コロナ禍でフランス4万人の性産業従事者はどう影響を受けたのか

新型コロナウイルスは世界中の国々を脅かし、現時点で50万人近い人命を奪いました。加えてロックダウンの影響で、収入を絶たれた人や経済的に困難な状況に追い込まれた人が非常に多いことも、各国で問題になっています。

国は変われど、最も打撃を受けているのは社会的に弱い立場にある人々、つまり低所得者や、非正規雇用で働く人々。フランスでは、性労働者が直面している困難についても頻繁に各メディアで取り上げられています。

一方、コロナ禍中の日本では、水商売や性産業を補償の対象外とすることへの抗議が報じられました。最終的には職業の差別なく支給される運びとなりましたが、たとえ合法的な労働者や事業主であっても、性産業従事者は公の場面で偏見の被害をこうむることがあるという現実が明らかになったといえます。

連帯と寛容を掲げる国、フランスの性産業従事者の場合はどうでしょうか。コロナ禍において、会社員や自由業と同様の補償を受けることはできたのでしょうか。また性産業そのものに、新型コロナウイルスはどのような影響を与えているのでしょう。

これらの疑問を、性労働者協会連合ストラス(STRASS)会長のシベル・レスぺランス氏に投げかけました。レスペランス氏自身もセックスワーカーであり、エスコートガールとして通算6年間のキャリアがあります。2年前からは、障害者を専門に仕事をしています。


フランスで売春は合法だが購入は犯罪

──まずは、ストラスについて教えてください。

セックスワーカーの基本的人権を守るために2009年に発足した、セックスワーカーによる連合組合です。この年、欧州性産業会議(Assises européennes de la prostitution)がパリで開催され、性産業従事者やソーシャルワーカー、弁護士、社会学者などが参加し、パネルディスカッションや討論が行われました。ストラス発足時の会員数は約200人でしたが、現在はフランス全土に約600人を数えます。

パリで開催された写真展「エグザゴン」とストラス広報のアナイス・ド・ランクロ氏

──具体的な活動は?

セックスワーカーが他の労働者と同じように健康や安全の補償にアクセスできるよう、2017年に共済保険を設立しました。目下の目標は、フランスにおける買春の非犯罪化です。

──買春非犯罪化とはどういう意味でしょうか?

フランスでは売春そのものは合法ですので、自由業の登録欄には売春の項目もあります。つまり正式な届出のもとに働くことができますが、ただし、売春の斡旋行為や客がサービスを購入すること(買春)は罪になり、購入者には1,500ユーロ(約18万円)の罰金が課されます。

──売ってもいいが買うことはできないということですね。

提供は合法でも購入は犯罪行為とするいわゆるスウェーデンモデルを、フランスは2016年に導入しました。この偽善的な法律がセックスワーカーの立場を困難なものにする原因となっているため、非犯罪化を求めているのです。

この他、ストラスにはフランス全土に11の地方支部があり、暴力やハラスメント、未払いなどの被害を受けたセックスワーカーに対する弁護士の無料相談を実施してもいます。世界各国の協会と連携した活動も活発です。

マルセイユでのデモの様子

──フランスのセックスワーカーは、新型コロナウイルスの外出制限中に補償を受けることができたのでしょうか?

私自身は自由業者として申告していますので、全く問題なく月1,500ユーロ(約18万円)の連帯補償金を受け取りました。3月だけは「前年同月の50%減収」という規定に合わず未申請でしたが、4月分、5月分は他の自由業者と同じようにネット申請し、スムーズに支給を受けています。

私はカナダ出身でして、毎月収入の25%を社会保障費として納めるフランスの自由業の負担を、常々重いと感じていました。社会保障費に加え、当然ですが所得税も納めなくてはなりません。平時の負担は大きいですが、今回給付金を得られたことは大きな特権だったと思います。コロナ禍のアメリカでは、セックスワーカーは補償の対象外とされました。

──他の職業同様の補償があったというわけですね。

はい、しかし残念なことに、フランスのセックスワーカーの多くが滞在許可証や労働許可証を持たない人、つまり正規に申告しようにもその手立てがない人たちで、彼ら・彼女らは連帯補償金を申請できなかったのです。彼ら・彼女らは、平時でも弱い立場にありますが、コロナ禍のような危機においてはさらに過酷です。セックスワーカーである私たちにとってこのメカニズムは明らかでしたから、外出制限が発令されるや否やすぐにストラスのサイトとSNSで募金を呼びかけ、支援を行いました。

──つまり、不法滞在者、不法労働者であっても助けると?

誰であれ、健康や安全など、最低限の人権は保障されるべきでしょう。他人に依存することなく生きる権利も同様です。ストラスは政府に対して、滞在許可証や労働許可証を持たないセックスワーカーたちが合法的に仕事をし生活ができるよう、調整を求める運動も日頃から行っています。不法にしないことが、先ほどの性産業購入の非犯罪化と同じように、セックスワーカーを危険や差別から守る最初の一歩なのです。とはいえ、これを取り上げることは移民問題にメスを入れることになるため、実現の道のりは険しく複雑です。

性産業は、他のあらゆる職業と同じ「仕事」です。クライアントはただ単に、サービスを得るために私たちを雇用するのです。中にはとても孤独な人もいますし、障害者など特殊な事情を持つ人もこのサービスを必要としています。そうであるにもかかわらず、偏見や差別にさらされやすい職業でもある。だからこそ他のすべての職業に従事する人たちと同じ権利や保障にアクセスできるよう、手助けをしなくては。

フルタイムのセックスワーカーは約4万人

──フランスのセックスワーカーの総数は?

2013年の政府の調査では約2万人。同年の警察の公表によると、10〜20%がフランス人、80〜90%が外国人で、東欧、ロシア、アジアなどの人々でした。しかし警察の統計は路上で摘発された件数を基にしているため、実際とはかけ離れています。

例えばエスコートガールは路上に立ちません。これらはカウントされていないわけです。
性別は、2016年に国境なき医師団が公表した調査結果によると、85%が女性、10%が男性、5%がトランスです。

──そのうち何割が申告しているのでしょう?

性産業協会全体としては、フルタイムで働くセックスワーカーは 、現在フランス全土に約4万人存在すると認識しています。セックスワーカーの中には、月に2回ほど本業の収入を補足するために働くという人もいますので、こういった人を加えると総数はさらに多くなります。

4万人のフルタイムセックスワーカーの中で、申告をしている人は何割か、これを明らかにすることは困難です。というのも、職業の偏見を避けるなどの理由から、企業登録の際に売春の項目を選ばず、介護など他の業種で登録をする人が多いためです。わかっているのは、申告している人のほとんどが私のような自由業ということ。売春の斡旋は違法ですから、会社員・従業員として契約のもとに働くセックスワーカーはゼロで、もしあるとすれば、直接の性行為のないストリップやマッサージサロンなどが考えられます。

セックスワーカーへの暴力に反対する国際デーでの様子

──コロナ渦中とそれ以降では、どのような変化がありましたか?

私の経験をお話しすると、3月半ばから5月半ばまでのロックダウン中は、全く働くことができませんでした。依頼がなくなったこともありますが、クライアントを感染させないために、また自分が感染しないために、安全対策を守っていたからです。外出制限中はほとんどのセックスワーカーが、私と同じようにルールを守り仕事を自粛していました。

外出制限が解除された5月11日、早速2件の仕事が入りました。長い間一人で閉じこもっていた彼らは、人とのコンタクトを必要としていました。そして2件とも、通常は引き受けない遠距離の出張でした。

──その仕事を受けたのは仕事が減っていたからですか?

そうですね。コロナ禍以降クライアントが減っているので、出張の範囲を周辺の4県にまで増やしています。移動の時間が長くなり、1時間の仕事のために往復4時間を費やすこともありますが、やむを得ません。できるだけ2時間、3時間の依頼を得られるよう努力しつつも、やはり1時間が一般的です。

反対に、通常は断っている30分の依頼を多数引き受けることで、1日の収入を確保する対策も始めました。その場合は普段の私ではなく、別の人物として仕事をしています。なぜなら、もしクライアントが、私が安い仕事を引き受けるようになったと知ったなら、私のステイタス自体が揺らぎかねません。それを回避するために、アフターコロナの一時的な対策として、別の人物を作って仕事をしているわけです。今をしのぐことが最優先ですから。

──ルモンド紙は、客が少なくなったことを客自身が知っているために、厳しい値段交渉をするようになったと報じています。「意に染まない客の依頼も、引き受けざるを得なくなるかもしれない」という、リヨン(フランス第二の都市)のエスコートガールの言葉も伝えていました。

確かに値段は下がっています。私自身も、通常1時間約200ユーロ(約2万4,000円)のところを130ユーロ(約1万6,000円)に値下げしています。クライアントが減ったことに加え、経済状況が不安定になったことから新規参入者が増えました。需要が減り、供給が増えたわけですから、値下がり傾向は避けられません。

これとは別に、初めてストーカー行為に合いもしました。外出制限中、人々はたくさんの時間を持て余していましたから、エスコートガールの広告サイト閲覧者が非常に多かったのです。クライアントとしてリサーチするのではなく、ただ暇にまかせてエスコートガールにコンタクトをとる人が大勢いました。私たちはそんな相手にも対応しなくてはなりませんでした。

そのうちの一人が私と偽の約束をして、私がホテルに入るところを別の場所から観察していたのです。こんなことは8年前にカナダでエスコートガールを始めて以来、一度も体験したことがありませんでした。その後しばらく不安な状態が続きました。

プライベートでは極力人と接触しない

──ネガティブな影響は諸々あるものの、レスペランスさんの場合クライアントがゼロにはなっていません。感染症対策はどうされていますか?

障害者を専門とする私は、セックスワーカーとして特殊だとは思います。特殊である分、安定した顧客もいます。

ただ、クライアントが障害者であるということは、彼らは身体が弱く新型コロナウイルスの犠牲になる確率が高いわけです。感染症対策には細心の注意を払っていますし、仕事で接触がある分、仕事以外の場面、つまりプライベートでは極力人と接触しないように注意して、クライアントの安全を守るよう心がけています。

反対に、障害者に対する政府の新型コロナウイルス対策には不満を感じます。新型コロナウイルスに限らず、他の感染症が流行した時も政府は十分なケアを行わず、彼らを死ぬがままにさせたような側面がありました。

──セックスワーカーとして、今後の展望をどのように見ていますか?

現時点は新型コロナウイルスの影響で一時的にニーズが減っていますが、先ほども述べたとおりこの仕事が社会からなくなることはありません。今現在苦境に立たされているセックスワーカーのためにも、また今後私たちが他の職業に従事する人と同じ権利を持って仕事を続けてゆくためにも、この買春の非犯罪化を実現させたいと思います。つまり、2003年にニュージーランドが世界で初めて採用した政策を、フランスも導入するということです。

「どうぶつの森」上でのデモ

非犯罪化によって、正社員として働きたい人はそうできるようになりますし、ホテルから拒否されるとことなどもなくなり、安全な環境で働けるようになります。多くの科学的な調査結果が、健康を守りHIV感染を抑えるもっとも有効な手段は非犯罪化であると説明してもいます。まずは非犯罪化を実現する。これがセックスワーカーの抱えるあらゆる問題を解決するための、最初の一歩なのです。

Keiko Sumino-Leblanc / 加藤亨延

■シベル・レスぺランス

エスコートガール。カナダ出身、30代女性。スイス国境に近いサボワ地方在住。障害者専門のエスコートガールとして2年になる。この仕事を始める前に、障害者の性に耳を傾けるアソシエーションAPPASで研修を受けた。8年前カナダでエスコートガールの仕事を始め、4年前にフランスに移住した当初は英仏バイリンガルの技能を生かしwebマスターを2年間務めた。2020年4月、性労働者協会連合ストラス(STRASS)会長に就任。セックスワーカーの地位向上のために、SNSを通じた広報活動を英仏2カ国語で行っている。HIVアソシエーションAIDESのボランティア活動にも参加している。

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