新型コロナウイルス:アフリカ連合も懸念、ワクチンへのアクセスを阻む特許や技術移転の壁

MSFが運営する新型コロナウイルス感染症治療センター(ニジェール) © Nathalie San Gil/MSF

MSFが運営する新型コロナウイルス感染症治療センター(ニジェール) © Nathalie San Gil/MSF

2020年6月30日、アフリカ連合(AU)加盟国の保健大臣は、「新型コロナウイルスのワクチン開発とアクセスに関する会議」の終了後に共同声明を発表。特許や技術移転の障壁により、新型コロナウイルスのワクチンが途上国に行きわたりにくくなる、という懸念を露わにした。声明はまた、公衆衛生上必要な場合、各国政府は早急に知的財産権の壁を取り払う政治的・法的手段を講じなければならないと強調している。

 

これとは全く対照的に、製薬企業と一部の国際保健関連機関のこれまでの発言には、知的財産権がワクチン入手の大きな足かせになることはないという誤った主張が見受けられる。㍳の声明はこの点について重要な指摘を行うものとなった。

肺炎球菌やヒトパピローマウイルスのワクチンの価格を巡る過去の事例から、特許や技術移転の障壁がワクチン開発の全工程に影響し得ること、また、市場独占により途上国へのワクチン導入に遅れが生じ得ることは明らかだ。新型コロナウイルスのワクチンを十分な数量で製造し、世界中に迅速に供給するためには多くの製造者が必要だが、そのためには、ワクチンの製造に必要な全ての科学技術・知的財産・データが開示され、世界規模で使用・製造・供給する権利が多くの製造者に認められなければならない。

 

各国はその実現を目指し、法的・政治的手段の限りを尽くすべきというのが、AUの主張だ。

㍳声明の骨子

●特許などの知的財産権、企業秘密、その他の技術的なノウハウに関する障壁が、これまで途上国が購入可能な価格でのワクチン導入を阻み、遅らせてきたと認識している。

 

●この認識のもと、新型コロナウイルスのワクチン入手を妨げる市場独占を回避するには、各国が『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)』とドーハ宣言で明文化された融通性や、南南協力・北南協力などの法的・政治的手段の限りを尽くすことが急務である。

 

●そして、新型コロナウイルス対応に関する第73回世界保健機関(WHO)総会決議の勧告に従い、全ての関連技術・知的財産・データ・ノウハウが公開され早急に利用可能になるよう、また、多様な地域において速やかな生産拡大が可能になるよう、TRIPS協定の定める融通性などを活用し、あらゆる障壁を取り除くことを全ての国に呼びかける。

国境なき医師団(MSF)南アフリカ共和国 アクセス・キャンペーン担当 キャンディス・セホマの談話

アクセス・キャンペーン担当のキャンディス・セホマ© Jelle Krings/MSF

アクセス・キャンペーン担当の
キャンディス・セホマ
© Jelle Krings/MSF

  「アフリカの指導者たちが、今後登場が期待される新型コロナウイルスのワクチンの自国での入手可能性に、特許その他の知的財産権が及ぼし得る影響を認識していると明言したことは心強い限りです。MSFは今回の声明で示されたリーダーシップに感銘を受けています。

その最たるものは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)への対応を進めてきたアフリカ疾病予防管理センター(アフリカCDC)でしょう。特許その他の知的財産権が、途上国が新しいワクチンを入手することを阻むという事実は、あまりにも長きにわたり、あからさまに否定されてきました。

そして、新型コロナウイルスのワクチンについても、国際保健機関の関係者や製薬業界の一部が政策立案や情報発信の中でいまだにそんな否定とごまかしを続けているのです。途上国のワクチン生産のための全面的な技術移転に向けた約束は今のところほとんどなく、知的財産権の壁を取り除くための具体的な施策も依然として講じられていません。

過去の経験から、特許権が新興メーカーの市場参入を制限し、普及を遅らせ、アフリカのように資源の限られた国々で新しいワクチンの価格と供給に深刻な悪影響をもたらし得ることはわかっています。特許権には何らの問題もないふりをして、特定の製薬企業に高額なワクチンの対価を過剰に支払ってきた過去を繰り返し、その二の舞を演じるわけにはいきません。世界には今、これから開発されるどの新型コロナウイルス・ワクチンにも、不当な私的支配による普及の遅れを許す余裕などないのです。

アフリカの指導者たちが自らの発した勧告を法的措置によって行動に移し、新型コロナウイルスのワクチンが知的財産権に阻まれることなく迅速に人びとの手に届くことを、私たちは願っています」

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