【MLB】最高のナックルカーブは「我らがダルビッシュ有」 お股ニキが選ぶ魔球の使い手は?

カブス・ダルビッシュ有【写真:AP】

野球の新たな視点を提案する“プロウト(プロの素人)”お股ニキによる新連載スタート

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第3回 カーブ】

野球界には「魔球」と呼ばれるボールがある。マウンド上で魔球を操り、打者に手も足も出させないピッチャーの姿は圧巻そのもの。野球好きなら見逃してはほしくない最高の場面でもある。日本では平松政次のカミソリシュート、メジャーではマリアノ・リベラのカットボールなど、かつて球界を沸かせた魔球は伝説の域に達する。

では、現役の中にも魔球の使い手はいないのだろうか。そんな疑問にお応えするのが、新連載「お股ニキが選ぶ3+1」だ。SNSや著書を通じ、野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、各球種における「球界トップ3」を独断と偏見でピックアップ。トップ3入りはならずも要チェックの「プラス1」を加えた4投手を解説とともにご紹介していく。

今回はメジャーに君臨する「カーブ」の使い手にスポットを当てた。最近では、オーソドックスなスローカーブよりスピードの速い「ナックルカーブ」が大きな注目を集めている。空振り率が高いのが特徴とも言えるナックルカーブだが、お股ニキ氏が選んだ屈指の投手とは……。
(データはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】ダルビッシュ有(カブス)右投 ナックルカーブ
回転効率79.3% 平均球速79.64マイル(約128.2キロ) Spin Axis 7:09 2738回転
空振り率28.81% 投球割合2.07% 被打率.083 ピッチバリュー/100:4.35

カーブは通常、ボールが一旦浮き上がってピッチトンネルを形成できないものだが、この男のものは違う。カブスで同僚となった87マイル(約140キロ)近い高速ナックルカーブを武器とする守護神クレイグ・キンブレルから教わり、わずか1週間でマスターしたというのが、我らがダルビッシュ有である。元々スライダーやカーブといったブレーキングボールを得意としていた。個人的にも、より高速で縦に落ちるカーブを投げられればと思っていたら、“変化球の天才”はあっさりとマスターしてしまった。

80マイル(約130キロ)ほどで大きく落下する高速・高回転のナックルカーブで多くの空振りを奪い、高い指標を残した(空振り率28%、被打率.083、ピッチバリュー/100 4.65)。映像で見ても4シームと途中まで軌道が近く、やや遅めのスピードでありながらピッチトンネルを構成できていると言える。

このナックルカーブはある程度、打者に近い位置でトップスピンをかけなければならないカーブだが、手首を屈曲させながら、人差し指を立てて中指で鋭く回転を与えるイメージで、広背筋をうまく使うのがポイントのようだ。その握り方や投げ方は、ダルビッシュのYouTubeチャンネルが参考になる。

ダルビッシュを「打つのは難しい」と唸らせた投手とは…?

【2位】ヘルマン・マルケス(ロッキーズ)右投 ナックルカーブ
回転効率28.5% 平均球速83.2マイル(約133.9キロ) Spin Axis 9:09 2693回転
空振り率24.0% 投球割合23.47% 被打率.130 ピッチバリュー/100:2.4

ロッキーズのエース、ヘルマン・マルケスのナックルカーブは、カーブにしてはスピードが80マイル(約130キロ)超と速く、ジャイロ回転を持つため少し遅いスラッターのように縦にカクッと落ちて原点(※1)近くに変化する。ひょっとすると、この実質は遅いスラッターのようなナックルカーブと、速いスラット型スライダーとを投げ分けているのかもしれない。ダルビッシュは2019年6月5日と10日、2戦連続でマルケスと投げあった。その際、実際に彼のナックルカーブを打席で見て、打つのは難しいと感じたという。

昨季中盤以降はスラッター偏重配球となって自滅することが多く、成績が降下していった。標高1600メートルの高地で空気が薄く、ボールの変化量が小さくなりがちな本拠地クアーズフィールドでは、このナックルカーブの比率を上げていくことも、成功するためには必要かもしれない。さらに本拠地では4シームの伸びも減少傾向にあるよう。これらを克服するか、他球団に移籍すれば、サイ・ヤング賞候補にもなれるだろう。

※1 完全なジャイロボールで左右に全く変化せず重力でのみ落下するボールの変化量を縦、横変化(0,0)の原点とする。

【3位】チャーリー・モートン(レイズ)右投 ナックルカーブ
回転効率88.5% 平均球速77.18マイル(約124.2キロ) Spin Axis 8:02 2886回転
空振り率16.9% 投球割合37.34% 被打率.151 ピッチバリュー/100:2.1

キャリア前半は軟投派のイメージが強かったチャーリー・モートン。「もっと速い球を投げてみたら」と言われたこともあるというが、今では最速98マイル(約159キロ)に達する速球を操る。パイレーツ時代の2012年にトミー・ジョン手術。復帰後は、2シームを多投しながらデータ分析によるシフトと組み合わせ、ゴロを打たせて取る投球を目指していた。だが、2017年にアストロズに移籍すると路線変更。2シームを減らして4シームとカーブを増やして奪三振率がアップしたが、その最大の武器がナックルカーブである

斜め横に大きく曲がり、左バッターの股の下を抜けていくほどの変化を持つ。実質はスラーブとも言えるナックルカーブを中心に攻めるモートンは、レイズ移籍1年目の昨季、被本塁打を少なくまとめ上げて、サイ・ヤング賞レースでア・リーグの3位に食い込んだ。1位のバーランダー、2位のコールとはアストロズ時代の同僚であり、このことからもアストロズの投球改革およびレイズの投球指導の適切性が分かるというものだ。ストラスバーグのカーブとも悩んだが、昨年の成績でモートンを選出させていただいた。

ベテランになったサイ・ヤング賞投手に活路を与えたスローカーブ

【プラス1】ザック・グリンキー(アストロズ)右投 スローカーブ
回転効率78.7% 平均球速69.12マイル(約111.2キロ) Spin Axis 7:31 2445回転
空振り率17.0% 使用割合14.62% 被打率.140 ピッチバリュー/100:3.1

ザック・グリンキーのスローカーブは独特だ。時速100キロ(約62マイル)を割ることもある超スローカーブでタイミングを外し、バッターの腰を砕けさせて空振りを奪う。かつては100マイル(約161キロ)近い快速球を誇ったグリンキーも、もう齢(よわい)36歳。スピードの低下は顕著だが、独特の投球術で打者を打ち取っていく。90マイル(約145キロ)ほどに球速が低下した4シームよりも速いことすらある高速チェンジアップで空振りやゴロを奪う。

かつて最も良かったスラッターはスピードが低下して圧倒的なものではなくなったものの、速球と見せかけて左右に曲げ落とす変化球を意識させながら、まっスラ気味の4シームと組み合わせる。そうした速いボールを意識させつつ、100キロのスローカーブを投げ込み生まれる緩急で打者を翻弄。守備にも定評があり、併殺を上手くとることもできる。

これだけの圧倒的な投球術があることが、ベテランとなって速球の平均球速が90マイル(約145キロ)を割っても、今なおエースクラスの投球ができる理由だろう。スローカーブの指標も高く、スピードが出なくなった時にとるべきアプローチとしても的確だ。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。(お股ニキ / Omataniki)

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