またも予測を覆した! 天才監督・湯浅政明による全く新しいアニメ版『日本沈没2020』

『日本沈没2020』©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

2020年を揺るがした大厄災も去りつつある(はず)だが、一息ついたその瞬間にフッと「一難去ってまた一難」という言葉が頭をよぎる人もいるであろう。遠くからバッタが攻めてくるという声もあるが(アフリカで発生したバッタ巨大群がインド・中国に迫りつつある)、日本人の“運命”として避けられないのが地震である。「災害は忘れた頃にやってくる」の通り、東北大震災の記憶がやや風化しつつあるタイミングで突如現れたNetflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』だ。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

アニメーションの企画から完成までテレビシリーズで2~3年、劇場作品であれば3年~5年はかかる。したがって、この作品の企画は間違いなく今から2年以上前にあったはずで、湯浅政明監督のNetflixでの前作『DEVILMAN crybaby』がリリースされた2018年1月には既にスタートしていたと思われる。これは単に私の推測であるが、おそらくその際には同じ小松左京原作の戦慄パンデミック小説『復活の日』(1980年に深作欣二監督で映画化されて大ヒット、邦画興行ベストテン2位となった)が候補に挙がっていてもおかしくなかったはずである。もしこの作品が今回選ばれていたら、余りのタイミングに果たして日の目を見ていたかどうか……。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

日本映画の『日本沈没』とは明らかに違っている

『日本沈没』は過去3回映像化されている。1973年と2006年の映画化、1974年のテレビドラマ化である。映画は邦画興行ベストテンのそれぞれ1位と4位を記録する大ヒットとなり、TV放送でも初回21.3%の好視聴率を稼いだが、この3作に共通しているのは、日本沈没というショッキングな出来事を生々しく描いたスペクタクル巨編ということである。

特に1973年の映画版はプロデューサーを『ゴジラ』の生みの親である田中友幸、特撮監督を円谷英二の直弟子・中野昭慶が務めたこともあり、壮大なスペクタクルシーンが売り物のアクション巨編となった。2006年版では特撮に変わってCGアニメーションが多用されているものの、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)で特撮を担当した樋口真嗣が監督を務めていることもあって、やはり特撮系の流れを組む、壮大なパニックアクションに仕上がっている。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

行方が予測できない展開

だが、初のアニメ化となった今回の2020年版を見るにあたって、過去作の記憶は一旦捨て去ってもいいだろう。原作や映画からは最低限の設定しか継承されておらず、ある意味「シン・日本沈没」とも言える全く新しい装いの作品になっているからだ。もちろん、今回はあらゆる表現が可能なアニメ版という事情が大きいのであるが、それ以上に監督の資質が大きく影響しているのは、作品冒頭に登場する主題歌が大貫妙子&坂本龍一ということからも分かる。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

『日本沈没2020』を楽しむためには1973年版と2006年版の映画は必見としても、残念ながらストーリーを予見する手立てとはならない。予測できない展開に身を委ねながら、むしろその違いを楽しんだ方が正しいかも知れない。中でも一番大きな違いは、未曾有の天変地異を見据える視線であろう。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

首相以下国家の首脳陣が雁首揃えて日本の運命を憂う、といったディザスタームービーではなく、ストーリーの中心となるのはオリンピックを目指すアスリート女子の武藤歩、ゲーム好きの剛の姉弟をはじめとしたオリジナルキャラクターである。以前の映画からはかなりアップデートがなされており、現在の日本を考える上でのキーワードもふんだんに入っている。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

才人監督・湯浅政明

過去の実績からしてもヒットして当然とみられる『日本沈没2020』であるが、今回の注目ポイントはズバリ、湯浅政明監督にある。美術学科を卒業して1987年にドラえもんや忍たま乱太郎を制作している亜細亜堂に入社した湯浅政明は、数年後には映画『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992年)の挿入歌「1969年のドラッグレース」(大瀧詠一)、「買い物ブギ」(笠置シズ子)を演出・作画し、さくらももこに「とんでもないことを次々と思いつく」と評された。

そんな湯浅が業界で一気に注目されるようになったのが、初期の劇場版『クレヨンしんちゃん』(1993年~)である。設定デザインを担当したその世界観は、頭の中がどうなっているのか分からないと言われるほどユニークなものであり、劇場版しんちゃんの快進撃を支えた。

予測を裏切るのは湯浅監督のお家芸

湯浅監督で驚いたのは、突然のハイエンド作品『マインド・ゲーム』(2004年)。えっ、こんなのやるんだ!? と思った作品が、毎日映画コンクール大藤信郎賞は獲るわ、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞は獲るわ、ファンタジア国際映画祭でアニメーション部門優秀賞は獲るは、である。

もっと驚いたのが2006年のTVアニメ『ケモノヅメ』(初のオリジナル作品が食人鬼かよ)。そして2008年の『カイバ』(これもオリジナル。記憶を失ったまま宇宙の星々を巡る手塚風キャラ)と翻弄されっぱなしの次が、深夜アニメのゴールデンタイム、ノイタミナ枠の『四畳半神話大系』(2010年)だ。

……と思う間もなく、またファミリーに戻ってクレヨンしんちゃんのスピンオフ作品「SHIN-MEN」、そして流行のクラウドファンディング作品『キックハート』(2013年)に手を出したと思ったら、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)である。

さらにカートゥーン ネットワークの『アドベンチャー・タイム』(2010~2018年)を軽くこなし、その後が映画2本、次は何だと思ったら、なんとNetflixのあの問題作『DEVILMAN crybaby』。そして、すぐに青春オリジナル映画『きみと、波にのれたら』(2019年)を発表、このまま映画に行くと思ったら、TVで『映像研には手を出すな!』(2020年)という傑作を創ってしまった(個人的には今年のTVアニメNo.1!)。

また2021年公開予定の、平安時代を舞台とした能楽師が主人公のミュージカル映画『犬王』を粛々と制作していると信じ込んでいたら、なんと『日本沈没2020』をやっていたのだ。2017年から2020年の前半にかけて、映画3本にTVシリーズ1本、それにTVより重いWEB作品、軽いWEB作品を制作しながら、なんと超ヘビー級の大作『日本沈没2020』シリーズ10話を創っていたとは、驚かすのもいい加減にして欲しい(笑)。これだけの作品を創り続けている監督は実写もアニメも含め湯浅政明しかおらず、脂が乗りきっている証拠なのであろう。

筆者作成

『日本沈没2020』の火山列島となった日本が、日々地形を変えながら沈没していくという、息もつかせない事態の中で、気が付くと最終話に到達していることに気がつく。もちろん、もし日本が本当にそうなったら自分はどうするか? という問いも脳内に発せられたままだ。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』 ©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

そんな心情におかれつつ、最後に出会うエンディングはおそらく過去作と一番異なるところである。ここにこそ、本作に対する湯浅監督の熱いメッセージが込められているのだが、果たして支持されるか、あるいは拒絶されるのか、はたまた賛否両論となるか全く予測できない。日本沈没の先に果たして未来はあるのか、是非その目で確かめて欲しい。

『日本沈没2020』©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

文:増田弘道

『日本沈没2020』はNetflixで2020年7月9日(木)より全世界独占配信

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