【高校野球】プロ注目最速143キロ左腕、享栄・上田 甲子園中止も些細な出来事「それが僕の価値観」

享栄(愛知)のエース・上田洸太朗【写真:荒川祐史】

U-15で世界一、12球団のスカウトが熱視線を送る最速143キロ左腕

第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まり、約1か月。代替大会、引退試合、上の舞台、将来の夢……。球児たちも気持ちを切り替え、新たな目標に向かってそれぞれのスタートを切っている。新型コロナウイルスは彼らから何を奪い、何を与えたのか。Full-Countでは連載企画「#このままじゃ終われない」で球児一人ひとりの今を伝えていく。

5月20日、日本高野連による夏の選手権大会中止が発表された。全国4000校の球児が一様に落胆にくれたその日、享栄(愛知)のエース・上田洸太朗投手(3年)はすでに先を見ていた。

「高卒でプロに行くことは中学3年のときには決めていた。選抜が中止になった時点で夏の大会もなくなるかもしれないという覚悟はしてましたし、どちらにせよ自分がやらなきゃいけないことは変わらない。中止発表の前の自粛期間から、気持ちは甲子園よりもその先に向かってました」

中学時代は富山・高岡ボーイズでプレー。米国で開催されたU-15では世界一にも輝いた。地元の強豪・高岡商業に進むか、私学4強がひしめく激戦区の愛知にその身を投じるか。代表で世代トップクラスのメンバーと世界の頂点に立った中学時代の上田に、迷いはなかった。

「甲子園出場を目指すのであれば地元に残ってもよかった。実際、高岡商ならチャンスはいくらでもあったと思う。でも、甲子園に出てその先があるのかを考えたとき、自分のなかでは愛知だった。野球王国といわれる188校がしのぎを削る環境で、自分の力を試したかった」

享栄(愛知)のエース・上田洸太朗【写真:荒川祐史】

勝気なドラフト候補と全国制覇監督とを結んだ不思議な縁

進んだ先は私学4強の一角でありながら、夏の甲子園出場を24年間逃し続けている享栄。今はライバル校の中京大中京で全国制覇の経験もある大藤監督が率いているが、名将との出会いも不思議な縁によるものだ。

「最初は他の高校に行くつもりだったんですが、そこのセレクションの帰りに寄った焼肉屋がたまたま享栄OBの方がやっているお店で。壁に飾られた写真から話が弾んで気づけば……という感じ。その焼肉屋に行ってなければたぶん享栄に来ることもなかった。大藤先生は自分が1年のときに電撃赴任してこられて、自分も新聞で読むまでは知らなかった。(中京大中京で全国制覇した)2009年の甲子園ももちろんテレビで見てましたよ。自分は同じ北陸の日本文理を応援してましたけどね(笑い)」

今では週に1度の当直日に決まって風呂場で背中を流すという恩師の元で実力を蓄え、春には左腕ながら143キロを記録。すでに12球団のスカウトが視察に訪れるなど、押しも押されぬドラフト候補に成長した。卒業後の確固たる目標がある上田にとっては、前代未聞の甲子園中止も些細な出来事に過ぎない。

「こんなことを同級生に言ったら怒られますけど、僕の目標は子どものころからプロ野球で、甲子園はそこに続く小さい階段のひとつ。甲子園に出るのがすべてではないというのが僕の価値観なんです。中止発表翌日のミーティングでは下を向くチームメートもいましたが、僕はその時点で、もうチームではなく個人で動くときがきたんだと思っていた。言い方は悪いですが、もう人に構ってる時間はない。ここからは自分の夢のために動きださなきゃと」

聖地への未練など微塵も感じさせず、自らの言葉で信念を語った上田。“甲子園は通過点”。全国4000校のなか、そう言い切る球児がいたっていい。

【動画】絶品のスライダーは必見 最速143キロ、侍U15で世界一経験の享栄のエース・上田洸太朗のブルペン映像

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(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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