<いまを生きる 長崎コロナ禍> 消える? 大皿、直箸、杯洗… 長崎料亭文化に逆風

宴会需要戻らず 新機軸に活路

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 長崎市の料亭文化が新型コロナウイルスという逆風にさらされている。いまだ宴会の需要が戻らず、各店はテークアウトやテレワーク利用など新機軸で乗り切りを図る。伝統の卓袱(しっぽく)料理は感染リスクを避けるために大皿や直箸(じかばし)をやめるケースも。芸妓(げいこ)は“お座敷”から声が掛かるのをひたすら待つ。
 中華料亭「陶々亭」(十人町)は5月末、約70年続いたのれんを下ろした。黒しっくい塗りの外壁が目を引く和風建築は築100年を優に超え、市都市景観賞奨励賞にも選ばれた。関係者によると、経営者や料理長の高齢化に加え、コロナで客足が止まったという。
 料亭を中心とする市料理業組合は1963年には28店が加盟していた。だがその数は次第に減り、近年では国登録有形文化財だった「富貴(ふうき)楼」(上西山町)が廃業。コロナの渦中で「陶々亭」も抜け、現在は7店となった。
 「青柳」(丸山町)は3月から開店休業状態が続いたが、「花街の灯を消さないように」とあえて電気をつけたままにしていた。最近ようやく企業の少人数会合や旅行会社の仮予約が入り始めたが、宴会はまだ少ないという。
 「一力」(諏訪町)は4~5月の客足がほぼ途絶え、テークアウトを始めた。創業から207年間、料理を外に出したことはなかった。7代目女将(おかみ)の山本きよみさん(55)は「この空間でおもてなししたい。でも何もせずにいるとつらい」。従業員のモチベーションを保つ上でも決断。繰り返し注文する常連客もおり、「支えられている」と実感している。
 「史跡料亭花月」(丸山町)は5月20日まで40日間休業した。収入の柱である団体観光と婚礼がほとんどキャンセル、延期に。それでも、庭園を望む客室でのテレワークや喫茶といった企画を積極的に打ち出し、コロナで結婚式を挙げられずにいる人向けのプランは衣装、撮影、料理付きで10万円以下に抑えた。
 いずれの料亭も消毒液や空気清浄器を随所に置くなど感染予防に努める。飛沫(ひまつ)防止ビニールには「雰囲気を壊す」と後ろ向きだが、座席の間隔を広げて対応。「青柳」若旦那の山口広助さん(50)は「リスクは低い」と主張する。「もともと日本建築は通気性がいい。個室が多く、不特定多数が集まる場所でもない」
 卓袱は女将が「御鰭(おひれ)(吸い物)をどうぞ」と客に勧めて始まる。「花月」女将の中村由紀子さん(62)はその際、全従業員がマスクを外さないことに理解を求める。「たとえ、やぼと言われても、感染者を出して長崎観光のブランドを傷つけるわけにはいかない」と考える。

大皿料理を直箸で味わう卓袱(料亭一力ホームページから)

 円卓上の大皿から自分の箸で取り分ける直箸も卓袱の特長だが、「一力」は取り箸をその都度交換し、大皿で披露した後に小皿に移し替える工夫も。「花月」は要望があれば、品書きはそのままで1人前ずつ配膳する「和華蘭会席」として提供する。
 ふぐ料理で知られた料亭で、現在は専門店の「新富」(古町)。直径45センチの大皿に薄く透き通ったふぐ刺しを盛り付け、見栄えも自慢だが、当面は、一回り小さい皿を使う。
 料亭の苦境は「長崎検番」の芸妓衆にも及ぶ。5月は全く出番がなく、6月後半になって地元客が少しずつ支援を兼ね呼んでくれるように。だが、例年忙しくなる長崎くんちは中止となった。
 酒席で酌をする際は客に近づく。「日本髪とおしろいで支度した後にマスクは着けられない」と芸妓の梅喜久さん。ただ、一つの杯で客と酌み交わす作法の「杯洗(はいせん)」は控えたり、消毒用品を常に持ち歩いたりと気を付けている。
 市料理業組合は発足190年。組合長を務める「新富」店主の堤新一さん(71)は、地元客に料亭や検番に親しんでもらい、慶事や法事以外の利用も促すイベントを模索するが、いまなお県外で感染が相次ぐ状況を見て、二の足を踏む。「食文化をどう守り、時代や環境に合わせてどこまで変えるのか。バランスが難しい」