クイーンへの憧憬、ライヴエイドでもお馴染みウェンブリー・スタジアム探訪記 1985年 7月13日 アフリカ難民救済チャリティーコンサート「ライヴエイド」がロンドンとフィラデルフィアで開催された日

クイーンの思い入れもひとしお、旧ウェンブリー・スタジアム解体

It was 35 years ago today.
1985年の今日7月13日、イギリス・ロンドンとアメリカ・フィラデルフィアで、アフリカ難民救済チャリティーコンサート『ライヴエイド』が開催された。

2018年の映画『ボヘミアン・ラプソディ』のおかげでロンドンの会場ウェンブリー・スタジアムでのクイーンの印象が強くなったが、実は僕は昨年夏、34年後にして初めてウェンブリーに足を踏み入れることが出来たのである。

ご存知の方もいらっしゃると思うが、今のウェンブリー・スタジアムはライヴエイドが行われた時のものではない。1923年に開場し、1948年のロンドン・オリンピックのメインスタジアムや1966年のFIFAワールドカップの決勝戦の舞台にもなった旧スタジアムは、2000年に閉場となり2003年に取り壊された。今のスタジアムは2007年に同じ場所に建てられたものであり、ピッチの位置もほぼ同じである。

実は旧スタジアムの取り壊しを強く惜しんでいたのがクイーンの二人、ブライアン・メイとロジャー・テイラーだった。ライヴエイドで大復活を遂げたクイーンは、翌1986年の7月11日と12日(ライヴエイド一周年の前日と前々日)にもウェンブリー・スタジアムで単独ライヴを行い、計15万人を動員している。結果的にこれがフレディ・マーキュリーとの最後のツアーになったため、前年のライヴエイドと合わせて思い入れはひとしおなのであろう。

1986年のこのライヴは音源、映像共に何回かリリースされているのだが、2003年リリースの映像の完全版『ラストツアー/クイーン1986(Live at Wembley Stadium)』には “Tribute to the Wembley Towers” という3分の映像が収められている。バックにクイーンの1991年の曲「輝ける日々(These are the Days of Our Lives)が流れる中、旧スタジアムのシンボルだった2本の塔が解体される様子が早回して流れ、ブライアンとロジャーが「塔は保存すべきだった」「新しいスタジアムはこれで三流だ」と嘆くという思い入れたっぷりの映像である。ちなみに8年後の2011年に出た『25周年記念デラックス・エディション』には収められていない。

ツアーで確認、これがフレディ・マーキュリーの見た景色!

昨年2019年の8月、僕は小3の長男とイギリスに行った。そして11日(日)の晴れた午後、ウェンブリー・スタジアムのツアーに参加したのである。料金はオンライン購入で大人が17ポンド(約2,300円)、子供が10ポンド(約1,300円)であった。

いきなり僕らを迎えてくれたのが2つの塔も目に入る旧ウェンブリー・スタジアムの400分の1の模型だった。続いて案内された場所にはウェンブリーで行われたイベントの模様がディスプレイされていたのだが、ここでもフー・ファイターズやロジャー・ウォーターズの新スタジアム組と共に、ライヴエイド、クイーン、ローリング・ストーンズといった旧スタジアム組も紹介されていた。歴史は確かに繋がっていると僕は少しく安堵した。

そして僕らは早くも2階スタンドに案内された。正面から見てやや右手から入場。目にも鮮やかな芝生の緑と座席の赤が目に飛び込んでくる。左と右、ステージはどっちにあったのか。若い黒人男性ガイドのジョークも入った軽妙な説明に耳を傾ける。エド・シーランやアデルのステージは右手にあったとのこと。

トークが終わるや否や、彼にライヴエイドのステージはどっちだったかと尋ねるとやはり右手だった。すかさず僕は息子と右手に走り、かつてステージがあったと思われるところまで行き急いで写真を撮った。スタジアムこそ変わったものの、これがフレディやデヴィッド・ボウイやポール・マッカートニーの見た景色なのだ!

やはり実際に立ってみると映像よりは少しコンパクトな印象を受けた。そして真夏にもかかわらずやはり空気が軽かった。こんな中でライヴエイドは行われたのだろうと想像するに十分。胸がいっぱいになった。

「Hey Boys!」そんな所まで行き過ぎだとガイドの彼に呼ばれ、僕ら親子は急いで戻った。他のツアー客は誰もここまで来ていなかった。

ウェンブリー・スタジアムはサッカーファンだけのものじゃない

その後ツアーはドレッシング・ルームや記者会見場といったサッカー関係の施設を回り、FAカップと記念写真を撮ったりもした。途中通路に過去のライヴの写真やポスターが飾られていたものの、このツアーは基本的にサッカーファンのためのもので、どうやら他のツアー客は全てサッカーファンだった。我々親子はサッカーへの関心は高くなく、記者会見場で座って写真が撮れた時にも、我々だけが撮らずじまいだった。

しまいには、件のガイド君に「楽しんでる?」と声を掛けられる始末。僕が「サッカーには詳しくないんだけど、音楽ファンとして、クイーンファンとして、ここには来なくてはならなかった」と返したら納得してもらえたようだった。

そんな中、選手と同様にピッチに入場することが出来る機会があり、この時ばかりはライヴエイドの観客よろしく、ピッチ… もといアリーナ上手方向からステージの方を眺めてみた。一瞬フレディが見えた気がした。

終わってみたら、このイギリス旅行の中でも指折りで印象に残る体験となった。やはり同じ場所に立ってみることは大事。晴れた中でのあの空気の軽さは忘れられない。

そんなウェンブリーも新型コロナ禍で今は閉鎖中。少なくとも今月末までは続くそうだ。ライヴエイド35周年の日にスタジアムが閉鎖中とは少しせつない。

『ボヘミアン・ラプソディ』も観ていない息子がなぜ同行してくれたかというと、昨秋発売されたゲーム『ポケットモンスター ソード・シールド』で新ウェンブリーをモデルにしたと言われる、上方にアーチのかかったスタジアムが出てくるからであった。

そしてやはり昨秋公開されたビートルズをテーマにした映画『イエスタデイ』もクライマックスは新ウェンブリーで撮影された。

新しいウェンブリー・スタジアムも、少しずつエンタメ界で足跡を残しつつある。

カタリベ: 宮木宣嗣

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