猛虎はついに目覚めたか? 史上最悪の開幕から「逆襲の始まり」へ、カギを握るのは…

セ・リーグ最速タイ記録で、球団史上初の屈辱。開幕12戦で10敗を喫し、厳しい船出となった阪神タイガースだったが、続く広島カープには2連勝を果たした。猛虎は目覚めたのか――?「スポーツニッポン(スポニチ)」で11年阪神担当記者を務める遠藤礼氏にこの現状をどのように見ているのか伝えてもらった。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

開幕12戦で10敗は、球団史上初の屈辱スタート

関西スポーツ紙の「日常」は阪神タイガースによって彩られるといっても過言ではない。勝利した翌日の紙面には立役者たちの固有名詞が1面から3面まで見出しとなって派手に躍る。活躍を伝える“ヒーロー原稿”の執筆は、記者にとって最も熱が入る。今年はそんな時間が開幕からなかなか訪れなかった。

虎はいきなりつまずいた。開幕カードで巨人にスイープされると、ヤクルト、DeNAにも1勝2敗。続く中日には早くも今季2度目となる同一カード3連敗を喫し、4カードを終えて2勝10敗と大きく出遅れた。7月3日付のスポニチも「借金8」が、2019年から指揮を執る矢野燿大監督にとってワーストとなることを1面で報じた。

良くも悪くも命運を握るボーアと、定位置に戻った近本

これだけ負けが込むと、要因は一つに絞り込むことはできないが一時、平均得点2点と低調だった打線も一つ。中核を担う男の不振が響いた。メジャーリーグ92発の実績を引っ提げ不動の4番として期待されたジャスティン・ボーアは開幕から18打席無安打と苦しみ、3戦目に6番へ降格し、左腕の今永昇太との対戦だった7戦目には早くもスタメン落ち。これはスタイルだと思うが、ファーストストライクを見逃す場面が多く、成績が伴わないことで「消極的」と見られた。7月1日の中日戦で岡田俊哉から今季1号を放ったものの、4カードを終えた時点で打率.184、1本塁打、2打点。4番空転の影響は少なからずあった。

そんな低迷の象徴だった大砲が、一瞬にして救世主と化して1面を飾ったのは5日の広島戦。1対1の3回1死満塁で遠藤淳志の甘く入ったチェンジアップをすくい上げた打球は、右翼スタンド中段へ特大の弧を描いて着弾。ライトの鈴木誠也もその場で振り向くことしかできない“メジャー級”のグランドスラムで勝ち越したチームは、今季初の連勝、カード勝ち越しを決めた。この日は大山悠輔、ジェリー・サンズにも一発が飛び出すなど8得点で快勝。前日も15安打9得点でボーアは来日初の3安打を記録していた。良くも悪くも、今年はボーアが命運を握る――。そう感じさせる開幕からの2週間だった。

脇を固める面々も浮き沈みは激しかった。開幕2番でスタートした近本光司もその一人。3戦目には昨年から慣れ親しむ1番に戻り、その試合で先頭打者アーチをかけ意地を見せたものの、打率1割台の低空飛行を続けた。それでも、4日の広島戦では3打数3安打3打点1盗塁でヒーローに。盗塁はすでにリーグトップの5盗塁と自慢の快足は健在。当面は1番に固定されそうなだけに、得点圏に進んだ近本をボーアら中軸がいかにホームへ迎え入れることができるかが、平均得点アップを左右しそうだ。

梅野隆太郎は開幕から正捕手の座を約束されずとも…

そして、忘れてはいけないのは梅野隆太郎。負けが込む中で、29歳が見せつけた地力に希望を見たファンも多かった。開幕シリーズで先発マスクは1試合のみと、2年連続ゴールデングラブ賞を手にした正妻の心中は穏やかではなかったはずだ。それでも、開幕直前に「自分はそういうのをはね返していかないといけない」という言葉を体現するように与えられた出場機会で最大限の力を発揮。盗塁阻止率はいまだ10割で打率.361、2本塁打とバットでも結果を残し、打順は6番にまで上がった。2日には併用されていた坂本誠志朗が2軍へ降格。捕手は、代打の切り札としての役割も担う原口文仁との2人体制となり、今後は梅野の先発マスクが格段に増えていく。下位打線に「打てる捕手」がどっしり座れば、厚みが増す。

3年連続で救援防御率1位のブルペン陣に復活の兆しは?

一方で投手陣に目を移せば、近年、チームの“看板”だったブルペン陣に不安がのぞく。勝利の一角を担う藤川球児、岩崎優は万全なコンディションで開幕を迎えられず状態が上がってくるのはこれからだ。右肩痛を発症したジョン・エドワーズ、守屋功輝の離脱も痛い。2017年から3年連続で救援防御率リーグ1位を堅持してきたように、勝ちパターンだけでなく、劣勢で起用される投手の質も高いのが過去3年の特徴。たとえリードされていても、2番手以降の投手が僅差を保って終盤の逆転劇を演出することも少なくない。そんな“ストロングスタイル”が今は発揮できないでいる。開幕から3戦連続でクオリティースタートの西勇輝、チームを初勝利に導いた青柳晃洋らがバトンを託す終盤、特に7回を担う岩崎がキーマン。打者の左右関係なく、回を跨いでの起用も可能な左腕の完全復調とフル回転がチーム上昇の証しになる。

逆襲を加速させる存在はファームにもいる。若きエース候補の髙橋遥人は3日の2軍戦で故障から実戦復帰を果たし、夏場の昇格を目指している。そして、何といっても昨年キャリア初の0勝に終わった藤浪晋太郎の2020年がどんなものになるのか。新型コロナウイルス感染、遅刻での2軍降格、右胸の故障……。負の連鎖にはまり続ける男の長らく目にしていない1軍マウンドでの躍動がもたらす力は計り知れない。5日の2軍戦で5回無安打無失点。故障者枠を外れ、昇格争いに加わってきた。

楽観はできなくても、今は悲観する必要もない。苦しみながらも前へ進み、牙を研いでいる猛虎。他球団に襲いかかり、疾走する「その時」を待つ。

<了>

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