事故などの緊急事態発生時、ボタン1つで対応をサポート
ちょっと想像してみよう。土地勘のない道をクルマで走っているときに、事故に遭遇したとしたら。
警察を呼びたいけれど、場所もよくわからない状況で110番通報してスムーズに状況を伝える自信はあるだろうか? 知らない場所だったら、夜間だったら、ひとりだったら。そんな時は心細くなりがちだけど、しっかり対応できるだろうか。けが人がいたら、警察だけでなく救急車の手配もしなければならない。あせらず、冷静に119番をダイヤルして救急車を呼ぶことができるだろうか?
そんなとき、もしボタンひとつで緊急時専門のオペレーターにつながり、オペレーターが警察屋救急車の手配など緊急対応のサポートしてくれたら安心だろう。
さらに、もっと大きな事故を起こしてしまったらどうなるか。負傷状態によっては一刻一秒を争うが、もしドライバー自身も大きなダメージを受けて意識を失って、自分で110番や119番通報ができない状況になるかもしれない。その時、どうやって命を守るべきか。
そんなとき、事故被害に応じてドライバーの操作なしに自動で緊急事態を誰かに連絡。それを受けてオペレーターが警察や救急車、状況によってはドクターカーやドクターヘリまで手配してくれる仕掛けがあったら、より安心したカーライフが送れるのではないだろうか。
軽自動車にも採用され始めている非常時緊急通報サービス「ヘルプネット」
実は、最新の一部のクルマではそんな仕掛けが提供されている。しかも、軽自動車でも採用車種があるといえば、驚く人も多いことだろう。
システム名称は「ヘルプネット」。非常時の緊急通報サービスとして官民連携でシステムが構築され、全国すべての警察本部とほとんどの消防本部(人口カバー率9割程度)の指令センターとの接続が可能になっている。緊急時の状況にあわせ、オペレーターが関連機関への通報や緊急車両手配をサポートしてくれるのだ。オペレーターにはクルマの位置情報や車両情報も発信される。だから場所が分からなくても、正確にパトカーや救急車など緊急車両を手配できるのも強みだ。
クルマからオペレーターに接続する方法のひとつはドライバーからも助手席からも手が届く前席中央頭上などに用意された緊急ボタンを押すことだが、それだけに限らない。クルマが大きなダメージを受けるような事故の際には、ドライバーが操作しなくても自動的にオペレーターへ発報する機能が組み込まれている。エアバッグの展開をきっかけとして、緊急事態を伝えるのだ。
その際は、緊急自動通報システム「D-Call net」として車両から位置情報だけでなくシートベルトの着用状況、さらに衝突の方向や衝突の激しさも情報として送信。情報を車種ごとにあらかじめシミュレーションされたデータに当てはめ、乗員の死亡重症確率も計算される。そのデータに基づき、状況に応じてドクターカーやドクターヘリの手配もおこなう、命を守るサービスといっていい。
さらにこのサービスは、事故はもちろん、怪我や急病、そして水没などの緊急時、さらにはいわゆるあおり運転などの犯罪被害時にも使えるのだから心強い。
現在、軽自動車で対応しているのは「ルークス」と「デイズ」のみ
そんなヘルプネットは、現時点では、トヨタ、ホンダ、日産、そしてマツダの一部車種が対応している。軽自動車に注目している本連載として声を大にしていいたいのは、軽自動車にも採用があることだ。日産が「デイズ」と「ルークス」に「SOSコール」として標準装備、もしくはオプションとして一部グレードで展開しているのである(利用開始にはサービス登録などが必要)。
「デイズ」の場合は利用を前提とした販売店オプションのカーナビを取り付ける必要があるが、デビューのタイミングが遅いルークスではナビ機能と切り離してシステムを構築。専用の通信ユニットも車両に組み込んでいるので、ナビの装着有無に関係なく利用できるのがうれしい。ルークスにおいては利用も、新車登録から10年間は通信費用も含めて無料で使えるのだから太っ腹だ。
現時点では日産以外の軽自動車への採用はないが、今後は広がることに期待したい。
欧州ではすでに義務化されている命を守る先進のシステム
ちなみに、こういった緊急通報システムは欧州においてはすでに義務化され、すべての新車に組み込まれている。理由はもちろん、ひとりでも多くの命を交通事故から救うことだ。
クルマを使う上で事故のリスクは避けて通れないが、少なくない数のドライバーは緊急時に冷静に110番や119番通報して状況を伝えることが難しいだろう。
そんな時にドライバーや乗員をフォローして安心をあたえ、命を守る先進のシステムを軽自動車にも組み込めることは覚えておきたい。
[筆者:工藤 貴宏]