「IchigoJamBASIC」「Lチカ」「カムロボ」「ドローン」……前原小学校が実践したプログラミング授業の全容公開!

前回の最後に、今回は「『全部IchigoJamBASIC』のプログラミング体系&カリキュラムの真髄をお話しします。ご期待ください」と書きました。ではさっそく、その全容を見ていきましょう。

その他の【松田孝の「プログラミング教育の夜明け」】はこちら

これが前原のプログラミング授業体系 !!

以下に示す図が、私が校長職にあった前原小で3年の歳月をかけ、教職員と一緒になって試行錯誤しながらも編み出してきたプログラミングの授業体系です。

※ここに至る私の学校づくりの記については、拙著「学校を変えた最強のプログラミング教育」に詳しく述べてあります。ご興味ある方はぜひともお読みください。

この体系は、まさに文科省の「小学校プログラミング教育の手引き(第二版)」で示されたC分類の内容を、校内研究において総合的な学習の時間における探究活動として行った実践を基に、創り上げました。その特色を一言で言えば、「教科でのプログラミングではなく、プログラミングで教科の学び」、そしてその活動をすべてIchigoJamBASICというプログラミング言語で貫くことで、他に類を見ない、まさに異彩を放つプログラミング体系&カリキュラムとなっています。

前原のプログラミング授業体系〜全部 IchigoJamBASIC〜

異彩というよりは異様 !?

初めて上記の体系図を見た方は、その異様さに驚かれると思います。本年度4月からの新学習指導要領の全面実施に向けて、先行的にプログラミング教育を実践してきた自治体では、それぞれ特色あるプログラミングカリキュラムを作成し、公表しています。

ICTを活用した教育実践では全国のオピニオンリーダーであるつくば市では「 」を刊行して、市内のすべての学校で共通に実践する「コアカリキュラム」とそれを発展させた各学校のオリジナル実践を「オリジナルカリキュラム」として紹介しています。そしてこれに基づくプログラミング学習を全小学校において、2018年度(平成30年度)より必修化しました。手引きは版を重ね、現在は第3版となっています。

つくばプログラミングWEB|やってみよう!プログラミング

相模原市では2017年度(平成29年度)よりすべての小学校でプログラミング授業を4年生の算数で実施しているという。そして今年の3月には教育センターにおけるプロジェクト研究の成果を基に「 」をまとめ上げ、中学校段階までの9年間の中で、プログラミング教育で育てる資質・能力を系統的に考えたプログラミング授業例を紹介しています。

岡崎市では、小学校6年間で8教科24単元の系統的なプログラミング学習に取り組むことで、子どもたちの論理的思考力や情報活用能力の育成を目指す「岡崎市プログラミング学習モデルカリキュラム」を作成し、公表しました。すべての教員がプログラミング授業を実施できるように独自に作成した「学習指導案」「ワークシート」「教材プログラム」「操作説明動画」の「授業づくり4点セット」を準備している点に、大きなオリジナリティがあるとしています。

この他、未来の学びコンソーシアムが運営するポータルサイト「 」では、全国におけるプログラミング教育の取り組み事例が紹介されています。4月末に公開されたサイトには、北海道道立教育研究所、先に紹介した相模原市教育センター、宮城県総合教育センター、岡山県総合教育センター、鹿児島県総合教育センターのリンクが貼られ、それぞれの取り組みを参照できるようになっています。

プログラミング教育に関する教育委員会等の取り組み例

みな創意工夫のあるプログラミング教育のカリキュラムであり、新学習指導要領において学習の基盤となる資質・能力とされた情報活用能力をしっかりと育もうとする中でプログラミングの授業を位置づけようとしています。

いずれもが「学習指導要領」「同解説」「プログラミング教育の手引き(第一版)」と続く流れの中で、教科などの学習においてプログラミング体験を行い、プログラミング的思考を育みながら、教科のねらいをもしっかりと達成しようとする王道のカリキュラムとなっています。ですからこれらカリキュラムにおいては、前回取り上げた「プログラミング教育の手引き(第二版)」への改訂は、方針の大転換などではなく、第一版の拡充としての理解ゆえに、そのほとんどが教科などでの実践事例となっているのは致し方ありません。

これら、王道のプログラミング教育のカリキュラムと比べたとき、はたして前原のプログラミングの授業体系は異彩などというよりは、まさに異様であって、もしかしたらそれは異端に映るのかもしれません。

2軸(プログラミング言語の記述方法と発達段階)で授業を体系化

異様、異端とも思われる前原のプログラミング授業体系ですが、ここでその見方(読み方)を説明します。

縦軸には「コンピュータとのコミュニケーション ビジュアル→→テキスト」がとられています。これはまさに授業で扱うプログラミング言語、つまりはプログラミングの記述の仕方がビジュアルからテキストへ移行していくのだということを表しています。横軸には「学年」をとって子どもたちの発達段階を示すことで、縦軸と横軸の交差上にIchigoJamBASICを活用した適切なプログラミング授業を位置づけようとしたのです。

この図を一覧すれば、低、中、高学年で子どもたちがどのようなプログラミング体験を行うのかが視覚的にわかります。

低学年 IchigoJamBASIC(カード型) + Lチカ + カムロボ

低学年では、IchigoJamBASICのビジュアル版言語であるCutlery Apps(カード型)を扱ってLチカやロボットのプログラミングを行います。

Lチカプログラミングで使用する4連Lチカ基板(M01)は、前原小のプログラミング授業実践に深く関わっていただいた松田(まった)優一氏が代表取締役を務めるナチュラルスタイル社のオリジナル商品で、低学年の子どもたちが初めてプログラミングを行うのにパソコンとの接続を含めた準備や作ったプログラムを楽しむには極めて秀逸な教材です。この商品の開発には前原小でCutlery Appsを使ったプログラミングの研究授業が大いに関係していますが、この秘話については、次回お話しさせてください。

ロボットは、やはりナチュラルスタイル社がIchigoJamBASICで動くよう改造したタミヤ製のカムプログラミングロボット(以下、カムロボ)を使用します。

中学年 IchigoJamBASIC + カムロボ

中学年では、ビジュアルなCutlery Apps(カード型)からテキストによるIchigoJamBASICのプログラミングへ移行して、カムロボをセンサー制御します。赤外線センサーで自動運転に挑戦したり、色センサーでライントレースをしたりします。加速度センサーを使って、キャタピラーで動くカムロボならではの3次元的な動きの制御も子どもたちにとっては、魅力的なプログラミング体験になると考えます。

カムロボをセンサー制御するために、テキストによるプログラミングへの移行は子どもたちにとっては必然というより切実です。Cutlery Appsではできないセンサー制御のプログラミングが、テキストではできるのですから。また3年生からローマ字学習が始まることも考えれば、テキストプログラミングへの移行は絶好のタイミングだと考えます。

高学年 ドローン

高学年ではさらに通信によってドローンを飛ばすプログラミングを行います。IoTど真ん中の社会を生きる子どもたちにとって、ドローン飛行をプログラミングする体験は、新しい社会におけるドローン活用の可能性やその飛行ルールなどをはじめとするさまざまな課題を身近なものとして意識させることになります。

4連Lチカ基板(M01)、カムロボ、ドローンを制御するフィジカルプログラミングは、子どもたちに試行錯誤の中で、集中力や友達との協働の楽しさを体験させるに十分魅力ある学習活動を創り出していきます。

4連Lチカ基板(M01)
カムロボ
ドローン

そして6年生で行うサイバー空間でのプログラミングは、それまでのフィジカルプログラミングが原体験となって、子どもたちをしてテキストで記述したプログラムの実行がイメージし易くなるとともに、より複雑なプログラムの作成を促していきます。

たとえば三角関数などの考え方を使ったプログラミングが、コンピュータによる表現にとって極めて有効であることを実感すれば、たとえ小学生であっても自らそれを学び、それぞれの興味関心をもって単に三角関数の理解にとどまることなく、そこに創造性を加えたSTEAM教育の理念を具現化していくのです。

子どもたちの発達とキャリアを考えた授業体系

図には高学年の先に、JavaScriptの文字が見えます。6年生の後半から中学生にかけては、IchigoJam BASICのプログラミングから、プロも使用するJavaScriptを言語として扱ってみてはどうかという提案がここにあります。

JavaScriptについては、前原小では総合的な学習の時間に5、6年生の希望者(20名)が、松田(まった)優一氏が作成したテキストで学んだ経験があります。筆者が校長職最後の年の3学期のプログラミングは、子どもたちの興味や習熟を考慮していくつかの講座を設け、学年・学級の枠を外して自由に選択させて実施しました。5、6年生については開設した6つの講座の中に、JavaScriptのプログラミングを設け、そこに希望してきた子どもたちは極めて意欲的に取り組んだのでした。

そんな経験もあり、また中学、高校で実施される「技術・家庭科」や「情報I」におけるプログラミング内容を考えれば、子どもたちが扱う言語はテキストであるのはもちろんですが、BASICからJavaScriptへ移行していくことが、むしろ必要なのではないかとすら考え始めているのです。

王道のカリキュラムと比したとき、一見すれば異様、異端とさえ映るこの体系図ですが、ここには、子どもたちがさまざまなプログラミング体験(試行錯誤と協働)を通して、その技能を習得するとともにSociety5.0を生きるに必須の資質・能力であるDigital LiteracyとIntelligenceをしっかりと育んで欲しいという願いが込められています。

次回は、この体系を創る原点となったCutleryAppsの話と4連Lチカ基板(M01)の開発秘話をお話しすることで、引き続きこの体系の真髄を明らかにし、次次回は体系図に見る前原小のプログラミングの3つの特色についてお話ししようと考えています。さらにご期待ください。

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