『名前のないデザイン』Works That Work編集部編 社会環境が生み出した創意工夫

 輸送コンテナ。そう、あの無骨な鋼鉄製の箱が世界の運輸だけでなく、製造や国際交易のシステム、船、港、工場のデザインを根底から変えたというのだ。冒頭から意表を突かれた。コンテナ、すごいぞ。

 デザインはアーティストやデザイナーだけのものではない。日常生活や社会環境が必要に応じて生み出した工夫や営みにも独創的な意匠が宿る。現場から生まれた思いがけない創造性をテーマに世界各地の事例を伝えて国際的評価を得たオランダ発「Works That Work」誌(2013〜2017年)。その主要記事を独自に編集した。

 コンテナに続いて、ライブ会場などで見かけるスチール製の柵が登場する。1950年代にフランスで作られ、群衆の動きを抑止するバリケードとして世界に広まった。よじ登りにくく、連結した柵はなかなか外れないため、デモや観衆の制御に威力を発揮し、警備のための動員数削減に大いに貢献した。

 この辺りまではわかる。記事は既成のデザインの概念をどんどんはみ出していく。

金融危機のため建設途中で放棄されたベネズエラの超高層ビルには、貧民たちが工夫を凝らして住んでいた。マニラのある街路では、パスポートから小切手まであらゆる公文書類が熟練の職人集団によって偽造されている。3回にわたり国境線が引き直され、分断された中欧の村では、鶏や犬を使ったメモのやりとりからトンネルによる物資や不法移民の移送まで、あの手この手で両側の人々が国境の壁を越えてきた。

 紹介された21の事例とカラー写真を眺めていると、世の中のあれもこれもがすべてデザインのように思え、その趣向と創意に感じ入る。ウイズコロナ時代の「ニューノーマル」を、さぁ私たちはどんなふうにデザインするか。

(グラフィック社 2500円+税)=片岡義博

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