<文化とコロナ>長崎歴史文化博物館館長 水嶋英治さん(63)インタビュー 変化し続ける意識を 無力さ感じた1カ月半

「博物館の在り方を考え直さなければならない」と話す水嶋さん=長崎市立山1丁目、長崎歴史文化博物館

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の調査によると、全世界にある9万5千の博物館のうち、今回の新型コロナウイルスで約90%が休館。また13%は永久に閉館する恐れがあるという。長崎歴史文化博物館も約1カ月半休館した。率直に言うと、その間は無力さを感じていた。
 社会教育施設としての博物館は、学校が休みになった子どもたちを本来は受け入れないといけない立場。それをできなかったのは残念だ。職員は在宅勤務になって本を読むとか論文を書くとかはできたかもしれないが、やはり現場に立たないと仕事にならない。私たちの存在価値は一体何なのかと考えさせられた。
 経済的打撃も大きいが、お金に代えられない精神的な打撃も大きかった。展覧会はわれわれにとって一つの目標だが、それが中止や延期になると、進むべき方向性を失うことになる。展覧会のための資料の借用交渉は進まず、取引先との信頼関係も失われる。
 東日本大震災でもそうだったが、こういう事態になると人命、ライフラインの確保が最優先で、文化財関係は後回しになりがちという問題もある。文化財を守ることは必要なのに社会的な同意を得られておらず、博物館を開けると批判が出る。
 発想を変えて、アフターコロナの博物館の在り方を考えなければならない。館長就任以来、外国人客への対応に取り組んできた。インバウンドは当面見込めないという話があるが、国際都市・長崎が外国との交流を放棄するというのは金看板を捨てるようなもの。数年は苦しいかもしれないが、必ずまた来てもらえる。諦めずに交流を続けたい。
 外国人、国内、修学旅行生、県民。この四つのターゲットに、それぞれ戦略を立てて取り組む。私自身これまでモヤモヤしていたが、今回のコロナでそういう考えへと腹が決まった。
 博物館運営を考える「日本ミュージアム・マネージメント学会」でも、今後の取り組みについてアンケートを実施したが意見は割れている。今すぐ博物館の在り方を議論してガイドラインを出すべきという意見もあるし、もう少し落ち着いてからという意見もある。来館者に触ってもらう体験型の展示が多い科学館は、より危機感が強いようだ。
 こういう時こそ「単館思考」ではなく、それぞれの館がネットワークで結び、協力していかなければ。県内でも、他の施設をライバル視して客を奪い合うのではなく、数館を回遊してもらうような連携体制を築くといった互助の精神でやらないとこれからの博物館運営は成り立たないだろう。豊かな歴史文化を持つ長崎では、博物館同士でもさまざまなコラボが考えられる。変化し続ける意識を持たないといけない。

 【略歴】みずしま・えいじ 1956年生まれ、横浜市出身。専門は博物館学、文化遺産学。日本科学技術振興財団企画開発部長や筑波大教授などを経て、2018年から現職。日本ミュージアム・マネージメント学会会長。

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