血縁がなくても「家族」になれる! 感動の直木賞候補作

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直木賞候補の紹介シリーズ第3弾は『銀花の蔵』(新潮社)。奈良の旧家が舞台の家族小説だ。座敷童が出るという老舗の醤油蔵で育った少女が、家族が抱えてきた悲痛な過去を受け止め、大人になってゆく。ミステリアスな仕掛けもある傑作だ。

古い奈良の醤油蔵が舞台

大阪万博を2年後に控えた1968年。大阪から奈良県橿原市へ主人公、山尾銀花の一家が引越しする。父の尚孝は150年続く醤油蔵の跡取りだったが、画家になりたくて家出をした。大阪で母・美乃里と結婚して銀花が生まれた。

尚孝は絵がなかなか評価されず、失意のうちに帰郷し、ようやく跡を継ぐことになったが、小学4年生の銀花には気がかりなことがあった。美乃里には窃盗癖があり、何度注意しても直らないのだ。そのたびに銀花が後始末に追われる。父は母に甘く、「ぼんやりしてお金を払うのを忘れたんやろ。よくある話や」と気にとめない。

橿原では、尚孝の母、多鶴子がひとりで蔵を仕切っていた。気丈な多鶴子と夢見るような美乃里。食事などを巡り、美乃里の居場所は次第になくなっていった。尚孝もまた醤油蔵の仕事への関心を失っていく。

尚孝には年の離れた妹の桜子がいた。銀花にとって、ひとつ年上の叔母にあたるが、もちろん「叔母」とは呼ばせず、なにかと銀花に対抗意識を燃やす。

一年たった頃、美乃里が盗んだ一件が銀花のせいにされ、友達から絶交される。

「私はなにも悪いことをしていない。なのに、どうして泥棒扱いされなければいけないのだろう。私を泥棒にした母なんて大嫌いだ。信じてくれない友達も嫌いだ。母ばかり庇う父も嫌いだ。みんなみんな大嫌いだ。奈良になんか来なければよかった」

座敷童を見た!

蔵の守り神と言われる座敷童に心の中で「助けて下さい」と祈った。すると、着物を着た小さな男の子を見た。「座敷童を見た」と言うと、皆が驚いた。座敷童は当主にしか見えないとされてきたからだ。

混乱する多鶴子、「自分には当主になる資格がない」と失意の尚孝、「お嬢さんに見えるはずありません」と訴える杜氏。さらに桜子が追い打ちをかける。

「嘘。あんたは連れ子やんか。山尾家とは血がつながってないのに、あんたに見えるわけないやん」
「あんたがかわいそうやから黙ってただけ。でも、あんたはお兄ちゃんの子供やないの。赤ちゃんがいるのに男の子に捨てられた美乃里さんをかわいそうに思ってね、お兄ちゃんが結婚してあげたわけ」

驚きつつも「やっぱりそうなのか」と納得した銀花は、蔵で叫ぶ。

「私は山尾家とは血がつながってないそうです。だから、私のところに出てもだめなんです。父の前に出てください。お願いします」

少女の悲痛な訴えは通じるだろうか。しかし、一家にはさらなる災厄が降りかかり、家族が隠してきた秘密が一つ、またひとつと明らかになっていく。

血はつながっていなくても

やがて、多鶴子とは血がつながっていない銀花が蔵の仕事を手伝うようになる。美人とちやほやされ遊び好き男好きの桜子は家を飛び出す。対照的な二人の因縁が平成時代の物語後半の駆動力となる。

韓流ドラマでは、やたらと知らない子供や孫が突然出てきたり、DNA鑑定の場面があったりと、家族の「血」への執着が強く見られる。日本では少し不自然になりがち。どうかな? と思っていたら、作者は戦前、戦後の関西を背景に、見事に「血」の綾をつくりあげた。

その上で、「血なんてつながってなくても、私たちはこんなに『家族』だ」と、高らかに宣言する。たくましい銀花のキャラクターが魅力的だ。登場人物それぞれの影の因縁を知り、評者は珍しく落涙した。伏線になっている座敷童の秘密もきちんと回収され、ミステリーとしての完成度も高い。映像化が望まれる。

遠田さんは1966年大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。2009年『月桃夜』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位に輝く。苛烈なまでに人間の業を描きながらも、生の力強さ、美しさを感じさせる独自の世界観で知られる。他の著書に『雪の鉄樹』『冬雷』『ドライブインまほろば』『廃墟の白墨』などがある。

BOOKウォッチでは、他の直木賞候補作として、馳星周さんの『少年と犬』(文藝春秋)、今村翔吾さんの『じんかん』(講談社)、前回受賞した川越宗一さんの『熱源』(文藝春秋)を紹介済みだ。

  • 書名:銀花の蔵
  • 監修・編集・著者名: 遠田潤子 著
  • 出版社名: 新潮社
  • 出版年月日: 2020年4月25日
  • 定価: 本体1700円+税
  • 判型・ページ数: 四六判変型・325ページ
  • ISBN: 9784103198321

(BOOKウォッチ編集部)