宝焼酎「純」デヴィッド・ボウイが CM 撮影に指定した枯山水庭園の深遠 1980年 7月5日 デヴィッド・ボウイのシングル「クリスタル・ジャパン」が日本でリリースされた日

宝焼酎「純」デヴィッド・ボウイが出演した TV-CM

デヴィッド・ボウイが宝焼酎「純」のCM撮影地に指定した正伝寺は、京都市の所謂市街地からは離れた北方、北区にある。

3年前の2017年7月8日、僕はボウイの京都ゆかりの地とミック・ロックによるボウイの写真展を巡る半日のバスツアー “デヴィッド・ボウイ写真展ツアー” に参加した。

正伝寺へは通りからバスが通れない細い道を15分程歩かなくてはならない。雲が多かったのに、その年初の猛暑日となった京都のうだるような暑さに、僕は汗だくになって撮影地となった庭園に辿り着いた。そこに広がっていた景色は、正に百聞は一見に如かず、自分の想像とはかなり異なるものだった。

寡聞にして、というか恐らく未だ洋楽に目覚めていなかったからという方が正しいであろう、1980年4月下旬から流れたボウイの宝焼酎「純」のCMの記憶は残念ながら殆ど無い。ましてやそのCMに使われ、同年7月5日に日本で独自にシングルリリースされた「クリスタル・ジャパン」に至っては記憶が皆無。このCMに3つのパターンがあり、その1つが正伝寺の庭園で撮影されたことも同様だ。

龍安寺ではなく正伝寺、ボウイが魅せられた枯山水庭園

WOWOWで2017年1月8日に初放送された『ノンフィクションW デヴィッド・ボウイの愛した京都』で僕は正伝寺で撮影されたCMと “再会” した。ボウイは左右後方に植え込みを従え、庭園の白い砂利に直に、足を投げ出して座っていた。なかなかに大胆な構図であったが、浅学な僕はこの庭園をかの龍安寺の様な庭園ではと勝手に思い込んだ次第である。

龍安寺が石を配置しているのに対し正伝寺はサツキの刈込みを配していた。しかし両者共に枯山水の庭園であり、石と刈込みの配置が “七五三” となっている所も、それぞれが “虎の子渡し” “獅子の子渡し” と称されている所も共通していた。浅学な僕の思い込みも強ち外れでもなかったのである。

しかし正伝寺の庭園に辿り着いた僕がまず驚いたのが遠景に捉えられた比叡山の姿であった。自己完結している筈の枯山水の庭園が、遥か遠くの比叡山を借景とし、同時に空間的な拡がりも獲得している。このダイナミズムは龍安寺では味わえないものだった。

そして庭園に向かって右側には山の斜面があるのだがこの部分も木々がしっかりと整えられ別の庭園の趣を有していて、これまた枯山水の庭園とは好対照を成していた。ここにもまた空間の拡がりが感じられたのである。

これぞクリスタル、「純」ロック・ジャパン

浅学な僕が語るのもおこがましいが、正伝寺の庭園は自己完結した世界であると同時に、拡がりを、そしてダイナミズムを感じさせる枯山水であった。勝手な想像だが、ボウイがこの京都の外れの庭園に魅せられCMの撮影地に選んだのはこんな所にも理由があったのかもしれない。

正伝寺の庭園をこの目で直に観たことによって、ボウイの「クリスタル・ジャパン」はそれまでよりも少し身近に感じられるようになった。百聞は一見に如かず。バスツアーという少々気恥ずかしい響きの短い旅ではあったが収穫は少なくなかった。

伏見城の遺構を移したということで狩野山楽の襖絵や血天井までも有し史跡としての価値も高い正伝寺、ボウイファンの方には是非一度いらして頂き、ボウイと同じ景色を眺めて頂きたい。

「純」のCMを観てボウイの映画起用を決めたのが大島渚監督。その映画はもちろん『戦場のメリークリスマス』。全てはここから始まっているのだ。

※2017年7月25日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 宮木宣嗣

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