次に狙うは王位、そして最年少での二冠 将棋の藤井七段が17歳11カ月でタイトル獲得

最年少タイトルを獲得し、色紙を手に笑顔の藤井聡太新棋聖=16日夜、大阪市の関西将棋会館

 将棋の第91期棋聖戦5番勝負の第4局が16日、大阪市の関西将棋会館で指され、高校生プロの藤井聡太七段が渡辺明棋聖を破り、3勝1敗で初タイトルとなる棋聖を獲得した。史上最年少となる17歳11カ月のタイトル保持者が誕生した。これまでの記録は1990年に棋聖を獲得した屋敷伸之九段の18歳6カ月だった。

 藤井七段は中学2年だった2016年10月に史上最年少の14歳2カ月でプロ入りして以来、次々と最年少記録を塗り替えてきた。藤井七段以外に中学生でプロ棋士になったのは羽生善治九段ら4人。いずれも何度もタイトルを獲得している将棋史に名を残す〝レジェンド〟ばかりだ。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽初挑戦で初タイトル

初タイトルの名人位を獲得して笑みを浮かべる谷川浩司八段=1983年6月15日撮影、箱根・ホテル花月園

 藤井七段より前に中学生プロ棋士になったのは、加藤一二三・九段(14歳7カ月)と谷川浩司九段(14歳8カ月)、羽生九段(15歳2カ月)、渡辺明・二冠(15歳11カ月)。このうち、谷川九段と羽生九段の2人が初挑戦でタイトルを獲得した。

 谷川九段は1976年にプロ入りした。21歳だった83年の第41期名人戦で加藤九段と対戦。4勝2敗で名人を獲得した。翌年も名人位を防衛すると、タイトルを次々と得る。これまでの獲得期数27は歴代4位だ。

 初タイトルとなった名人戦はこれまでに5期保持し「17世名人」の資格を得ている。これは引退後に襲位する。

 羽生九段は85年にプロ入り。89年に初めて挑戦した第2期竜王戦を19歳で制した。90年代に入ると圧倒的な強さを見せる。96年2月には将棋界で初の全7タイトル(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)を独占した。

 2017年12月の竜王戦で勝利して「永世竜王」の資格を獲得。永世称号の規定がある七つのタイトル(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)全てを手にする「永世七冠」を史上初めて達成した。

 通算獲得期数は歴代1位の99を数え、前人未到の通算100期の実現に期待が掛かっている。19年6月に1433勝を挙げて、故大山康晴15世名人の記録を27年ぶりに更新した。日本将棋連盟のホームページによると、7月16日現在で通算勝利数を1461まで伸ばしている。

 残してきた輝かしい実績が評価され、18年には将棋界で初めてとなる国民栄誉賞を受賞した。

国民栄誉賞授与式で、安倍晋三首相から盾を受け取る将棋の羽生善治氏=2018年3月13日午後、首相官邸

 ▽15年目での初戴冠

 渡辺二冠は2000年にプロ棋士になった。03年第51期王座戦でタイトルに挑んだが、羽生九段に惜敗した。20歳となった翌04年の第17期竜王戦で森内俊之九段を破る。藤井七段に敗れ棋聖こそ失ったものの、二冠(棋王、王将)を保持している。これまでに獲得したタイトルは歴代5位の25期だ。

第91期棋聖戦5番勝負の第4局で藤井聡太七段に敗れた渡辺明棋聖=16日午後、大阪市の関西将棋会館(日本将棋連盟提供)

 一方、藤井七段に破られるまで最年少プロ入り記録を持っていた加藤九段は苦労した。

 1954年に史上初の中学生プロ棋士となった加藤九段がタイトルに初めて挑戦したのは60年の第19期名人戦だった。

 戦前の35年に始まった名人戦はタイトル戦の中で一番長い歴史を誇る。竜王位とともに将棋界の頂点とされているタイトルだ。加藤九段は史上最年少の20歳3カ月で故大山15世名人に挑んだものの敗れた。

 60年代は歴代2位の通算獲得80期を誇り「昭和の大棋士」と呼ばれた故大山15世名人の全盛期と重なったこともあり、なかなかタイトルに手が届かなかった。6度目のタイトル挑戦となった1982年の第7期十段(現在の竜王)戦で故大山15世名人を倒した。加藤九段は当時、29歳。プロ15年目でようやくつかんだタイトルだった。

 加藤九段はその後、名人を含む通算8期のタイトルを獲得した。これは歴代9位の獲得数だ。

 ▽王位戦でも戴冠の可能性

 藤井七段はプロ入り後も順調に歩んでいる。16年12月24日のプロデビュー戦で当時76歳で現役最年長だった加藤九段に勝利すると、翌17年7月に敗れるまで公式戦の新記録となる29連勝を飾った。これは、1987年に神谷広志八段が樹立した28連勝を30年ぶりに塗り替える快挙だった。

デビュー戦となった竜王戦6組で現役最年長の加藤一二三・九段(右)を破った藤井聡太四段=2016年12月、東京都渋谷区の将棋会館

 2018年2月1日に五段へ昇段すると、同17日には中学生初の六段昇段を果たす。3カ月後の5月18日に七段へ昇段した。プロ入り後、1年6カ月という「スピード出世」だ。プロ入り後から七段昇格までの最短記録は加藤九段の2年8カ月だったのでいかに早いかが分かる。

 18年12月には、16年10月にプロとなって最速(2年2カ月)、最年少(16歳4カ月)、最高勝率(8割4分7厘)で公式戦通算100勝を挙げた。日本将棋連盟の記録では、中学生の時にプロ入りした棋士、永世称号獲得者の中でこれまでの最速、最年少は羽生善治九段の2年3カ月、17歳6カ月だった。

 このように藤井七段は中学生でプロ棋士となった他の4人を上回るペースで成長している。

 次に狙うのは、史上最年長で初タイトルを手にし「中年の星」と話題を呼んだ木村一基(きむら・かずき)王位に挑んでいる王位戦7番勝負だ。これまでに2局が行われ、藤井七段が2連勝している。

 初タイトルによって得た自信でさらに勢いを増すであろう藤井七段が最年少での二冠を達成できるかに注目だ。

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