鐘よ鳴り響け

 NHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデル、古関裕而(こせきゆうじ)(1909~88年)は長崎の歌を最も多く手掛けた作曲家という。本紙が75年に出版した「長崎の歌謡史」には古関が21曲でトップ、とある▲古関の自伝「鐘よ鳴り響け」によると、長崎を初めて訪れたのは35年。福島生まれの青年は南国の香りと異国情緒の街並みに魅了された▲戦後は「雨のオランダ坂」「長崎盆踊り歌」などを作曲した。そして49年、あの「長崎の鐘」を生み出す▲被爆医師・永井隆博士の同名随筆をモチーフにサトウハチローが作詞、藤山一郎の絶唱と相まって「詩、曲、歌が混然一体」(長崎の歌謡史)となった名曲が世に送り出された▲古関は戦時中に多くの軍歌を手掛け、終戦後には批判も浴びた。戦災に打ちひしがれた人々の再起を願い書き上げたのが「長崎の鐘」だった。常に「大衆の理解者であり同情者」(自伝)であろうとした古関だからこそ生まれたメロディーといっていい▲随筆「長崎の鐘」の結びで、永井博士は2人の子と共に浦上天主堂の鐘を聞き、浦上を世界最後の原子野に、と祈る。いつ読んでも胸を打たれる場面だ。被爆75年。ドラマで歌が再び脚光を浴びるとともに、博士と被爆地の願いもまた、清らかな鐘のように日本中に響けばいい。(潤)

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