レギュラーの証「規定打席」 基準となる「試合数×3.1」はどのように決まったのか?

昨シーズン両リーグでの打席数がトップだったヤクルト・山田哲人(左)と現レッズの秋山翔吾【写真:荒川祐史】

当初、MLBでは打者は「全試合中3分の2以上出場」という基準が設けられる

野球の規定打席は、打撃の「率」関係のランキングを出すための基準となる数字だ。「打率」という指標は、19世紀半ば、史上初のスポーツライターといわれるヘンリー・チャドウィックが考案した。打率(安打数÷打数)ができたことで、試合数、打数が異なる打者の優劣の比較ができるようになった。

19世紀の野球では選手数は少なく、全選手が試合に出るのが当たり前だった。その時期は打率も、対象者全員の記録を比較すればよかった。しかし、選手数が増え、レギュラーと控えの別ができてくると、ランキングを作成するうえで不都合なことが増えてきた。10打数で5安打、打率.500を打った打者は、100打数で35安打、打率.350を打った打者より上だといえるのか?

そこでランキングは一定以上の試合に出場した選手に限定しようということになり、MLBでは打者は「全試合中3分の2以上出場」という基準が設けられた。この基準は長く用いられたが「規定試合数」という基準では、打者によって打数のばらつきが出る。

1942年、ナショナル・リーグ、ボストン・ブレーブスのアーニー・ロンバルディは、チームの試合数150試合の70%にあたる105試合に出場、規定試合数はクリアしていたが捕手のため交代が多かった。打撃成績は309打数102安打、打率.330。ナ・リーグではセントルイス・カーディナルスのエノス・スローターが591打数188安打、打率.319だったが、当時の基準では規定試合数に達していたロンバルディが首位打者になった。

1957年から「規定打席」を導入することが決まり、「試合数×3.1」という基準に

しかし、倍近い打数のスローターのほうが打者として優秀ではないか、という議論が起き1950年からは「規定打数」となり「400」という基準が設けられた。

だが、1954年、ボストン・レッドソックスのテッド・ウィリアムズは386打数133安打、打率.345だったが、四死球が137あり規定打数の400に達しなかった。このために、555打数189安打、打率.341でクリーブランド・インディアンスのボビー・アビーラが首位打者になった。

選球眼が優秀で投手にも恐れられた最強打者、ウィリアムズが首位打者でないのはおかしいという議論が再び起こり1957年から「規定打席」を導入することが決まった。そして「試合数×3.1」という基準が設けられた。この基準は、今も適用されている。

NPBでも1956年までは「規定打数」だった。1957年からはMLBに倣って「規定打席」。さらに1959年から原則として「試合数×3.1」という基準になった。

それ以前の記録を調べると、1952年、近鉄の甲斐友治は303打数99安打、打率.327で打率2位になっている。この年の「規定打数」が300だったためにぎりぎりランクインしたが、打席数は318。近鉄はこの年108試合だから「試合数×3.1」の「規定打席」であれば、ランク外だったことになる。

規定打席は、現在も「打率」「長打率」「出塁率」などの選定基準となっている。過去には2例、規定打席ちょうどでの首位打者が出ている。1975年、太平洋の白仁天(379打数121安打 打率.319)と1991年ロッテの平井光親(353打数111安打 打率.314)だ。ともに130試合制での規定打席403ちょうどだった。

NPBでは2軍で過去10人の打者が「規定打席未達」で首位打者に

公認野球規則9.22には、「必要な打席数に満たない打者でも、その不足数を打数として加算し、なお最高の打率、長打率、出塁率になった場合には、この打者がリーグの首位打者、最高長打率打者、最高出塁率打者となる」とある。

規定打席に未達でも首位打者になる可能性があるのだ。NPBの1軍では、この例が適用されたことはないが、2軍では過去10人の打者が「規定打席未達」で首位打者になっている。

MLBでは1996年、サンディエゴ・パドレスのトニー・グウィンが498打席451打数159安打、打率.353をマーク。規定打席は502だから4打席足りなかったが、4打数を足してもグウィンの打率は.349で規定打席以上の打率1位のコロラド・ロッキーズのエリス・バークスの.344を上回ったため、グウィンを首位打者とした。以後、このルールは「グウィンルール」と呼ばれるようになった。

2012年、サンフランシスコ・ジャイアンツのメルキー・カブレラが501打席459打数159安打、打率.3464を記録。規定打席には1打席足りなかったが、1打数を足しても打率.3456でありジャイアンツのチームメイト、バスター・ポージーの打率.336を上回り、グウィンルール2例目の適用となり首位打者になるはずだった。しかし、カブレラはこの年8月、ドーピングで50試合の出場停止処分を受けていた。規定打席未達はこのためだった。カブレラは首位打者になる権利を放棄、MLB機構もこれを了承し、ポージーが首位打者になった。

なおマイナーリーグの規定打席は、「試合数×2.7」となっている。日本のイースタン、ウエスタン両リーグもこの基準で選定している。大学野球では、東京六大学は「試合数×3.1」だが他には「試合数×3.0」のリーグもあり、リーグによってばらばらだ。

規定打席はレギュラー選手の証である。プロ入りしたすべての打者は「まずは規定打席入り」と考えるものだ。今季のNPBは120試合。規定打席は372となる。またMLBは60試合なので186となる。今年の打率ランキングはどんなものになるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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