EUが打ち出す「タクソノミー」はサステナブルの指標として有効か

国連は2006年に投資家に向けて環境・社会・ガバナンス(ESG)に取り組んでいる企業への投資を呼びかけたPRI(責任投資原則)を発表した。それから13年が経ち、EUは2019年にサステナブルの基準を示す「タクソノミー」を公表するなど、ここにきて持続可能な社会を目指したリスク・リターン・インパクトのバランスが取れた投資が金融機能として求められている。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、日本でもEUのタクソノミーをそのまま導入できるのか、投資インパクトをどのように評価するのかなど新たな課題が話し合われた。(松島 香織)

【Facilitator】
SB Japan Lab
サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー
サンメッセ総合研究所(Sinc)代表
田中 信康 氏

【Panelist】
大和総研 調査本部 研究主幹(セッション当時) 河口 真理子氏

サステイナリティクス
アジア・パシフィックリサーチ
リードアナリスト/アソシエイト・ディレクター 竹林 正人氏

高崎経済大学 経済学部 教授 水口 剛 氏
(50音順)

タクソノミーとは、もともと生物学の用語で「分類学」を意味する。EUが2019年6月に公表したレポート「Taxonomy Technical Report」は気候変動と緩和を対象としており、企業活動のうち何がサステナブルでサステナブルでないかを分類している。

EUには金融市場全体をサステナブルにする大きな目的があり、グリーンボンドの基準、非財務情報や投資家による情報開示は、タクソノミーが基礎となる。

「サステナブル・ブランド国際会議 2020 横浜」に登壇した高崎経済大学の水口剛教授は、「タクソノミーは分類学で企業活動をサステナブルに該当する・しないに分けることができる。しかし投資インパクトの大小は示さない。タクソノミーがあるだけでは市場は機能しない」と指摘した。

金融市場に求められる「インパクト投資」

インパクト投資とは、財務的なリターンと並行して社会や環境へのインパクトを同時に生み出すことを意図している。金融ではもともとリスクとリターンで投資の意思決定をしていたが、ここに社会や環境に対するインパクトが求められる。

「同じリスクで同じリターンならできるだけインパクトが大きいものを買いたいという行動が起き、世の中の全ての人がそう思ったらインパクトの大きいものの需要が高まる。結果、価格が上がり、その分リターンが犠牲になる。つまり、リスク・リターン・インパクトのバランスがいいものに投資しなければならない」と水口教授は説明する。

さらに水口教授は「インパクトの大小はどうやって誰が決めるのか」「そもそもインパクトを測ることはできるのか」と問題提起した。一口に「インパクト」と言っても、社会、環境、生物多様性への対応や貧困・格差への取り組みなど多岐に渡り、それぞれで数値が出せたとしても合計することはできないだろう。数値化できないからこそ市場判断に任せ、投資家がインパクトの大きいと思うものが売買され、結果としてインパクトが大きいものが選ばれているという現状がある。

その判断に必要になるのが企業からの「情報開示」であり、投資先の企業は本当にインパクトの大きい取り組みをしているのか外部評価が重要になってくる。「サステナブルファイナンスが機能するにはサステナビリティを大切にする人々の価値変化、受託者責任の意識変化、企業のパーパス変化が組み合わさることが必要。そうして持続可能な金融市場ができ上がる」と水口教授は話した。

日本でもタクソノミーによる定量データ開示が求められる

大和総研・研究主幹(本会議当時)の河口真理子氏は「タクソノミーはEUがパリ協定に対応するためにつくったもの。そのまま日本に当てはめるべきなのか」と問題提起した。

グローバルなESG投資の調査・評価を行うサステイナリティクスのリードアナリスト・竹林正人氏は、「日本企業は、サステナビリティに資するものはつくっているが、数値データとして落とし込んでいない。さらにサステナビリティに資するとしているものは、各企業自身の評価に拠っている」と課題をあげ、タクソノミーによる開示が必要になると強調した。

EUでのタクソノミーの必要性として「規制当局と投資家が有用と考える開示情報の違いがあること」「個別活動のなかで個々が自己評価しており、絶対的評価が必要であること」「定量的データによる情報開示の加速化が望まれること」をあげた。

また竹林氏は「インパクトをリスク・リターンに次ぐ第三の評価軸として統合するかは、議論の分かれるところ」としている。

一方、水口教授は「グレタ・トゥーンベリさんのようにお金だけが価値観でない世代が関わるようになれば、インパクト投資が新しいメインストリームになる可能性がある」と価値観は時代によって変化することを示唆した。

また「土地の利用、農業、食料などあらゆることが関わる生物多様性に目を向けるべき。取り組みは非常に幅が広くなりタクソノミーができるかは疑問。だが、評価しなくてはならない項目が多くあり、相当な準備が必要」と指摘した。

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