国内MaaSにおける協調領域の創出を。JCoMaaS総会・シンポ開催

一般社団法人JCoMaaSは6月22日に、JCoMaaS総会をオンラインで開催した。当日は60名を超える会員が参加し、総会に引き続き行われたシンポジウムでは、参画会員のうち9事業者が活動事例と今後の取り組みについて報告した。

JCoMaaSは日本国内のMaaS(Mobility as a Service)およびモビリティサービスに関する産官学で知の共有を行い、移動や都市の改善、技術革新につなげることを目的に2018年12月に設立した。

発足から1年以上経ち、参画団体は交通事業者や行政、大学、研究機関など計53団体

となり、現在も増えているという。組織目標に日本国内でMaaSにおける協調領域の創出を掲げ、定期的な研究会やワーキンググループ等の活動を進めている。

※6月22日の取材時点

MaaS協調領域を創出には、多様な取り組みが必要

JCoMaaS代表理事で横浜国立大学副学長の中村文彦教授は総会冒頭の挨拶で、日本国内でもMaaSの取り組みが各地で進み始めている状況に触れ、「産官学が協力し、中立な立場で海外からも学び発信していくという目標が少しずつ形になってきている」と語った。

前半の年次報告では理事兼事務局長である株式会社MaaS Tech Japan代表取締役社長の日高洋祐氏が活動報告を行った。毎月の定例研究会のほか、ワークショップや会員事業者によるMaaS実証実験の現地視察、Fintech協会との共催イベント、ITS世界会議など国際会議への参加などさまざまな取り組みを実施したという。

日高氏は「多くのMaaS事業者がいる中で、MaaSの協調領域を生み出すためには、多様なことに取り組む必要がある。来期も続けて質の高い、最新の情報を共有発信していきたい」と意欲を示した。

後半のシンポジウムでは、参画団体による各事業者の取り組み事例報告が行われた。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、観光型および都市型MaaSの実証実験について紹介した。観光型については2019年4月から伊豆、新潟、群馬、仙台などで継続的に実施しており、今年度中に仙台で2回目のMaaS実証実験を行う予定だという。

また6月23日に新たに発足した同社MaaS・Suica推進本部の鷲谷敦子氏は「交通系ICカードSuicaは重要コンテンツだと位置づけており連携を加速していく。ただ、Suicaに限定するわけではなく、お客様に使われるサービスとなるよう、他の決済手段ともしっかり連携していく」と同社のMaaSへの方針を説明した。

コロナ社会でのMaaS、各社で多様な取り組み

その後、会員企業らはコロナ禍による社会変化への取り組みについて、具体的な事例を報告しあった。

株式会社ゼンリンは、コロナ禍により都心の移動は減少する一方、郊外の移動は地域内および地域間ともに増加している点を挙げ、同社IoT事業本部MaaS企画部の藤尾秀樹氏は、「移動に求める価値が量から質へ変化していると感じる」と指摘。

今後、郊外では飲食小売店や物流との連携による沿線の魅力づくり、都心ではバリアフリーや混雑回避などによる快適な移動、地方ではローカルツーリズム的な移動などが求められ、さらに複雑になっていくとした。

藤尾氏はアフターコロナ社会に生じる、これらの移動ルートの複雑化に対して「交通ネットワークの構築と可視化ソリューション開発の2軸から取り組んでいく」と語った。

株式会社ヴァル研究所MaaS Projectスペシャリストの山口憶人氏は、徒歩や自転車などを既に取り入れている複合経路検索への混雑情報の掲出や、シェアオフィスやレンタルオフィス、ホテルのデイユースのレコメンド機能など、新しい生活様式を見据えた機能開発も方向性の一つと説明した。

このほかにもシンポジウムでは、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターや西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)、神姫バス株式会社、経済産業省、国土交通省などの計9団体の登壇者による取り組み事例の報告が行われた。

各参画団体の活動報告について、中村代表理事は「色々な立ち位置からの課題や意識の共有、議論のポイントなど多くのヒントを得た」と講評を述べた。

最後は、JCoMaaSの理事で東京大学 生産技術研究所の須田義大教授が「MaaSにおける協調領域の活動をさらに発展させ、新しい移動の世界を早急に実現していきたい」と述べ、会を締め括った。

【取材後記】

参画団体の顔ぶれや各事業者の取り組み事例は多岐にわたり、コロナ禍においても引き続き国内MaaS市場の活発な進展の一端を垣間見る総会およびシンポジウムだった。オープン・中立的な立場で、企業の枠を超えて取り組む JCoMaaSは、どのような存在感を示していくのだろうか。

(記事/柴田 祐希)

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