【高校野球】鳴り響いたファンファーレに応える4本塁打 北海道で実現した吹奏楽と野球部の絆

浦河高校吹奏楽部の演奏の様子【写真提供:浦河高校写真部】

北海道浦河町で行われた浦河対鵡川の練習試合で両校の華麗な演奏が実現

高校野球のスタンド応援を彩る吹奏楽。コロナ禍により今夏は耳にすることができないと思っていたが、北海道浦河町で行われた浦河対鵡川の練習試合で両校の華麗な演奏が繰り広げられた。

本来なら夏の南北海道大会室蘭支部予選開幕日だった6月27日、浦河高校のグラウンドに競馬のファンファーレが鳴り響いた。演奏するのは浦河の吹奏楽部。馬産地という地域色を生かしたファンファーレは、野球部の応援に欠かせない鉄板レパートリーだ。30人を超える部員の壮大な演奏を耳にした町民が一人二人と吸い寄せられるようにグラウンドに集まって来る。時節柄事前告知は一切していなかったが、100人以上が観戦に訪れ、ちょっとしたイベントになった。

鵡川の吹奏楽部も負けていない。野球部強化と同時に創部して過去3度甲子園で演奏しただけに、野球部の応援は特別だ。選手一人一人のリクエストに応じて応援曲を用意。部員8人にOB3人も加わり、心を込めて応援した。鈴木楓香部長(3年)は「すごく楽しかったです。みんなで演奏したくてもできない中、貴重な場をいただき、思い出に残る日になりました」と笑顔を見せた。

浦河の吹奏楽部3年生の思いが形になった。「コロナで演奏ができない中、機会をいただけませんか」と野球部の阿部健太監督に相談したことがきっかけだった。浦河のグラウンドは道路側のネットが低いため、これまで1度も練習試合を行ったことがなく、全て相手校に出向いて試合をしていた。ただ、今年の夏季北海道大会は無観客で開催される。阿部監督は「大々的にはできないが、野球部に関わってくれた方々に何とか見せられないか」と自校での練習試合開催を模索。保護者が簡易ネットを手作りで設置し、過去に合同練習するなど縁のある鵡川に声をかけた。

鵡川高校吹奏楽部の演奏の様子【写真提供:鵡川高校野球部】

応援の力に選手たちも応える、鵡川に3本、浦河に1本の計4本塁打が飛び出す

2002年春の甲子園に21世紀枠で出場した時のエースだった鵡川の鬼海将一監督は二つ返事で引き受けた。「ネットの設置が難しかったら、ケージを置いたままで試合をしてもいい。僕らはいつも町の方たちから力をもらい、育ててもらっている。浦河の選手にもぜひ(町民から)見られるという経験をしてもらいたい」と快諾した。

さらに、浦河の吹奏楽部が参戦すると聞いた鵡川の吹奏楽部員たちも胸を高鳴らせた。吹奏楽の大会は全て中止となったため、演奏の場を切望していた。当日の天気予報は雨だったため、てるてる坊主をつくって乗り込むほど楽しみにしていた。

野球部と吹奏楽部だけではない。浦河の写真部員もレンズを構えて、格好の被写体を追った。話を聞きつけた野球部OBが当日の運営を手伝い、父母たちはアルコール消毒を用意して観戦に来た人にマスク着用を呼びかけるなど安全策に奔走。様々な人たちが協力し、心温まる手作りの交流戦となった。

応援の力は絶大だった。試合は鵡川に3本、浦河に1本の本塁打が飛び出した。「見たこともないようなホームラン。100%応援に後押しされました」と鵡川の鬼海監督は目を見張る。「高校野球に関わっているのは選手だけじゃない。単に試合があればいいという発想ではなく、(安全に)できる方法を探して、見られる中でやらせてあげたい」と夏休みにむかわ町で交流戦を開催すべく動き始めた。

11日に開幕する夏季北海道高校野球大会は無観客で開催されるため、吹奏楽部が球場に駆けつけることはできない。鵡川吹奏楽部の青野貴文顧問は「中庭コンサートをできないか考えています。毎年(野球部の)全校応援の練習がありましたが、今年はありません。(事前に)中庭で応援を演奏して、聞いてもらうのもありかなと思っています」と代替案を検討している。吹奏楽部の鈴木部長は「今回は行けないけれど、吹奏楽が応援していると思って頑張ってね」と野球部員にメッセージを送る。その言葉を聞いた鵡川野球部の阿部柊希主将は「球場にいなくてもパワーになる。その思いを感じながらプレーしたい」とうなずいた。

【動画】気持ちのこもった演奏が選手を後押し 浦河対鵡川の練習試合での両校吹奏楽部の演奏の様子

#浦河 #鵡川 #北海道
練習試合で吹奏楽部の応援。
代替大会では無観客になるため、両校の申し合わせで実現。応援は選手を強くする。試合では本塁打も多く飛び出しました。#高校野球 pic.twitter.com/Y5lFXEVgpz

— Full-Count (@Fullcountc2) July 8, 2020

【動画】気持ちのこもった演奏が選手を後押し 浦河対鵡川の練習試合での両校吹奏楽部の演奏の様子 signature

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

© 株式会社Creative2