大崎 地域と一緒に築いた礎 県王座守って後輩へ 【連載】球夏到来・上

練習後の夕食で丼に白飯をつぎ分ける大崎の選手=西海市

 長崎の高校野球界に新風が吹いた。昨秋の県大会決勝。近年、全国で活躍する創成館を、大崎が破って58年ぶりの頂点に立った。続く九州大会は1回戦で敗れたが、準優勝した大分商と延長にもつれる好勝負。その力もさることながら、話題になったのが、三塁側自陣スタンドに入りきれないほどの応援団だった。
 清峰や佐世保実を全国に導いた清水央彦監督の就任を機に、定員割れが続く全校生徒100人余の学校、過疎化が進む地域が変わり始めた。「西海市から初の甲子園へ」と行政もハード、ソフト両面でバックアップ。監督3年目となる今年は昨秋に続いて夏の王座も十分視界に捉えている。
 大島大橋で陸続きではあるが、海に囲まれた島の学校。選手は高台にある寮から3.5キロ離れた学校、そこから約2キロある練習場の往復10キロ超を自転車で行き来する。丸刈りで日焼けした元気な高校生の集団は、地域の人たちの注目の的になっていった。
 3年生の入学時から寮の食事を世話する68歳の丸山すみ子さんも球児のファンの1人。下級生が入り、1日約30キロの米を消費する日々は慌ただしいが「かわいくて、成長を見るのが楽しくて仕方がない。試合を見に来る保護者たちから“大きくなった”と言われると、うれしくなる」と笑う。
 「農作業中にあいさつをしてくれた」「草刈りを手伝ってもらった」と地元の人から新鮮な野菜や海産物をもらうことは少なくない。清水監督は「高校野球や、あいさつが偉いわけではない。大崎という地域が、選手たちを特別にしてくれている」。主将の坂口航大も「応援してくれる人の中には顔も知らない人もいる。その支えで大きくなれた」と感謝する。
 後援会活動も活発で、大会の応援には地元造船所のブラスバンドも加わった。それだけに、最大の目標であり、一番の恩返しになる甲子園という場をコロナ禍で失った無念は計り知れない。中止が決まった5月20日の夜も「実感が湧かなかったし、体を動かしていた方が楽だったから」(坂口)と、ただただ寮でバットを振り続けた。
 夢は果たせなかった。だが、3年生たちが地域と一緒に築いてきた礎は大きい。後輩に道も示した。「大崎には負けられない」という学校も増えてきた。それは今後、県全体のレベルアップにもつながってくるはずだ。
 今大会で県の王座を守れるかどうかは、そこにさらなる意味をもたらすだろう。清水監督はこう期待を込める。「全国で優勝を狙うための分厚い基礎になってほしい」

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 県内で今年最初の高校野球がいよいよ始まる。各チームそれぞれの思いを胸に挑む中、3校の選手たちに焦点を当てた。

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