「東京を変えれば、日本全体が変わっていく。それが地方自治だ」 元東京都知事 作家 猪瀬直樹氏インタビュー【東京都知事選2020】

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2012年の東京都知事選で、日本の選挙史上で最多得票記録の433万8936票を獲得し都知事となった猪瀬直樹氏。2007年に石原慎太郎・東京都知事(当時)から任命されて副知事に就任してから、あわせて6年以上副知事と知事を務めた猪瀬氏は、今の東京都知事選に何を思うのか。お聞きしました。

選挙ドットコム編集部(以下、選コム):現職の小池百合子都知事について、4年間の都政はどのように評価されていますか?

猪瀬直樹氏(以下、猪瀬氏):今、大阪府・大阪市の特別顧問をやっているので、大阪の府政は間近に見ているが、コロナ対策を例に取ってみても、吉村知事と小池知事の対応は違っている。小池知事は「東京アラート」などのキャッチコピーを使って雰囲気をつくるが、結局は役人が作った数字の羅列。ファクトとロジックが希薄なんだよね。

大阪では、大阪府と大阪市の二重行政を解消するために、この10年間闘ってきている。だから何が説得力のある言葉か、どうやって情報を出せばいいか、ファクトとロジックをきちんと用いなければ、大阪府民は説得できない。その点、吉村知事は、闘いの中からそれを学んできちんとやってきた。

ただ、コロナ禍の中では、どうしてもその対応に当たる現職が有利になる。だから選挙戦は低調だと言っていい。小池さんに勝つつもりの対立候補が出ていないから。山本太郎さんにしても、宇都宮さんや小野さんにしても、勝つつもりで出ていない。当選できないこと前提に立候補しているんだね。

だから具体的な政策に乏しい。現職側にも政策がないから、比較をするにも政策がどれも抽象的な文字の羅列で終わっている。

選コム:各都道府県知事の役割とは?東京都知事の役割とはどのようなものでしょうか?

猪瀬氏:私が副知事になった時には、特別養護老人ホームに入れないお年寄りがたくさんいた。そこで、東京都が先例を作って変えていこうと、ケア付きの高齢者住宅のモデルを作った。

厚労省にとっては住宅産業に補助金を出すことになるのはそれまでの基準になかったし、国交省も建設の基準に合わないということで、従来の国の縦割り行政のやり方ではできなかったことね。

東京都がモデルを作った翌年には、厚労省と国交省が話し合いを始めて、国から補助金を出すことになったから、サービス付き高齢者住宅は各地にできて、今ではお客さんの奪い合いでしょ?特養にも入れる状態になった。そういうことなんだよ、東京が先取りして、国を変えていくの。

石原さんが都知事の時には、ディーゼル車規制をやって、東京の空をきれいにしたんだ。エンジン改良にコストがかかるから、業界団体の圧力なんかがあるから国はやらない。それを条例で規制した。条例は東京都内でしか適用されないが、全国移動する長距離トラックは、東京都を通らなければいけないから、東京都だけの条例でも効果は全国に波及するわけ。

それと、保育園の認可ね。認可保育所は園庭がなければダメだったけど、これも石原さんの時代に「認証保育所」を東京都が作ったんだ。園庭がなくても、近くに公園があれば良いと。そして待機児童問題も解消されてきた。

国の規制との戦いなんだよ、それが地方自治だ。東京を変えれば、日本全体が変わっていく可能性がある。

選コム:なるほど。それには戦えるリーダーが必要ですね。東日本大震災の時に、一般の方のTwitterの救援要請を見てヘリを飛ばされたと聞きました。

(編集部注)東日本大震災の際、気仙沼市中央公民館で孤立した446人を、猪瀬氏は東京消防庁に命じて救出させた。同市社会福祉協議会マザーズホーム園長から「火の海 ダメかも がんばる」という携帯電話からの電子メールを受け取った息子(イギリス在住)が、地上からの接近は難しいため空からの救出を求めることを、Twitterでツイートしたことがきっかけ。それが猪瀬氏にメンションで届き、救助が必要と判断すると直ちに東京消防庁の防災部長を呼び出し、直接ヘリ出動を命じた。地元からの出動要請がない中でのヘリ出動は極めて異例。この時の様子のほか、東日本大震災後、東京都副知事としてどのような陣頭指揮を取ったかを、『救出』(河出書房新社)にまとめている。

猪瀬氏:そう、霞が関には現業部隊がいないんだよね。たとえば、消防庁はあるが霞が関の人員は100人くらい。ところが、東京消防庁は1万8000人いる。各地の消防署にいる現業部隊は地方自治体が給料を払っているわけね。

現業部隊がいると、具体的にいろんなことできる。東京都でいえば、多摩地区も含めて一元化して、設備を高度化する。こうすることで、東日本大震災の時にのように、東北地方に救助に行くこともできる。巨大な現業部隊を作ることで、自然災害から住民を守ることができる。

大阪市と大阪府の二重行政問題も、「大阪都にしよう」というのはそういうところから出てきている問題なんだよ。大阪都になって、同じように巨大な現業部隊が持てるようになれば、九州の災害もカバーできる。大阪都と東京都で、日本全体の災害がカバーできるんだ。

都知事の時に、職員たちに「東京都は首都公務員だ。ただの公務員じゃない。100点満点の仕事をするのは当たり前。120点満点の仕事をするという使命感を持て」とよく言っていた。

選コム:そのような仕事を進められてきた中で、先ほどおっしゃったような抽象的な政策ばかりを掲げる今の都知事選は、歯がゆいと思います。その報道のあり方はどのようにお考えですか。

猪瀬氏:メディアが、過去にさかのぼって検証を全然していない。検証がないまま報道している。メディア自身が勉強しておらず、政策に詳しくない。それじゃ政策報道もできないよ。政策報道できない理由、責任はメディアにある。

選コム:おっしゃる通りで、耳が痛いです‥。新刊がもうすぐ発売されるとのことですが、どのような内容でしょうか。

猪瀬氏:「公」という1文字のタイトルでね。NewsPicksから7月10日に発売されるのが、ちょうど今日(取材日の7月1日)届いたんだ。日米開戦時の意思決定のことからコロナ対策まで、ほかの国にある「公」の意識が、なぜこの国には見られないのかをテーマに書いています。

ドイツではコロナ禍に、文化や芸術を担うクリエイター、アーティストに対し、担当大臣が「生命維持に必要不可欠な存在」と語り真っ先に給付金を支給したけど、日本では「補助する」という言い方しかしない。クリエイター、アーティストの存在は癒しでしかないんだよね。そういう違いはどこから来ているのか、ということをまとめたもの。

選コム:それは大変興味深いですね。本日は、貴重なお時間をありがとうございました!

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