「富岳」スパコン世界一で「日の丸半導体」復活の狼煙

富士通と理化学研究所が共同で開発したスーパーコンピュータ「富岳」が演算スピードを競う世界ランキング「TOP500」において首位を獲得しました。

日本製のスパコンが首位となるのは、前世代スパコン「京」が2011年11月に首位となって以来で8年半ぶりの快挙です。


演算スピードはスマホ2000万台に匹敵

演算スピードについて「富岳」は、スマートフォン2,000万台分に匹敵する1秒間に41.5京回の計算を行い、2位の米国IBM製スーパーコンピュータ「サミット」に約3倍の性能差をつけました。

また、「TOP500」ばかりでなく、市販ソフトを使った実用性評価、人工知能で必須のデータを学習する能力、ビッグデータの処理能力などでも首位となり、4冠を達成しました。1993年に初めてスパコンの世界ランキングが発表されてから四半世紀以上経ちますが、4部門を同時に受賞するという世界初の快挙を「富岳」が成し遂げました。

偉業は独自開発のスパコン用プロセッサのおかげ

今回の偉業達成は「A64FX」という画期的なプロセッサを開発できたことが理由です。このプロセッサはソフトバンクの子会社である、英国のARM社のテクノロジーを富士通がスパコン向けに拡張し、独自技術と融合させ完成させました。製造はiPhoneのプロセッサ「A」シリーズを受託製造している台湾セミコンダクタ(TSMC)で最先端の7ナノ技術で製造されています。

ちなみにARMベースのプロセッサを搭載したスパコンが世界トップとなったのは今回が初めてです。インテルやAMDのプロセッサに比べ、処理性能が上回り、消費電力が低く、製造コストも安いという驚異的なプロセッサで、日本のプロセッサ技術が依然として世界レベルにあることを証明しました。

高性能で消費電力が低い(すなわち環境に優しい)「A64FX」は高性能コンピューティングにおいてゲームチェンジャーになりうるプロセッサです。「A64FX」の詳細が明らかになったのは2019年ですが、米国のヒューレットパッカード社やスパコンの老舗メーカー・クレイ社は自社製スパコンへの「A64FX」搭載を決めました。

これら2社のスパコンに米国製以外のプロセッサが搭載されるのは初めてで、軍事研究で有名なロスアラモス国立研究所や、基礎研究を幅広く行うオークリッジ国立研究所など米国の複数の研究所や大学に納入されます。日本でもJAXAから「A64FX」を搭載したサーバーを富士通が受注しています。

運用が前倒しされた「冨岳」についても、すでに新型コロナウイルスの飛沫拡散のシミュレーションで使われています。来年から本格運用が始まった後は、創薬や気象・気候予測、新材料の開発など幅広い用途で活用されます。来年になると5Gの商用化が本格化します。「富岳」や「A64FX」の活躍の場は今後さらに広がると予想されます。

半導体の関連銘柄全体の底上げに

「富岳」関連銘柄としては、開発を主導した富士通(証券コード:6702)、英ARM社の親会社であるソフトバンクグループ(9984)、「A64FX」プロセッサを受託生産している台湾セミコンダクタを主要顧客とするSCREENホールディングス(7735)、東京エレクトロン(8035)、レーザーテック(6920)、信越化学工業(4063)、トリケミカル研究所(4369)、東京応化工業(4186)などが挙げられます。

いずれにせよ半導体の関連銘柄全体の底上げにつながるポジティブなニュースと言えそうです。

<文:投資調査部 斎藤和嘉>

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