【高校野球】「ダサい人間になるな」甲子園の道が閉ざされた盛岡大付ナインを救った先輩の言葉

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盛岡大付属高校・小林武都主将【写真:高橋昌江】

盛岡大付は3年ぶりの夏の甲子園を目指していた「練習をする意味があるのか」

夏季岩手県高校野球大会地区予選が1日、開幕した。昨秋の県大会で優勝し、東北大会4強の盛岡大付は4日に江南義塾との初戦を迎える。新型コロナウイルスの影響で甲子園への道が閉ざされて1度は気持ちが沈んだが、救ってくれたのは先輩によるメッセージ動画だった。盛岡大付で野球に打ち込んできた意義を見つめ直し、3年生37人は全員で戦い抜くことを誓う。

春夏通算15度の甲子園出場を誇る盛岡大付。昨年はセンバツを経験したチームだったが、岩手大会は3回戦で敗れた。秋は県大会で連覇を達成。この夏、3年ぶりの甲子園を目指していた。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で春季大会が中止となり、5月20日には選手権大会の中止も決まった。「夏の甲子園がなくなった」。その事実に「練習をする意味があるのか」と3年生の気持ちには迷いが出た。

昨秋、県大会で優勝したとはいえ、小林武都主将(3年)は「正直、まとまっていなくて。メンバーだけが頑張るチームでした」と振り返る。公式戦に出場するメンバーとメンバー外で意見の食い違いがあったり、コミュニケーション不足があったりしたという。東北大会では優勝と2年連続でのセンバツ出場を目指して戦ったが、準決勝で仙台育英(宮城)に2-9の8回コールド負け。投手陣は19安打と打ち込まれ、打力が持ち味の盛岡大付は3安打、13奪三振と抑え込まれた。「仙台育英は強すぎましたが、まとまっていれば、違った結果だったかもしれない」と小林主将。後悔が残った。

東北大会4強でシーズンを終えると、普段の生活からメンバーとメンバー外に関係なく、会話をする機会を増やそうとチーム全体で努力した。コミュニケーションを取ることで壁は徐々に薄くなり、物静かでおとなしかった部員が明るくなるなど、変化がはじまった。今年に入ると、「自分の思っていることを周りにしっかりと伝えられる人間になろう」と自分の意思を示し、責任を持つことも確かめた。

こうして結束を高め、春を迎えるはずだったが、新型コロナウイルスの影が忍び寄る。プロ、アマチュア問わず、さまざまなスポーツが中止や延期になる中、高校野球も春季大会が中止に。そして、夏の甲子園、地方大会もなくなった。心構えができていたとはいえ、いざ、中止が決まると心に穴が空いた。

盛岡大付・関口監督は08年以降のキャプテンにメッセージ動画をお願いした

そんな時、09年度卒業の増澤洵コーチのもとに盛岡大付が13年センバツで甲子園初勝利を挙げた時の主将である三浦智聡さん(現西濃運輸)から連絡があった。「何かできることはないですか」。関口清治監督が監督に就任した2008年以降の主将たちに、現在の部員に向けたメッセージ動画をお願いした。頑張ろうとする気持ちと虚無感が交錯する盛岡大付ナインは6月、編集して約30分にまとめられたメッセージ動画に見入った。

高校時代にコロナ禍は経験していないし、年代も違う。それでも、同じ学校に通い、同じユニホームを着て、同じ場所から甲子園を目指した経験を持つ者同士。先輩たちの一言一句を心に刻んだ。中でも、小林主将は「キャプテンの子」とスクリーンの中から呼びかけた藤田貴暉さんのメッセージにインパクトが残っているという。

「ここがキャプテンの見せ場だと思うので、仕事をしっかりとやり遂げてください。責任と自信を持って、思っていることを伝えて、しっかりと引っ張っていってください」

藤田さんは、ライバル・花巻東の同学年に大谷翔平投手(現エンゼルス)がいた2012年の主将だった。岩手大会準決勝の一関学院戦で当時の高校生最速となる160キロをマークした大谷と決勝で対戦。大きな注目を浴びる中、5-3で勝ち、甲子園に出場した。高校時代、同世代の“怪物”に立ち向かう日々を送った藤田さん。全体にはこんなメッセージを送った。

「みんなにはダサい人間になってほしくない。かっこいい人間になるように気を引き締めてやってほしいです。過去に悔しさを残して生きている、かっこ悪い人を何人も見ています。僕はみんなと同じ盛岡大付で高校野球を全力でやりきったからこそ、胸を張って生きていけています。みんなも甲子園がないからといって、ダラけて最後までやりきらなかったら、ダサい人間になってしまう。今しか本気になれる時はありません。関口監督が言っている『かっこいい漢になる』をとことん追求して卒業してください」

藤田さんをはじめ、歴代の主将によるメッセージによって盛岡大付の3年生はもう1度、立ち上がった。目標の甲子園はなくなっても、盛岡大付で野球をやっている目的は変わらないことを確認しあった。登録選手が1試合ごとに変更可能となる代替大会の開催も決まると、ミーティングでは「県大会、勝ちに行こう。優勝しよう」と全員で決めた。

「中途半端で終わらないように最後はやりきって、全員が納得いく形を作りたいです。レギュラーに2年生もいるのですが、勝ち進んで3年生全員が試合を経験して勝って終わりたいです」と小林主将。「秋よりも全然、まとまりがあります」と胸を張るチームで高校野球を完全燃焼する。(高橋昌江 / Masae Takahashi)