新型コロナ流行下の子育て、どう乗り切れば? 育児中の記者が考えた

1歳半の娘に絵本を読む筆者

 新型コロナウイルスの収束が見通せない中、子どもを保育園に通わせるかどうか―。山梨県甲府市で記者をしている私は、育休から職場復帰するにあたって、1才半の娘のことを考えて迷った。まだ感染症のことなんて理解できない幼児。多くの親が、私と同じように仕事と育児を両立するために試行錯誤していることだろう。様々な不安がある中、子どもとどう向き合えばいいか。預かる保育園側の本音は。自分の経験を振り返りながら、現状を乗り切るヒントを探った。(共同通信=小林智都)

 ▽仕事復帰

 山梨県では3月下旬から新型コロナ感染者が増え始め、4月7日、甲府市が各保育所に対し登園を自粛させるよう要請した。

 子どもを登園させなかったが、私自身は5月中旬から週3日で仕事に復帰した。私が仕事中は夫が自宅で子どもを世話していたが、夫の仕事状況から、自宅での育児が難しくなり、収束を待たず登園させることを決断した。

子育て中の筆者

 自粛解除を受け5月末に登園を始め、私も本格的に仕事復帰した。「もし娘が感染したら」。不安を抱えながらの日々が始まった。

 ▽仕事を辞めたママも

 子育て世帯を支援するフォスターライフ(山梨県南アルプス市)が4月、インターネット上で実施したアンケートでは、コロナで困っていることとして、492人中約4割の189人が「休校、休園していること」と答え、「仕事状況」と「経済面」が続いた。

 実際、私の周りでも困難に直面する家庭がある。特別養護老人ホームに正社員として勤め、女児を出産した甲府市の女性(42)は、特養側に市からの登園自粛要請を受け育休を延長したいと伝えると、「復帰できる見込みがないなら、支えるのは難しい」と暗に辞職を迫られた。

 特養側は外国人実習生で人手が足りていたからか、パートとしてデイサービスなどの業務に従事することを提案。女性は会社との交渉に疲弊したことに加え、自粛が解除されるまでは子どもを登園させたくなかったことから4月に辞職した。今後新しく仕事を探す予定だが「第2波が来て登園を自粛させた場合、職場で同じことが繰り返されると思うと両立は難しい」と嘆く。

一緒に本を読む市川真理さんと子どもたち

 「24時間一緒にいると、お互いにストレスがたまってしまうんです」。そう明かすのは、甲府市で知人からアパートの管理業務を請け負っている市川真理(いちかわ・まり)さん(35)だ。登園自粛要請が出ている間も長男の蒼一郎(そういちろう)くん(4)と長女の琴葉(ことは)ちゃん(2)を幼稚園に行かせる決断をした。登園させないこともできたが、子育て支援センターは閉館し公園にも行けない。「子どもの行き場がなく、自宅で2人の元気をどこで発散させればいいか分からなかった」

 幼稚園に通わせることへの不安は今もあるが「東京都と同様に感染者が増えたら、また考え直す」。今家族が幸せに過ごせることを考えているという。

 ▽保育園「不安、だけど家庭を支えたい」

 甲府市にある認定こども園「こでまりこども園」の佐藤陽子(さとう・ようこ)園長は「絶対に園内にウイルスを入れてはいけないと思っていた」と不安な心境を明かす。だが「仕事を休めなかったり、ずっと子どもといることに負担を感じたりする家庭を支援することが大事」と強調する。

こでまりこども園で園児の熱を測る保育士

 園は、夜10時まで子どもを預かるサービスを提供しており、医療従事者や近くに祖父母などがおらず、両親以外に子どもを世話する人がいない家庭の子どもが多く通う。自治体の通知を受け登園自粛の要請はしたものの判断は各家庭に委ねた。

 園では緊急事態宣言中、親を園に入れず玄関で子どもを引き渡したり、昼食やおやつの時に子どもを対角線上に座らせたりして、濃厚接触を減らそうと取り組んだ。でも「子どもの後を追って消毒するわけにはいかない。できる対策をしっかりやろうと割り切った」。

 登園が通常通り再開された時のために、自粛中の家庭とはメールやビデオ会議システムでやり取りを続ける。母親から室内で工夫して遊んでいると連絡があった際は「楽しそうな遊びだね」と応えて親の育児を肯定するよう努めたという。

 佐藤園長は「親にゆとりがないと、子どもの声はちゃんと入ってこない。コロナの対策をしつつ家庭を助けることを第一に考えたい」と語った。

 ▽「子どもを信じて」

 恵泉女学園大学の大日向雅美(おおひなた・まさみ)学長(発達心理学)によると、3歳ごろになると、親の会話やテレビを聞いて、不安な様子が分かるようになる。家族や他人との信頼関係を築くのに大事な年頃で「『汚いのはウイルスで、お友達や先生じゃないよ。ウイルスばいばいするためにしっかり手を洗おうね』などと声をかけてあげてほしい」と強調する。

 登園させることを不安に感じた場合は、保育園や自治体に対策を確認し、自分が納得する防止策を取ることが大切とした上で「子どもの生命力は思っているよりも強い。子育てをする中で親は『大抵のことは大丈夫だ』と思うことも必要」と話す。

こでまりこども園で手洗いする園児ら

 小児科医の榊原洋一(さかきはら・よういち)お茶の水大名誉教授は「あまり心配しすぎないで」と呼び掛ける。アメリカの小児科学会の学術雑誌が掲載した、中国の18歳未満2143人のコロナの症例を分析した結果などから、子どもが感染してもほとんどが軽症で死亡例はわずかと明らかになっていると指摘。「大変な状況でも、親が元気なら子どもも元気。手洗いなど基本的な対策をしっかりした上で、『かからないようにするけど、かかってしまったら仕方がない』くらいの気持ちでいてほしい」と話した。

 ▽取材を終えて

 「心配しすぎだ」と夫によく言われる。私は娘が鼻水を垂らしていただけで心が痛くなる心配性な母親だ。それだけに、新型コロナウイルスへの不安は尽きない。仕事に復帰し、自分が感染するリスクも高くなった。でも、生活するためには働かないといけない。どの家庭も同じだと思う。

夫にごはんをねだる娘

  夫は私が「神経質になりすぎて仕事を辞めたり心が不安定になったりして、身を滅ぼすのではと心配だった」と振り返った。育休期間中、頻繁に会って子育ての苦労を共有していたママ友とも会えなくなって孤独を感じたこともあった。

 ただ、私は取材を通して「不安で大変なのは自分だけじゃないし、長い子育て期間を考えれば、コロナなんて大したことないかも」と思うことができるようになった。この記事を読んだ人が、私と同じように少しでも前向きになってくれればいいなと思う。

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