームでアウトにした平田の表情を見て平野氏は安心した。「その時、良介がニタっと笑って。ああ、これは大丈夫かなと思いました。結果が出ないと自信に繋がりませんからね」。

平田だけでなく、教え子たちに名外野手は多い。日本ハムのコーチを務めていた2006年には、新庄剛志(当時の登録名はSHINJO)、森本稀哲、稲葉篤紀が3人揃ってゴールデングラブ賞を受賞。「当時コーチになったばかりの頃、彼らには『欲しいなら獲らせてやるよ』って言ったこともあります」と懐かしむ。

”打てさえすればいい”という安易な外野手論はどうも寂しい。「打つのはせいぜい4打席前後ですが、守るのは9回ずっとです。あの緊張感はやらないと分からない」。現役時代にグラブを枕元に置いて寝ていたという平野氏が、一層語気を強めて言う。「守りが好きになると、本当に野球って面白くなる。こういう打球が来て、ちょっと守備のスタート遅らせたらランナーは本塁まで走るから刺せるかな……なんていろんなことを考えていたら、守っている時間は楽しくて仕方ない」。目には見えにくい魅力こそが、野球を一層奥深くしている。(小西亮 / Ryo Konishi)

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