なぜ鷹は今季初の3連勝をできたのか? 悔しさ乗り越え楽天打線封じた甲斐拓也の“変化”

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

日本ハムとの3試合でスタメンから外されていた甲斐

12日の楽天戦に6-1で快勝し今季初の3連勝としたソフトバンク。先発の石川が7回2安打1失点と好投するなど、投打の歯車が噛み合った。有観客試合が再開されてから3連勝。首位を走ってきた楽天に4勝2敗で勝ち越しに成功し、勝率を5割に戻した。

ここまで強烈な強さを見せていた楽天を相手に手にした3連勝の意味は大きい。10日は東浜が1安打1失点と力投し、柳田が劇的なサヨナラ弾。11日は二保の粘投、松田宣の同点弾や明石の決勝打と役者たちが働いた。そして12日は石川の快投と柳田の先制弾などによる完勝だった。

柳田、東浜、松田宣、二保、明石、そして石川……。この3連勝で活躍した選手は数多い。ただ、その中で忘れてほしくないのは存在がいる。捕手の甲斐拓也だ。

3連勝するまでの甲斐は苦しい状況にあった。正捕手として開幕を迎えながら、チームは波に乗れずにいた。2度の3連敗があり、7月の日本ハム戦では2年目の野村にサヨナラ打を浴びる敗戦があった。リード面を槍玉に挙げられ、翌日の7月3日と4日は高谷が、5日には九鬼が先発マスクを被り、甲斐は3試合連続でスタメンを外された。

甲斐にとって、この3試合は堪えたことだろう。思うように結果が出ずに痛打を食らい、そして、ベンチで試合を眺めることになった。さらには8日の楽天戦でも12失点を喫し、再びスタメンから外れた。翌日、ベンチで試合を見つめるその手には大きなノートが握られ、必死にメモを取る姿があった。

同じ球種を続け、勝負の決め球で初めての球種を要求する大胆さが見えた

そして、この3試合だ。明らかに甲斐のリードに変化が感じられた。印象的だった場面はいくつもある。10日で言えば、特にモイネロが登板した8回。150キロ中盤の真っ直ぐを内と外に配しつつ、徹底して130キロ台中盤で鋭く斜めに変化するスライダーで攻めた。ところが、最後の最後、浅村を見逃し三振に斬ったところで使ったのは、この日初めて投じた127キロのカーブだった。

11日の試合では、まず二保がフォーシームを多投した。これまでの2度の登板では、投じたストレート系のボールはほとんとがツーシームだったが、この日は先頭の茂木にいきなり2球連続でフォーシーム。さらにはブラッシュ、浅村にもフォーシームを投げた。二保によれば、試合前からフォーシームを多めに使うことを、甲斐との間で話していたという。

2回に内田に3ランを浴びたが、これは外角に要求したボールが逆球となりど真ん中へ入ったもの。二保の投げミスだった。3回以降は楽天打線にフォーシームの存在を印象付け、武器であるツーシーム、そしてチェンジアップ、フォークと2種類の縦の変化球を使い分け翻弄した。7回には、それまでと一変し、徹底してフォークで攻め続けた。

そしてモイネロが登板した8回だ。1死二塁で迎えたブラッシュにはストレート、スライダーを徹底してインコースへ。最後もインコースへのスライダーで空振り三振に仕留めた。浅村を申告敬遠で歩かせて迎えた島内には、スライダーとストレートで追い込み、最後は前日同様にカーブ。この日初めて投じる球種でバットに空を斬らせた。

リードに正解はない、それでも必死に考え導き出した思考の跡が見える配球

12日の試合でも4回のブラッシュの打席で4球連続でパワーカーブを要求。追い込むと、一転して147キロの真っ直ぐ。ブラッシュのバットは敢えなく空を斬った。石川は試合後に「カーブを続けるのは今日面白い配球だな、と思いましたね」と振り返っていた。

もちろん捕手がどれだけリードしたとしても、打たれる時は打たれるもの。リードに正解はなく、抑えれば称賛され、打たれれば酷評される、捕手は難しいポジションだ。それでも、時に1つの球種を徹底して要求し、時にインコースを攻め続け、相手打線を翻弄した。必死に考え、そして導き出した思考の跡が見える配球だったのではないだろうか。

楽天との6試合を終えた工藤公康監督も甲斐のリードについて「傾向がしっかり見えて、その場その場でどこにどのボールを投げて意識させれば、どうなるか、というのが見えてきている部分があるんじゃないかと思う。ピッチャーもそこに投げないといけないというのがあるんですが、そこもピタッとハマったように思います」と評価した。

甲斐には、ここまでの敗戦で厳しい言葉も上がっていた。ただ、それを正面から懸命に受け止めた。「負けが続けば、捕手の責任という見られ方をするポジション。そういうポジションをやっている限りは受け止めないといけないと思っています」。悔しさを味わい、そこに立ち向かう。思考と意志、覚悟が見えた3試合だったのではないだろうか。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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