「それは世界の終わりのようでした」モザンビーク、銃声の中を逃げ惑う人びと

攻撃から逃れ避難民キャンプで生活する女性 © MSF

攻撃から逃れ避難民キャンプで生活する女性 © MSF

 「銃声が響く中、1000人を超える人たちが一斉に走って逃げました。女性や子ども、高齢者、そして病人までもが……。まるでこの世の終わりのようでした」

モザンビーク北部に位置し、天然ガスなどの資源が豊富なカーボ・デルガード州で、権力争いのため武装勢力による攻撃が激化している。銃撃を逃れた国境なき医師団(MSF)スタッフが体験を伝える。

赤ちゃんを抱えた女性は——

 2020年5月28日、カーボ・デルガード州マコミアで激しい銃撃が発生。銃声が響き、あたりが炎に包まれていく中、人びとは茂みを目指して逃げた。マコミアで活動していたMSFのスタッフは、こう振り返る。

「銃撃の音を聞き、町中の人びとが茂みに向かって走っていきました。男性、女性、高齢者、 子ども、そして病人まで、1000人を超す人びとが一斉に逃げていて、まるでこの世の終わりを見ているようでした。

逃げた先は、とげだらけの木々が生える密林です。誰もが喉が渇き空腹でしたが、そこには水もありません。

そこからリカンガノという場所を目指しました。途中で何度も丘を上ったり下りたり……、大変な道のりです。高齢者や病人、子どもたちは、崖をよじ登ったり障害物を飛び越えたりすることができず、なおさら大変でした。混乱の中でパニックになる子どももいました。

赤ちゃんを抱えたある女性は、崖を下りるために赤ちゃんを残してまず自分が下りました。その瞬間、大きな銃声が響いたのです。人びとが走り出す中、『誰か赤ちゃんを渡して!』と叫んでいましたが、誰も助けることができませんでした。本当に恐ろしいことです」

人びとが避難生活を送るキャンプ © MSF

人びとが避難生活を送るキャンプ © MSF

困難の中にある人たちの命を守る

5月28日の攻撃による死傷者数は公式には発表されていないが、複数の子どもを含む、少なくとも15人が死亡したという情報もある。何日も茂みの中に隠れていて、何も食べる物がなく衰弱死した人たちもいるという。

今回の攻撃でMSFの診療所は甚大な被害を受け、MSFはそこでの活動を一時停止している。この施設は、2019年にこの地を襲った大型のサイクロンで被害を受け、その後MSFが再建したものだ。およそ3万人の住民に大切な医療サービスを提供してきた。しかし今回の攻撃を受け、地域住民は医療を受けることがさらに難しくなっている。

紛争により、2月の時点ですでに20万人以上が家を追われ、その数は増え続ける一方だ。患者、医療チーム、そして施設の安全を確保した上で、MSFはカーボ・デルガード州で避難生活を送る人びとへの活動に力を入れる。

いまだ終わらない紛争で困難を強いられている人たちのために、MSFは力の限り医療援助を届けていく。 

かつて多くの患者を受け入れていた診療所(2019年撮影)が紛争により破壊された © MSF

かつて多くの患者を受け入れていた診療所(2019年撮影)が紛争により破壊された © MSF

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