社説:香港の中国化 世界は厳しく向き合え

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 香港の林鄭月娥行政長官は「歴史的な一歩だ」と高らかに表明した。

 中国による香港統制を強化する香港国家安全維持法の施行を、香港の「混乱が収まる転機」と位置づけ、正当化したのだ。

 確かに香港にとって「歴史的な一歩」といえよう。しかし、多くの市民にとって、香港から自由・自治が奪われていく痛苦の一歩だ。

 この国家安全法が持つ怖さは、すぐに分かった。施行翌日の抗議デモのさなか、リュックサックの中に「香港独立」の旗を持っていただけで、男性が同法違反で逮捕された。

 警察はフェイスブックに男性と旗の写真を掲載し、見せしめにした。こうした逮捕者は10人に上り、中に「香港独立」旗を振った15歳の少女がいたのには驚く。

 反政府活動の取り締まりを目的とする同法は、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託した国家安全への危害―を犯罪とみなしており、最高刑は終身刑だ。

 何が該当するかは当局の判断次第のようだ。「香港独立」旗を所持しただけで逮捕されるなら、どんなことが違法とされるか分からない。自由な主張やデモ、集会などが、市民の萎縮で衰退するのを狙っているのだろう。

 実際に施行翌日は英国から中国への返還23年に当たり、大勢の市民が無許可デモに参加したが、同法の威力か、例年のような大規模にはならなかった。

 香港が恐怖に支配される社会に変質するのを危惧する。中国本土では、表向きには法治といいながら、当局の差配で人権派弁護士らが身柄を拘束されている。香港の行く末を案じるゆえんだ。

 施行された法によって、香港に中国政府の出先機関「国家安全維持公署」が設置され、重大とみなした事案の捜査、起訴にあたる。容疑者は中国本土で裁判にかけられる可能性もある。香港の司法の独立は骨抜きにされた。まさに香港の中国化への一歩といえる。

 中国は1997年の返還から50年間、香港の高度な自治や司法の独立を認める、としていたはずだ。84年の中英共同声明で約束し、国際的な公約とみなされてもいる。

 約束を破り、信用を損ねた代償は大きいと中国は知るべきだ。

 自由な香港だからこそ、世界中から人々が集まり経済を活発にしてきた。同法は外国人の言動にも及ぶ。強権大国の振る舞いに国際社会は厳しく向き合うべきだ。香港市民を絶望させてはならない。