「マツコの知らない世界」登場のリゾートホテルが破綻、“悲痛な現場”と“届いたメール”

先日、「マツコの知らない世界で人気沸騰したホテルが経営破綻!その非情な現場」というタイトルで執筆した大型リゾートホテルの破綻レポートへ大きな反響をいただき、当該記事の補足的な内容や、掲載後の反響などについて執筆のオファーをいただきました。今回、改めてここにまとめてみたいと思います。


突きつけられた悲しい現実

過日、あるメディアでリゾートホテル破綻の現場レポートを執筆しました。そのホテルとは滋賀県大津市の「ロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ」。人気テレビ番組「マツコの知らない世界」(TBS系)など各メディアで紹介した、個人的にも思い入れのあるホテルでした。破綻といっても法的にさまざまな形態がありますが自己破産申し立てとのこと。

現地へ出向くと、破産財団の管理という面もあるので、建物への侵入をはじめ動産等の持ち出し禁止などを告知する貼り紙が当然になされていましたが、この貼り紙がホテルならでは高いホスピタリティ(感謝の思い)やホテル愛と非情なる現実との落差の象徴と感じ、写真に収め記事のサムネイル写真として使用しました。

寄せられたのは「メール」だった

記事中では、破綻を知らされたその日の現場についてもレポート。当日100人近くいた全く何も知らないスタッフが宴会場に集められました。その場で突然破綻・破産・全員解雇という事実を知らされ、さらに3時間以内にホテルから出て行くこと、今いないスタッフへは電話で連絡することなど、複数の元スタッフへの取材からリアルな現場を綴りました。

また、ホテルが歩んできた歴史や破綻に至った経緯、とあるスタッフにスポットを当てた解雇、現実の生活への不安などについても取材・執筆、結果としてコロナ禍は直接的な原因とされているものの、ホテルの過去を振り返ると、バブル崩壊後は業績が落ち込み当時の運営会社が一度経営破綻、2003年7月から事業再開した経緯があります。また、最近ではオーナーチェンジもなされました。このように財務的には厳しい状態が続いていたことがうかがえるなど大型リゾートホテルならではのリアルなドラマも表現しました。

記事が掲載されると大きな反響をいただき、評論家として生活してきた中で最も読まれた記事といっても過言ではない結果となりました。筆者の執筆量としては、ウェブメディアでいえば月間20本超といった程度で年にすると250本ほど、評論家になってからの累計では恐らく1500本くらいになります。

その中での最も反響のあった1本ということになりましたが、全く予測していない反響だけにかなり驚きました。とはいえ、掲載直後反響が押し寄せていることを直感したのが「メール」です。一般的に記事が拡散するとコメント機能がある媒体では多数の匿名コメントは寄せられます。記事への賛同・批判も含め参考になる内容も多く、その後の執筆にも生かしていくのですが、今回のような読者から筆者への直接的な反応はほとんどありません。

ところが、この記事に関しては差出人名の入った複数の感想メールが筆者へ寄せられました。その多くがホテルを利用したことがある方、中には元ホテルスタッフや親族などの関係者からのものもありました。記事では“ご当地に愛されてきたホテル”という表現をしましたが、多くのメールでまさにそうしたホテルへの思いが綴られていました。

差出人達の思い

何点か差出人の許可を得て転載します(個人的な情報などに配慮し筆者で一部表現や文体など修正しています)。

記事を読ませていただきました。
涙が止まらなかった。
幼い頃にいまはなき大好きなおばあちゃんに連れてきてもらったホテル。おめかししてここに来ることは子どもにとってハレの日という想い出でした。おばあちゃんとの思いでもなくなってしまうかのようで・・・(Sさん/30代女性)

* * *

あまり有名でもない滋賀県のホテルだが、テレビ番組などで一躍有名になり地元民としてはとても誇らしく思っていた。仕方ないとはいえ、無くなる前にもう一度行っておきたかった。(Yさん/男性)

* * *

京都や大阪の超高級ホテルにはないゆったりした温かさがあった。それはきっとスタッフのみなさん優しかったからです。かなり前になりますが、ホテルでなくし物をしたのですが、普通のホテルなら見つかったら連絡しますという感じですが、一緒になって懸命に探してくれた。ずっと忘れられない想い出です。人の温かさがなかなか伝わらない世の中だけに。(60代女性)

* * *

弟が勤めていました。記事のとおり突然大広間に集合させられ、解雇通知のプリント1枚渡されて終わりでした。弟からは昨年も赤字だったと聞いていたので大丈夫かなと思っていたのですが、こんな急に倒産するなんて本当にビックリです。ボーナスもなく、やり甲斐だけで頑張っていたのに可哀想で涙がでます。私も大好きなホテルでした。ホテルに入った瞬間から非日常感を味わえるのが最高でした。明かりのないホテルを見るのはとても辛い・・・
(Tさん/50代女性)

地元に愛されたホテルだった

ご当地では知られる存在だった大型リゾートホテルは、コミュニティ的な機能も高かったことでしょう。旅人の宿泊だけではなく、レストランでの家族との団らん、結婚式、デート、会社の宴会、有名人のディナーショー・・・地元の人々でも賑わった地元愛あってのホテルだったことが想像できます。

そんなホテルだけに街に住んで生活している人々の声は重いものがあります。数日間程度取材へ出向いて書き上げた筆者の記事は、読者からのリアルなメールによりその無力感を際立たせました。でも同時に、希有な、それもリアリティの詰まった感想メールをいただくことで、これほど書き手が勇気づけられることも知りました。何より差出人の名前が入っていることは、ホテル愛を感じると共に温かな気持ちにさせてくれました。

読者からのメールや反応については対応に限界があり、通常、筆者としてレスポンスすることは控えているのですが、今回は掲載許諾の関係で個別にメール返信しました。みなさんから「まさか返信いただけるとは思っていなかった」と言っていただき、さらに温かな気持ちになりました。とかく無味乾燥な日々にあって人々の体温を感じられるメールは嬉しいものです。

コロナ禍の影響は重く、宿泊施設の破綻も続いています。ホテルに限らず、たったひとつのニュースにもその裏側には多くの人々の葛藤や思い、感情があることを今後も想像していきたいと思います。

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