【津川哲夫のF1私的開幕コラム】注目はメルセデスのDASシステムvs新サスペンションのレッドブルRB16

 今シーズンのF1マシンの各チームのコンセプトは、良く言えば2014年以降続いている規定に基づいた完成形集大成、悪く言えば後処理的最終型。特にここ2年、連続で大きな規則変更がなかったことで、ほとんどのチームが昨年型の継続開発進化型のマシンを今季にもちこみ、通常の大型アップデートに準じている。もちろんすべてのマシンがと言うことではないが。

 そのなかでやはり気になるのがツートップ、メルセデスと我らがレッドブル・ホンダ。

 今シーズンはタイトル争いでこの2チームが熾烈に争うことが予想される。フェラーリ・ファンには申し訳ないが、少なくとも3月の開幕前の冬季テストで見る限り新車フェラーリSF1000に見どころは少なく、むしろ今季の心配なチームのひとつになってしまった。

 もちろんシーズンが始まれば、話は変わってくるはずだ……と信じているが。

 さてその注目のトップ2、メカニカルな視点で目立つ変更点としてはメルセデスW11のDAS(デュアル・アクシス・ステアリング/2軸ステアリング)が挙げられる。FIAがこれを遵法と認めたので、大手を振って実戦搭載が可能だ。

 このDASはステアリングコラムを前後に押し引きすることで、ステアリングラックエンド(現実にはラック&ピニオン方式かどうかは不明)のトラックロッド・マウントポイントを前後(または上下も考えられる)に動かし、トラックロッドの可動長を変えてトーを変化させる機構だ。

 走行中にトー(トーイン・トーアウト)アングルを変え、タイヤのコンタクトパッチ(路面との接触面)のスリップアングル(進行方向とタイヤの中心線との角度)を変えて路面とのこじれの量を調整し、タイヤの温度変化を制御するのだろう。

 これはコーナリングでもトーの変化によってキャンバーの変化にもつながり、キャンバー変化はライドハイト(車高)変化にもつながる。さらに巧みな調整が可能なら、規則で禁止されている可変ジオメトリー、可変アライメントを合法的に搭載できることにもなる。

 実際、FIAはこのDAS方式をステアリング機構の内部構造として認可してしまった。だが、この可動方式がいかなるものかはまったく不明。操作のインターフェースがステアリングコラム、飛行機の操縦ハンドルの様に前後への移動で行うことしかわかってはいない。
 
 メルセデスはDFSという過激な新システム導入でタイヤマネジメントのウィークポイントを埋めてきた。しかし、ライバルのレッドブルは新車RB16で昨年のRB15での過激なコンセプトを和らげ、レッドブルとしては珍しく比較的コンベンショナルな開発を行ってきた。

 昨年のRB15ではアップライトのトップに前後のアッパーアームレグを独立させて、アップライトのピボット軸に上下ダブルデッカー(二階建て)でマウントされた立体マウントフロント・トップウィッシュボーンを採用していたが、この方式は昨年一年で消滅(アルファタウリAT01がこれを踏襲している)。今シーズンのRB16では通常の同一面での接合とマウントに変わった。

 RB16のサスペンションは剛性の向上が計られ、ミニ・アウターマウントブロックを使ってアーム取り付け位置を上方へ持ち上げるデザインが導入された。この取り付け位置の変更でアッパーアームの外側への下反角が減り、上下アーム間が若干広げられることになっている。

 さらにこの構成に加えてステアリングラック・ケースがこれまでのバルクヘッド先端マウントから後方へ下げられ、ロワアームの前後レグの間のバックレグに近い位置に搭載された。それに伴い、ステアリングナックルはアップライトの後方へ移動している。

 ロワアーム・フロントレグは左右貫通の一体型にされ、左右のマウントピボットの間はスティフナー(補強剤)としてサスペンションのラテラル(横方向)の剛性向上を担うことになる。その分、アーム自体は薄く作られ、トラックロッドの後退とともにエアロ効率の向上が計られることになった。
 
 この構成変更でRB16はRB15よちホイールベースが若干伸びたはずで、ノーズ部分のメルセデス化と大きく関係していると推測される。

 RB15は昨年、神経質だった操縦性を安定させるのに多くの時間を要したことから、RB16の開発ではある意味コンベンショナルな高剛性サスペンションとエアロゲインで、安定性の向上を狙っているのだろう。

 RB16は今シーズンに向けてサスペンションを大幅に改造したマシンの最右翼と言ってよさそうだ。

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