「熱中症警戒アラート」って何? 暑さ指数を発令基準に、関東甲信で今夏から試行

19年8月に行われたイベントの会場で、熱中症への注意を呼び掛ける電光掲示板=東京・有明の東京ビッグサイト

 長い梅雨も徐々に明け列島はいよいよ夏本番。マスクの手放せない時節柄もあり熱中症への注意が例年以上に必要になる中、参考になりそうなのが関東甲信の9都県で7月からスタートした「熱中症警戒アラート」だ。

 環境省と気象庁が来年度からの全国運用に向けて試行するもので、多い年には10万人近くが救急搬送されている熱中症対策として導入した。長梅雨の影響もありいまだ〝発令〟に至っていないが、既存の高温注意情報との違いはどこにあり、なぜ新たな仕組みを設けたのか。その狙いと特徴をまとめた。(共同通信=松森好巨)

 アラートの特徴としてまず挙げられるのが「暑さ指数」(WBGT)を発令の基準にしていること。

 暑さ指数は熱中症予防を目的とした指標で、気温や湿度のほか日差しの強さから算出される。環境省によると、米国発祥で、国際標準化機構(ISO)など国際的に認められている。単位はセ氏で示され、実際の気温より3~4度低くなることが多い。

 日本生気象学会や日本スポーツ協会は、暑さ指数をもとに熱中症の予防策を段階的に分類した指針を作っている。例えば指数が31度以上だった場合をみてみると、同学会がまとめた日常生活に関する指針は「危険」として外出を避けるなどの対応を求めているほか、同協会の指針は「運動は原則中止」としている。

 熱中症予防のため各種団体の指針に用いられるなど、有効性が確認されている暑さ指数。一方で、環境省の「熱中症予防情報サイト」に全国の日々の数値が掲載されているものの、大雨警報などのように「プッシュ型」で国民に伝えられることがほとんどない上に、そもそも国民の間の認知度が低いことが課題になっていたという。

 今回のアラートは、有効ではあるけれどなじみの薄い暑さ指数を、気象庁のシステムを通じて広く発信するものだ。

 具体的には暑さ指数が「33度以上」になると予想された場合、都県単位で前日の夕方や当日の朝にアラートを発表。アラートが出ると気象庁から報道機関や自治体、気象会社へと伝えられ、防災無線やニュースなどで一般の人たちに熱中症予防への対応を促す―という流れが想定されている。

 また、環境省公式アカウントの登録が必要となるものの、7月31日からは無料通信アプリ「LINE(ライン)」での配信も始まっている。 

 熱中症への警戒を呼び掛ける仕組みとしては、予想最高気温が35度以上の場合に気象庁の出す高温注意情報が既に存在している。ただ、基準が明確で分かりやすい利点もあったが、高温注意情報と熱中症の搬送人数が必ずしも相関していないことが指摘されていた。

 加えて、2018年7月には12日連続で発表されるなど、年によっては連日発表されるため、受け取る側にとって情報の重要性が薄れているのではとの懸念も挙がっていたという。

 この点、暑さ指数は熱中症の搬送人数との相関が高いとされる。発表頻度も、環境省の示した数値によると、東京都内で指数が33度を超えた日は2014年から18年までの5年間で平均して7回だった。とはいえ、猛暑だった19年は20回に達しており、同年に東京都に出された高温注意情報の23回とそれほどの変化はない。

 ところで、日本生気象学会などの指針によれば暑さ指数が31度を超えると熱中症のリスクは「危険」となるが、アラートは33度以上を発表の基準としているのはなぜなのだろう。

 環境省の担当者に聞くと「制度を試行するにあたりどの程度に設定するかは議論があった」という。そうした中で、指数が31度以上では過去のデータから高温注意情報と同様に連日のように発表されることもあり得るため、「おおかみ少年」になるのを避けるためもあって33度以上にしたという。

 今回のアラートの運用は10月28日まで。その後、来年度からの全国運用を目指し救急搬送者の減少効果などを検証していく。高温注意情報は関東甲信以外の地域では今年度は従来どおり発表されるが、来年度以降、アラートの全国拡大に伴い廃止される。

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