非情な半夏雨

 夏至から数えて11日目を半夏生(はんげしょう)といい、今年は今月1日がその日だった。この時分に降る大雨を半夏(はんげ)雨(あめ)と称し、壱岐ではそれが縮まって、古くは「はげあめ」と呼んだらしい▲今の半夏雨といったら「猛烈」くらいでは言い表せない。熊本県南部を襲った豪雨で、家屋が茶色の水に漬かったさまに言葉を失う。非情というほかない▲14人が死亡した球磨村の特別養護老人ホームでは、近くの川の水が窓ガラスを割って流れ込み、水かさが一気に増した。階上に運ぼうと、職員や地元の人が高齢の入居者の体をつかんだが、濁流は首まで来ていたという。持ちこたえられず、手が離れた▲川の水が、数分で何メートルも上がってくる-。思えば、福岡県朝倉市を中心に甚大な被害が出た3年前の九州北部豪雨も、死者数が220人を超えた2年前の西日本豪雨も、今の時期の半夏雨であり、水の恐ろしさを際立たせた▲本県にはきのう大雨特別警報が出され、きょう朝方まで最大級の警戒を要する。「早め早めの避難」の教訓を生かしつつ、避難場所では「密」を避け、人と人との間隔を空ける工夫も要る▲きょうは七夕で、自分や親しい人にまつわる願い事をする日なのに、身の守り方をいっそう考え、豪雨の怖さに震える誰かの無事を祈る日になった。非情な空を仰ぎ見る。(徹)

 


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