【レビュー】不器用な男が踊る、可笑しくも切ない人生というダンス―『サンダーロード』

1人の男が監督・脚本・編集・音楽・主演の5役をこなしたワンカット12分の短編映画が2016年サンダンス映画祭でグランプリを受賞した。

それから2年の時を経て、新しく長編映画として生まれ変わったのが本作品。

今回も短編同様5役をこなすのがジム・カミングス。

彼の名前と才能はこれからもっと広く知れ渡るだろう――。

映画はテキサス州の警官として働く主人公ジムが母親の葬儀に参列している場面から始まる。

涙に声を詰まらせながら何とかスピーチをこなしたジム。

母親の好きだったブルース・スプリングスティーンの名曲“涙のサンダーロード”を流してダンスを披露する予定だったが、カセットの故障によりやむなく無音でダンスを披露してみせる。

葬儀の参列者を前に、無音で警官が踊るシーンの長回しは滑稽だし何ともシュールだ。

この奇行ともとれるダンスは、別居中の妻との親権争いで不利な証拠映像として扱われてしまうが、物語の感動的な終盤への大きな布石にもなっている。

主人公ジムのキャラクターが何とも愛おしい。

感情のコントロールが効かなくなる泣き虫であり、家庭でも仕事でも不器用を絵に描いたような男だ。

冒頭の葬儀でのカセット、夫婦関係、職場での信頼、友情、自宅の冷蔵庫、子供との関係、この映画では主人公の周りのいろんなモノが壊れる。

まさに愛する母を失って悲しむジムの不安定な心を投影してるかのように・・・

それでも泣き言をこぼしながら前へ進もうと悪戦苦闘する主人公には、決して憎めない温かさと親近感が宿る。

とにかく全編通して主人公のキャラクターの絶妙なさじ加減、冷静さと感情の吐露を行き来する演技、表裏一体の悲哀と笑い、これら全てにセンスと才能がにじみ出ている。

そして、たとえ不器用な主人公を当初はどこか傍観していたとしても、最後には、人が辿る喪失と再生の軌跡や受け継がれる親子愛に、きっと深く心を打たれることだろう。

『サンダーロード』

■監督・脚本:ジム・カミングス
■撮影:ローウェル・A・マイヤー
■編集:ジム・カミングス、ブライアン・ヴァンヌッチ
■出演:ジム・カミングス、ケンドール・ファー、ニカン・ロビンソン、メイコン・ブレア 他

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