【高校野球】嫌われ役買ってでた“鬼の副将” 1月引退の伝統が育む加藤学園の献身精神

加藤学園・野極友太朗副主将【写真:佐藤佑輔】

夏の大会後も年明けまで3年生が練習を手伝う“1月引退”の伝統

第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まり、約1か月。代替大会、引退試合、上の舞台、将来の夢……。球児たちも気持ちを切り替え、新たな目標に向かってそれぞれのスタートを切っている。新型コロナウイルスは彼らから何を奪い、何を与えたのか。Full-Countでは連載企画「#このままじゃ終われない」で球児一人ひとりの今を伝えていく。

昨秋の東海大会で4強入り。同大会で優勝した中京大中京(愛知)が明治神宮大会を制したことで、「神宮枠」により春夏通じて初めての甲子園出場を決めた加藤学園(静岡)。念願の初出場に続いて夏までも出場のチャンスを奪われたが、自粛明けの全体練習でもチームに悲壮感はなかった。「中止の落胆よりも、まずは全員で揃って野球できる喜びの方が大きかったように思う」と米山監督。静岡は他県よりも代替大会の開催決定が遅く、大会が行われるかもわからないなかでの練習再開となったが、それでも選手が前を向けた理由のひとつには同校のある“伝統”がある。

「ウチは代々、年が明けた1月に3年生の退部式をやる。受験などの事情がある場合は別ですが、それ以外は現役引退後も新チームの手伝いのために毎日グラウンドに出る。それまで練習を手伝ってもらったぶん、夏が終わったら今度は後輩たちに恩返しする番。そうやって人のため、チームのために尽くせる人間になるよう教えています。この春卒業した3年生も新チームの選抜出場が決まるころまで毎日練習を手伝ってくれたし、今の3年生も代替大会が決まるまでの間、新2年生の代のためと気持ちを切り替えて頑張ってくれた」

引退後の3年生が練習を手伝うことで育まれる自己犠牲と献身の精神

代替大会が決まっても、チームは学年関係なしのベストメンバーで試合に臨む。秋の大会では下級生4人がレギュラーに名を連ねており、3年生16人全員が試合に出られるかはわからない。そんな3年生のなかでも、加藤学園の自己犠牲精神の象徴として米山監督が挙げるのが、副主将の野極(のぎわ)友太朗(3年)。秋は出場機会がなかったが、それでもチームのことを第一に考え、自らミスした選手には檄を飛ばす“嫌われ役”を買ってでた。

「最初は自分も試合に出たいという思いもあったけど、それが叶わないなかでチームのために何ができるかを考えられるようになりました。甲子園がすべてじゃなく、人のために何ができるか考えられる人になることが何より大事。夏の中止が決まったときは、自分たちの代は終わった、それなら後輩たちのためにできることをやろうと気持ちを切り替えることができました」

高校野球で教わった献身、自己犠牲の精神。それは前例のない状況を受け入れる強さや、自身の将来にもつながっている。

「自分がレギュラーで出たいという気持ちも、甲子園でやりたいという気持ちも根本は一緒。そこで自分が、自分がという思いを堪えることで、チームの勝利のために動けたり、人の命を救うことにもつながる。卒業後は人の命のために自分を犠牲にできる、消防士になるのが夢です。ここで教わった献身の気持ちを持って、人のために尽くせる仕事に就きたい」

“1月引退”の伝統が育む加藤学園の自己犠牲精神。甲子園初出場と夏のチャンスを絶たれた無念も、選手たちはその犠牲が無意味ではないことを知っている。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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