「私も引退していたかもしれない」伊藤華英さんが見る、アスリートたちの“今”

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自身も北京・ロンドン五輪に出場経験を持つ元オリンピアンであり、現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会職員を務めている元競泳選手の伊藤華英さん。

前編では、現役のプロアスリートたちに寄り添う伊藤華英さんに、第一線で活躍している選手たちが置かれている現在の状況や、選手としての彼ら彼女らの今後についてお伺いしました。

多くの有名アスリートのプロデュースを手がけてきた、しげるちゃんの対談シリーズ第二弾です。

(聞き手:しげるちゃん/文:横畠花歩)

中央:伊藤 華英(いとう はなえ)

北京・ロンドン五輪に水泳女子日本代表として出場。現在は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会広報部戦略広報課担当係長。マットピラティスコーチとしても活躍中。

ワイプ:しげるちゃん

商品プロデューサー/インタビュアーとして活躍。CS局の旅番組にも多数出演、海外のファッション・流行などをナビゲートしている。元男子サッカー日本代表長谷部誠選手の著書『心を整える。』のプロデュースも手がけた。

「私だったらやめていたかもしれない」

しげるちゃん華英ちゃん、久しぶりだよね~。変わらずに元気そうで良かった!

華英ちゃんがオリンピック競技委員会の職員として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の広報のお仕事を初めてからどのくらいが経ったの?

伊藤さん2017年から動いてるから、もう3年かな。その3年の間に結婚も出産もして、私生活でも変化があったよね。いろいろと準備を進めてきた東京オリンピックが、コロナの影響で延期になったって聞いたときはどんなふうに感じた?自分がもし現役だったらと考えて、共感してとっても落ち込んだよね。そうよね、選手として五輪に出場もしてるもんね。今まで、大会がなくなるなんてことはなかったでしょう?そう、オリンピックが延期されるということ自体が前代未聞の話だからね。

東京2020組織委員会が主催した「1000Days to Go!私の参加宣言キャンペーン」での宣言フリップ(写真提供:伊藤華英さん)

選手たちはオリンピック出場に向けて、長い時間とエネルギーをかけて調整しているわけだもんね。この数ヶ月はと言えば、みんな練習すらできなかったんだよね?うん、プールも閉鎖されていたし。3日も休めば、泳ぐ感覚やからだの感覚が失われると言われる中で、肉体的な変化は大きいと思う。オリンピックを夢に描いてきた選手たちは、この混沌とした状況の中で、どうやってモチベーションを切り替えていくのだろう!?基本的にアスリートは、与えられたものに対して100%やりきるのがプロだと思ってるんだけど、それもゴール設定があってのことなんだよね。今の選手たちのモチベーションは、「世界中がみんな一緒」ということかな。全世界で、この苦しい状況はみんな同じだものね。今はオンラインでつながれるじゃない?外国の選手たちはSNSでポジティブな発信を続けてたりするんだけど、それに触発される日本人選手も多いみたい。もし、華英ちゃんが選手の立場だったら、どうすると思う?どうだろうな。難しい話だけど、もし引退する年だったらやめちゃってたかもしれない。若かったら、来年がんばろうっていう気持ちになれたかもしれないね。実際に、この期間中に引退を決めた選手たちもいるものね。気持ちもからだもギリギリの場合、引き際・引退の時期に関しても重要な決断をしないといけない、とてつもなく大きな転換期にあるよね。

堅実さとプライドと。求められる2つのバランス感覚

しげるちゃん1~2ヵ月前だったかしら。ロンドンオリンピックのメダリストだった、フェンシングの三宅涼選手がアルバイトをするってことが、SNSで話題になったよね?伊藤さん「こんなユニークな選手がいるの!?」って、アジアの選手たちのSNSでもトピックに挙がってたよ。『プロアスリートがアルバイトをする』っていうことが、ある意味衝撃だったんだけど、華英ちゃんはアルバイトしたことある?私自身アルバイトをしたことがなくて、ある意味ハードルが下がったかなって思うな。これを機に“企業にだけ頼るアスリート”という、スポーツ産業のあり方について考えていく必要があるな、と思わされた。きっと、同じような状況や環境の選手も他にいるかもしれないけど、公に発表をするって勇気ある行動だよね。すべてのアスリートが恵まれた環境にあるわけではないし、芸術・文化・スポーツにおけるプロに対しての待遇を、国や社会がもっと考えていけたらいいね。今回は、三宅選手のおかげで『マイナー競技のアスリートの現実』を知った方々も多かったと思うし、今後そのあり方が変わるキッカケになればいいよね。前にセカンドキャリアに対してリサーチをしたものを読んだことがあって、「考えたくない」という選手が多かったんだよね。でも、私は選手たちは将来について考えるべきだと思っていて。

現役選手としてのプライドは持ったほうがいいけど、同時に現実を見るバランス感覚を持ち合わせた選手が、これからのロールモデルになっていくのかなって感じる。

小学校でのスイムレッスンの様子(写真提供:伊藤華英さん)

振り回されない強さは、相手を認める素直さとつながっている

しげるちゃん選手たちはこの生活の中でもセルフマネジメントできているものなの?伊藤さんトップの選手たちは共通してできているよ。もちろん経験に準じて培うものでもあると思うけど、選手生命を継続するためには必要なテクニックだと思う。 華英ちゃん自身は個人競技者だったけど、個人競技と団体競技、それぞれの選手たちには考え方の違いはあるのかしら?そうだね。団体競技で必要とされるのはチームワークで、協調して目標を達成する能力が求められるよね。“みんながいる”ということが前提で物事を考える必要があるでしょう。

個人競技に関しては、チームの中に紛れる瞬間がないから、常に自分のことを考えているという感じかな。自己を探求するタイプの人が多い気がする。

キャラクターの違いもあったりするのかな?団体競技のほうが、良くも悪くも、周囲の空気感を感じ取りやすいのかなとは思うかな。個人競技は、いわゆるセルフトーク、自己と向き合う機会を多く与えられている気がする。それは華英ちゃんを見ていてよくわかる(笑)。『自分の軸』がしっかり1本通っているもんね。私は特に強いかも(笑)。でも、団体・個人に限らず、トッププロは自分に対してストイックな人が多いかな。ほかの人がどうがんばっていようが関係なかったり、相手のがんばりを素直に「すごいな」と思える人が、本当のプロなんだと思う。

今は辛い時期を過ごしている選手たちのがんばりが、報われるような舞台作りに、私も尽力していきます。

■プロフィール

伊藤 華英(いとう はなえ)

15歳で背泳ぎの選手として日本選手権に初出場を果たす。2008年には背泳ぎ女子100mで日本記録を樹立。怪我により自由形へ転向後、世界選手権・アジア大会では数々のメダルを獲得。ロンドン五輪に出場したのち、2012年の国体で現役を引退。引退後は自身の経験を踏まえ、マットピラティスコーチの資格を取得。現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会職員を務めている。

Instagram:@hanaesty
Twitter:@hanaesty

しげるちゃん

商品プロデューサー/インタビュアーとして活躍。芸能人やタレント、モデル、スポーツ選手など、様々な業界の著名人との交流が深く、自身がプロデュースするアイテムは、そんな多くの著名人が愛用することで知られ、メディアやSNSでも話題に上がる。また、CS局の旅番組にも多数出演、海外のファッション・流行などをナビゲートしている。

Instagram:@shigeru39