神奈川県小田原市の企業がユニークな制度を始めた。その名も「小田原手当」。同市を含む県西部に住む社員に月額2万円の手当を支給するものだ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの普及で、生活環境や社員同士のコミュニケーションの重要性を再認識。自然豊かな小田原を拠点に社内の結束強化を図ろうとしている。
スマートフォンアクセサリーの開発・販売などを手掛ける東証1部上場の「Hamee」(同市栄町、樋口敦士社長)は5月から、県西部2市8町に居住する正社員に「小田原手当」の支給を始めた。制度は昨年から検討され、新型コロナが導入を後押しした。小田原本社に約200人、東京や大阪、海外の拠点に30~40人いる社員のうち、手当対象者は約100人という。
感染防止のため、2月から社員の9割がリモートワークとなり、現在も続いている。ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」などを活用し、業務そのものに支障はない。だが社員間のつながりや、ちょっとした雑談から生まれるアイデアを大事にしてきた社風の同社にとって、パソコン画面を介してこうした雰囲気を培うのは難しかった。
そこで本社を気軽に立ち寄れる拠点とするため、職住接近できる環境を整えれば、社員同士のコミュニケーション機会も増えるのではと考えた。小田原は創業の地でもある上、都内の喧噪(けんそう)から離れ仕事に集中でき、オフィスなどの維持コストも低いなどの利点が多い。一方、新幹線を使えば30分で都心に出られる「程よい距離」にもある。
今年の新入社員11人中10人が小田原に新居を求めた。30代が一番多い同社の社員にとって、自然豊かで子育て環境にも適している小田原は働きやすい土地だという。
リモートワークの普及で都市部ではオフィス不要論も聞かれる中、同社担当者は「オフィスがなければ会社への帰属意識もなくなる。今だからこそオフィスの存在意義を考えたい」と話す。
同社にとってオフィスは社員が思いをぶつけ合い、よりよいアイデアを生み出す場であり、親睦を図る社内交流の場でもある。「企業としてもちろん進化・成長したいが、社員が集まることで地域活性化にも貢献できれば」と相乗効果も期待している。