なぜ、在宅勤務にネガティブな印象を持つ主婦が増えたのか?

日本生産性本部が今年5月に発表した「新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査」によると、自宅で勤務している人の比率29.0%。

在宅勤務は、仕事と家庭の両立を希望する"働く主婦層"など、ワークライフバランスを重視する人が理想とする働き方の一つです。

そんな在宅勤務が、皮肉にも新型コロナウイルスの蔓延によって促進されることとなりました。しかしどうやら、コロナ禍が生じる前と後とでは、在宅勤務に対する印象が微妙に変化しているようです。


「育児しながら働く人が増える」7割超

緊急事態宣言発令中の2020年5月、しゅふJOB総研は働く主婦層を対象に行った調査で、「在宅勤務がもっと一般的な働き方として広まった場合、働く主婦層の仕事環境にはどのような変化が起きると思いますか」と尋ねました。(n=1000)

有効回答数1,000人

最も多かった回答は、「育児しながら働く人が増える」で74.0%。さらに、「介護しながら働く人が増える」、「ウイルス感染などが広がっても働き続けられる」「夫が転勤しても仕事を継続できる」と続き、在宅勤務をポジティブに評価する選択肢が上位に並びました。

在宅勤務者はまだまだ少数派ですが、広く普及させることによって多くのメリットがもたらされる可能性を秘めていることが伺えます。

コロナ禍発生前との比較

ところが、2018年に行った同調査の結果と比較すると違う側面が見えてきます。選択項目ごとに比較したグラフが以下です。(2020年:n=1000、2018年:n=770 ※2020年調査で新たに追加した選択肢は除外)

有効回答数:2000年は1,000人、2018年は770人

2020年調査の上位5つの選択肢が、軒並み2018年調査の結果より短くなっています。一方、下位の選択肢の中には、2020年調査のグラフの方が長くなっているものもあります。

2020年と2018年の調査結果の差をグラフにして並べた図を見ると、一つの傾向が浮かび上がってきます。

2018年調査と比較して比率が最も増えた選択肢が一番左。そこから右にかけて値が減少していき、一番右が2018年調査から最も減った選択肢です。

ネガティブな項目の選択比率が増加

選択比率が最も増えた選択肢は「家の中にいても仕事に束縛されてしまう」で+13.9ポイント。次いで、「通勤しなくなり気分転換がしづらくて仕事効率が落ちる」「通勤しなくなり仕事をサボってしまう」と続きます。これらは在宅勤務をネガティブに評価する選択肢です。

一方、選択比率が最も減った選択肢は「介護しながら働く人が増える」で-16.5ポイント。次いで、「夫が転勤しても仕事を継続できる」「育児しながら働く人が増える」と続きます。こちらは在宅勤務をポジティブに評価する選択肢ばかりです。

2018年と比較すると、コロナ禍による緊急事態宣言中に行った調査の傾向は、在宅勤務に対するネガティブな印象が高まり、ポジティブな印象が低くなったと言えます。それはフリーコメントに寄せられた声にも表れています。

「在宅勤務は良いが 家族は気を遣ってストレスとなる」「夫婦で在宅勤務になると、仕事場が足りない」「在宅勤務によって、家族関係は、悪くなった」「子どもが休園で、在宅ワークしながら育児は、効率は1/6くらいに落ちた」「子どもが預けられなくなったので、在宅勤務が地獄」

在宅勤務=理想の実現ではない

他にも、「コロナ禍の在宅勤務と、通常時の在宅勤務は全く別物」という声もありました。在宅勤務に対するネガティブな印象が高まった理由は、この声に集約されているように思います。

コロナ禍によって在宅勤務が広まったケースの多くは、言わば緊急避難的な措置です。在宅勤務であっても十分なパフォーマンスが発揮できるよう設計された業務体制のもとに行われた措置ではなく、通勤前提の業務体制がベースになっています。

逆から見れば、在宅勤務でも成果が出せるよう業務設計されていた職場とそうでない職場との差が、コロナ禍によってあぶり出されたとも言えます。

緊急事態宣言後の通勤ラッシュなどを見ると、withコロナ時代において在宅勤務の普及は喫緊の課題だと感じます。しかし、在宅勤務は自宅を仕事場にすることで少なからず家族の生活にも影響を与えたり、小さいお子さんを預ける先がないと業務に差し障りが出ることもあります。

コロナ禍による緊急避難的な在宅勤務を通して見えたのは、個々の生活や業務体制のあり方など周辺環境を整えることの重要性です。withコロナ時代に誰もが最適なワークスタイルを見つけられるようにするためには、ただ働き方を柔軟にするだけではなく、個々の事情に応じたピンポイントのサービスを社会の中により充実させていくことが必要なのだと思います。

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